8 断絶
六月のある月曜日の夜、いつものように友人とチャットしていた。
その前の週の土曜日に一緒に遊びに出かけ、立ち寄った神社で友人は大凶のおみくじを引いてしまった。彼女の落ち込みようを思い出し、その話題に触れてみた。
『週末恙なく過ごせた?あそこめったに大凶が出ないらしいから、むしろネタになるよな』
しばらくすると既読がつき、
『大凶www何の話www』
との返信がかえってきた。その時の落ち込みように反し、もうけろっと忘れたようだ。
『もう忘れたのならいいや、気にしないのが一番だな』
『だから何の話w先週末なんかあったっけ』
今度はすぐに返信が来たが、どうも話が妙に噛み合わない。奇妙に思いつつ、かいつまんで説明してみた。
『土曜日一緒に神社行ってみくじ引いたじゃん、大凶引いて落ち込んでたからフォロー入れようと思ったのに』
また少し間があってから、
『なんだ誤爆かw私は先週末実家帰ってたよ~』
誤爆の可能性に気づき、慌てて宛先の名前を確認しても、間違いなく友人の名前だった。なんだろ、この噛み合わない気持ち悪さは、と思った時、また友人からの返信が届いた。
『ていうか、明日一緒に遊ぶ約束は有効?それも誤爆とかじゃないよね』
しばらく返信ができなかった。頭の中がふわふわして、夢の中にでもいるようだった。
間違いなく土曜一緒にいた友人は、実家に帰っていたという。一緒に遊ぶ日は明日だとも。明日は火曜日で祝日でもないし……
――じゃあ、今日は何曜日だ?
ボーとしている頭で、携帯のカレンダーアプリを開いた。
月曜ではなく、過ぎたはずの、先週金曜日の日付が目に飛びこんだ。
洗面所で顔の感覚がなくなるほど冷水を浴び続け、ちぐはぐな違和感を説明できる回答を出した。
おそらく私は、昨日――つまり木曜日――の夜に、週末友人と出かける夢を見ていた。
一晩のうちに、週末二日間の時間がまるまる詰め込まれた夢を見て、それを現実だと思い込み、目が覚めた今日――本当は金曜日のはずが――を、月曜日だと勘違いしていた。
そんなばかばかしい勘違い、するはずがない、と笑い飛ばしたかった。
だって週末の記憶はすべてはっきりを思い出せるんだ。
友人と交わした会話や、神社の境内の景色、日曜に作ったごはんや、週末分の夢日記だってちゃんと書いた――
自分の記憶は夢であるはずがない、という証拠が欲しくて、夢日記の書かれたノートをめくった。
書いたと記憶している内容はどこにもなく、最後の夢日記の記録は、水曜日の日付に留まっていた。
初めてはっきりとした恐怖を感じた。
夢はもはや記憶と区別がつかないほど、鮮明さを持ち、実態を持つ何かに変容していた。
どこまでが現実で、どこまでが夢?
私が今立ち尽くしているこの空間は、どっち?
この日から、私は夢日記をやめた。
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