エピローグ~未来~
「ママぁ、はやくー!」
「はいはーい! すぐ行くよー」
「映画、始まっちゃうよぉ」
朝の家事を片付け、急いでワンピースに着替える。鏡で上から下まで変な所がないか、ざっと確認する。
「パパ、着いたらジュース買って!」
「ママがいいよって言ったらね」
玄関での会話を聞きながら、最後の仕上げにピアスをつける。
今日は天気も良く、お出掛け日和だ。前にもこんなことがあった気がする。
「京香、はやくー」
「はぁい」
彼の呼ぶ声に返事をしながら、出掛ける前の三点チェック。
電気よし、水回りよし、火の元よし。
(あ、危ない。鍵、忘れてた)
キーケースの存在を思い出し、リビングに行こうとすると、
「ママぁ」
「キーケース、持ったよ」
とジャラジャラと音がする。振り返ると、彼が私のキーケースを大事そうに持っている息子を抱き上げていた。二人並ぶと目元がそっくりだ。
(親子だなぁ)
そんな二人を見つめて、口元が綻ぶ。私に似ず、息子は彼の血を濃く引いていて、幼いながらにかなりしっかり者だ。
「ママ、靴履いて、行こーよー」
「はーい、お待たせ。行こっか!」
ヒールを履こうとすると、息子の小さな手が伸びてきて、手伝ってくれる。
「ふふ、ありがとう」
その光景が数年前のときと重なる。
(誰かさんにそっくり。将来、有望なのは間違いなしね!)
可愛い息子の数十年後の姿を想像し、口元が緩む。
「何、笑ってるの?」
「ううん。何でもなーい」
彼と息子が不思議そうな表情をする。
「早く行かないと映画、間に合わなくなるよ!」
そう言って、先に玄関から外に出る。その後を小走りに息子が追いかけてくる。
「まってー!」
小さい体で、一生懸命に走ってくる姿が愛おしい。私は今、世界で一番幸せ者かもしれない。
大好きな人とその間に生まれた大切な存在。彼らに愛され、守られ、沢山の幸せに包まれている。
「翼、危ないからママと手を繋ぎな」
「パパもつなぐ!」
そう言って、息子の温かい手が私の手に触れた。左手で私の手を、右手で彼の手を握り、私達の間で嬉しそうに笑う。
二月にしては、今日は少し温かい風が吹いている。そして、私達を送り出すかのように玄関先に咲く椿が揺れていた。
恋ツバキ 玉瀬 羽依 @mayrin0120
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