他者の記憶を覗くことのできる女子高生・澄花ちゃんと、永い時を生きる眼鏡屋の魔法使い・新淵さん。
この二人を中心に展開していく、心温まるヒューマンドラマです。
人と違う力を持つ澄花ちゃんの苦しさが丁寧に描かれ、深く共感しました。
他人の過去、それに触れることの怖さ、ひいては他人と関わることの難しさ……
例え不思議な力を持たなくとも、誰かと関係を作っていく中で生まれる距離感は、きっと多くの人に覚えのあることでしょう。
「人の記憶」というものの重さが、本作の重要な要素であると感じました。
楽しい記憶、辛い記憶、悲しい記憶……時には忘れてしまいたいと思うほどのことも、人生では起こり得ます。人生が長ければ長いほど、そうした経験は増えていくでしょう。
そんな記憶と、どう向き合うのか。
簡単に答えの出せない問いだと思います。
作中で何度も登場する、丸いモチーフのものが印象的です。
新淵さんの眼鏡、彼からもらったレンズ、眼鏡屋さんの名前にもなった月。
どれもこれも、澄花ちゃんにとって大切なものです。
新淵さんへの淡い恋心から始まって、少しずつ成長していく彼女の姿が眩しくて素敵でした。
本当に素晴らしい作品でした。おすすめです!
今作は、内気な女子高生と不思議な眼鏡屋を営む男性との出会いから始まる、ファンタジーありな、ヒューマンドラマです。
その女子高生は、出会った不思議な眼鏡屋の男性に魅かれ、恋をしていくようになるのですが……。
この話では様々な人物の一人称で展開され、不思議なものを抱えた人たちが多く登場します。
その人々はひっそりとこの世界で暮らし、持って生まれたものと共に、人生を歩んでいく。世界の流れとは裏腹に。
「出会った人々、関わりを持ったすべてがそうであればいいのに」
もし私がその立場であれば、間違いなくそう思うことでしょう。
その不思議なものを抱えるが故に、自分自身と対峙しなければいけないとしたら。
その深く切ないドラマが登場人物それぞれにバトンが渡されるように描かれています。
だからこそ、人と人が関わり合い、繋がり合う尊さや素晴らしさが、ひしひしとこの物語から感じられます。
ラスト付近はずっと涙をぬぐいながら読んでいました。
それぞれの壁と向きあう覚悟をした時、もしかすると、誰かが傍にいてくれるかもしれません。
それは友人だったり、恋人だったり、家族だったり。
一人のほうが楽です。私も時々そう思います。
けれど、傍にいてくれる人たちの存在を受け入れることこそが、その壁を乗り越えられるチャンスかもしれません。
そんな登場人物たちの切なくもあたたかい物語、ぜひ読んでみてください。
とてもおすすめです。
高校生の中野澄花は、新しい環境に慣れず体調不良に悩んでいた。そんな時、丸い銀縁眼鏡をかけた青年が、彼女に声をかける。連れて行かれた先は、不思議な眼鏡屋で――。
眼鏡屋で起こる不思議な出来事は、幻想的で美しく、思わず魅入ってしまいました。
また、不思議な雰囲気を持つ眼鏡屋さんに想いを寄せる澄花の姿も可愛らしいです。眼鏡屋さんのちょっとした言動にドキドキしたり、贈り物を考えながらワクワクしたり。一途で純粋な澄花の恋を応援したくなりました。
ゆっくりゆっくりと二人が歩み寄っていく優しい恋の物語。
ぜひ、ちょっと不思議で優しい甘さを楽しんでみてください!