心にじんわり染み入る物語です

体の不調に悩まされていた澄花を救ってくれたのは、丸いお月様のような眼鏡をかけた眼鏡屋さんでした。魔眼を持つ澄花に、魔力を制限するレンズをくれたのは、眼鏡屋さんこと新淵さん。彼の不思議な魅力に惹かれ、澄花はその眼鏡屋さんに通うことになります。

新淵さんの正体は、実は三百年生きる魔法使い。最近少し老眼が入ってきている彼は、それでも見た目は若いまま。
新淵さんとの交流を通して澄花は彼に惹かれていきますが、長く生きる中で置いていかれる辛さを知っている彼はその真っ直ぐな想いを受け止めきれずにいます。

不思議な眼鏡屋さんとの交流を通してわかっていく魔法使いのこと。いずれ死別することをわかっていて人間の旦那さんと結婚した魔女の南波さんや、同じく魔眼持ちだけど魔法に対してあまり良い感情を抱いていないトウ君などの魅力的なキャラクターを通して、新淵さんとスウちゃんの想いが丁寧に綴られています。

寿命の違いゆえにいずれは別れが来ることを知っていて、それでもなお新淵さんと一緒にいたいスウちゃん。
もう親しい人との別れは辛いと、交流を深めることから逃げてしまう新淵さん。
二人が出した結末は、とても優しく温かいものでした。

色鮮やかな美しい魔法の描写と、誰かを想う温かい気持ち。
優しい筆致で彩られた心の物語の結末を、ぜひ色んな人に見ていただきたいと思います。

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