第44話 エンデング リアンの琴

こちらは 黒の王宮


エリンシアが残した小さな竪琴が 窓辺に置かれている部屋

そこは リアンの今の部屋・・。


リアンの滞在する部屋に エイル・エルトニアと・・リュース公が訪ねて来た


「エイル! それにお初にお目にかかりますリュース公 白の国の武官リアンです

リアンは片腕・・ 

残された左手を差し出した


「ようこそリアン殿 先日 私の娘アルテイシアと酒の飲み比べをされたそうで

なかなかの酒豪とはお聞きしておりましたが・・こんな美しい美丈夫の青年とは・・」


少し照れ臭そうに 微笑むリアン・・


「あ、リアン兄様! 

僕・・じゃない私 アーシュとセルト将軍に会う約束があるからこれで

また 来るね


ではすみません・・リュース公様 失礼します

アルテイシア姫によろしくお伝えくださいませ・・」


エイルが立ち去る


「エルトニア姫は本当に愛らしく美しい方ですね・・」


「ええ 美しく成長しました」


「ところで その窓辺に置かれた小さな竪琴は?」


「ええ もう片腕で奏でる事も出来ないのですが・・

亡きエイルの叔母である 羽琴の姫君 エリンシア姫に頂いた物で・・


エイルに渡すつもりで 持参したのですが なかなか 渡す機会がなくて

さっきも 渡しそびれましたし・・」


「そんなに大事なものなら たとえ奏でられずとも お持ちになれば良いでは

ありませんか」


「そうですね」


「エリンシア姫は エイル様の実の母君だとか・・」


「! 何故それを?」


「先読みと過去見の力がある 先の黒の王 竜王がエリンシアに触れた時に知って

それを私に教えてくれました・・


ああ・・エイル様には 申し上げませんので ご心配なく」


「その代わりと言ってはなんですが もう貴方様はご存知だと聞きました


黒の王アーシュラン様が 怪我を負った際

治療の為の魔法薬の副作用で 子供の姿になり 記憶も無くしたという話は


白の国には内密に」


「わかりました リュース公・・」微笑むリアン


「それと もう一つお願いが・・リアン殿」


「何でしょうか?」


「エリンシア姫様の姿を描いた絵があれば しばらく御貸し頂けませんか?

あの方は 私の花嫁となる約束を交わしていたのです


アルテイシア姫に白の国の言葉や文字を教えたりして頂き・・アルテイシアも

大変 慕っていて、あの御方なら 母と呼んで言っておりました

それに・・」


「・・それに?」


「私の子も身ごもっておられました」


「!!」


「わかりました 白の国の私の屋敷に沢山 エリンシア姫の肖像画がありますから

それを一枚取り寄せ 差し上げます」


「よろしいのですか? 絵師に描き写させますよ?」


「構いません・・」微笑むリアン


「有難うございます・・では 今日はこの辺で・・またを後日

エリンシア姫様の御話でも・・」


「ええ、そうですね ところで お急ぎですか?」


「いえ そうではありませんが・・何か?」


「エリンシア姫は 先の戦争の際 黒の王宮から行方不明となりました

その後の消息は そちらでは 何かわかりませんか?」


「・・・いえ 何も・・」

あのヴァン伯爵を殺した際 ヴァン伯爵が言ったエリンシア姫の最後の話は

リュース公はしなかった・・


黒の王アーシュランが記憶を無くした今は・・その話を知るのは

リュース公とセルト将軍のみ


後に リュース公達は 本当の真実の話・・エリンシアが巨人族に囚われ

どのような最期を遂げたかは・・後々に知る事となる



「そうですか・・すみません」


「いえ・・謝らずとも・・エリンシア姫様とは親しかったのでしょう・・」


「私は 白の宗主の愛妾の子で・・同じく白の宗主の愛妾であった姫は

私の亡き母にも 私にも 大変優しく良くして頂きました」


「今度 その御話をお聞かせください

私も黒の国での過ごされたエリンシア姫様の御話をいたします


宜しければ 娘のアルテイシアも連れてきても?」


「歓迎いたします リュース公」


「では必ず・・そうそう 私の領地で取れる魚や 酒も持参いたします」


「それは有難いです リュース公」


「湖畔の中にある私どもの城にもご招待いたします

アーシュラン様やエイル様もぜひ ご一緒に・・」


「それは素晴らしい 美しい城だと 聞いてます

楽しみにしておりますリュース公」


「エルトニア姫様(エイル)と同じオッドアイの美しい瞳と美貌・・

羽琴の名手 羽琴の姫君


優しく素晴らしい方でしたね

またお会いして あの御方の御話をするのを私も楽しみにしております」

リュース公も微笑んで そう言いった


「ではまた リアン殿」リュース公は立ち去った



リアンは窓辺に置かれた エリンシア姫の形見である 小さな竪琴に触れ

指先で 弦を弾く


変わらず 良い音で鳴る


両手があった頃 よくこの竪琴を奏でた


その頃は あの白銀の髪をしたケンタウロスの美しい女騎士レグルスも

生きていて 彼女と二人 酒を飲んだり 演奏を聞かせたりした


そして 今は亡きエリンシア姫


彼女の事を思い出す リアン


窓辺の春の穏やかな風に リアンの淡い金の髪がほんの少し乱れる


木々にいる小鳥のさえずりに耳を澄ますリアン


懐かしい思い出が 走馬燈のように 駆け巡る


あの懐かしい穏やかな日々の事を・・


FIM

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羽琴の姫君 のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます @nono1

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