後書

 今振り返れば、夢が色を帯び始め、明らかに異様が増した頃から、日記をやめておくべきだったのかもしれない。

 ただその頃は、夢の面白さに夢中で、寝不足の疲労感も加わったせいで、感覚が麻痺し、正常な判断はできなかった。

 そしていつの間にか沼地に首までのまれていた。


 これ以上のまれないように、自分の行動に制約したを加えた。

 夢の中で余計なことは考えない。夢から覚めても決して思い出そうとしない。記録は絶対に残さない。

 そうしているうちに慢性的な寝不足はいつの間にか解消され、散漫になりがちだった思考も少しずつ定まり、夢のように感じられる現実もはっきりと現実味を取り戻せた。

 そこで改めて夢日記を書いていた時期の出来事を振り返り、それがいかに危険な状態だったのか、遅まきながら実感が追い付いてきた。


 ぞっとする体験や、恐ろしい事故に飾られたオチでなくて本当によかったと思っている。

 創作のオカルトは楽しめるが、現実のオカルトに飛び込むのは、私にはできないことだ。

 たぶんそこは、ぎりぎりで引き返せる最後のタイミングだと、今でも思っている。


 夢日記のノートは、それから一度も読み返していない。

 たまに、そのままやめずに書き記し続けてたらどうなっていたのだろう、とふと思う時もあるが、すぐにその考えを頭から追い出す。


 夢と現実の境界線が完全に崩壊したら、私という存在も崩壊してしまうだろうから。

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夢日記にまつわる体験記 白木奏 @Shiraki_Kanade

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