ANIMA

@ken__haru

悪魔のなりかた

遠い昔、世界にひとつの空間が生まれた。


 その空間からはいくつもの道が伸び、

そこに生命が生まれた。


 その空間のことを「無限領域」と言う。


 無限領域の支配者はあらゆる生命体を支配し、

この世界の頂点に君臨していた。



 それは、ひとつの生命が生まれる前までの話。


 玉座を突然降ろされた王は新王に対し、

巨大な憎悪を募らせる。



 その憎悪は世界を飲み込むほどだった。




 時は3045年



 荒廃した街を一人歩く少年がいた。


 この街には腐り切ったビルが立ち並んでいる。


 なんでもここの空気は鉄をたちまち腐らせるんだと、


学校に行ってない身としてはよく分からないことだが…


 ここの街には親が居なければ金もない、そんな子供たちが大量に住み着いている。


 かく言う俺もその1人だ。


 俺はエース、黒と赤の入り混じった髪、これが俺のトレードマークだ。


 俺はここで一生生きていくんだろうなと、そう思っていた。


 エースが長い道を歩いていると道端に一人の少女が倒れていた。


 「おい! 大丈夫か?」


 エースが駆け寄ると少女は泣いていた。

 

 エースは何事かと思うが次の瞬間目を疑う。

 

 少女の背中に白い羽が生えているのだ。

 

 天使の羽というのだろうか。

 

 とても美しい代物だった。


 エースが倒れ込む少女に手を貸すと、少女はそっと手を握った。


 その時、少年は感じたことの無い感覚に襲われる。

 

 身体中に何かが流れ込むような、そんな感覚に。


 (今のは…気のせいか…?)


 少年は少女に話しかける。


「君、名前は?」


 少女は泣いていて何も喋らない。


 「俺はエース」


 少年はぶっきらぼうに名乗る。





 少女は涙声で言う。


 「私はメアリー」


 少女はエースのことを警戒しているのだろうか。

 

 エースの目をずっと見つめている。

 

 しばらくして警戒が解けたのか少女はエースと話をする。


 エースにその羽はどうしたのかと聞かれると少女は


 「これは空を飛ぶためのものなの」


 と答える。

 しばらく話をしていると突然空から眩い光が指す。


 「なっなんだ⁉︎」


 光の中から一人の男が現れた。


 その男にも羽が生えていた。


 「やぁ、初めまして」


 その男は気さくにエースに話しかける。

 エースは驚きつつも返事を返す。


 「こっ……こんにちは」

 

 男が手を差し出してきたのでエースは握手をしようと近づく。


 「ダメ! 近づいちゃダメ!」


 メアリーが叫ぶ。

 エースは足を止める。


 意味がわからず男の方を見ると男は不気味な笑みを浮かべていた。


 「どうしたんだい?メアリー、人が殺されるのはもう見たくないのかい?」


 メアリーは立ち上がり左手を広げ、男の方に向ける。

 

 しかし何も起こらない。


 男は声高らかに笑う。


 「どうした? 遂には力を発動することすら出来なくなったのか?」


 メアリーは顔面蒼白になり、後ずさりする。


 「やはり君にその力は使いこなせない。僕のものになるべきだ」


 男が右手をメアリーの方に向ける。


 すると手が電気を帯び、雷が放たれる。


 「危ない!」

 

 エースはメアリーの前に立ち身代わりになった。

 

 メアリーと男は驚愕している。


 「これは…馬鹿な人間だな身代わりになるとは」


 メアリーの目から涙がこぼれる。


 上半身が丸焦げになったエースは完全に動きが止まっていた。


 しかし、突如エースが動き出す。

 


 それに合わせて男は腰に刺さっている剣を抜いて切りかかる。

 

 エースはメアリーを守るため再び盾になる。


 焼き焦げた両腕が切り落とされる。

 

 止まらない出血。


 エースはメアリーに言う。


 「逃げろ!」


 しかし少女はその場に倒れ込んでいる。


 再び男が剣を振る。


 胸に一撃を喰らいエースは倒れ込む。


 「ぐぅ……」


 今にも死にそうなエースを横目に男はメアリーの方に向かう。


 エースは立ち上がろうとするも体に力が入らない。


 切られた両腕で必死に立ち上がろうとする。


 その時、エースは違和感に気づく。


 焼き焦げたはずの体の皮膚が徐々に再生している。


 さらに切られた腕と胸が再生していっている。


  (…どういうことだ?…)


 エースは訳が分からずその場に立ち尽くす。


 それを見ていたメアリーも自身の目を疑う。


 「嘘…」


 思わずそんな言葉が漏れる。


 それを聞いた男はエースの方を振り返り、

目の前で起きていることに驚愕する。


 「どういうことだ?何故体が再生している!」


 男は叫ぶように問う。

 

 そして男はある答えを導き出す。


 「まさか…力が継承されたのか?」


 「つまり…人間お前も悪魔の血族なのか?」


 エースには意味がわからなかった。





 戦え





 突然頭の中に声が流れてくる。

 

 その言葉を聞いた途端、エースは強い意志に動かされる。


 エースは男に殴り掛かり、一撃を入れる。


 男は一瞬怯んだがすぐに剣を振り、エースに重傷を負わせる。

 

 しかしその傷はすぐに再生する。


 エースは先程メアリーがしたように左手を男に向ける。


 強く念じると左手から雷が飛び出る。


 怒槌は男の体を焼き、男は怯む。


「どういうことだ…人間に悪魔の血の…それも純血者か?そんなものがいるなんて」


 男は連撃を浴びせてくる。


 しかし連撃を撃ち終わったあと、

 エースは無傷であった。

 


 いや違う。体を瞬時に再生させたのだ。


 男は苛立ち、剣を大振りする。


 エースは再び雷いかずちを放ち、男に命中させる。

 

 男は火傷を負い、怯んでいる。


 「クソ…人間ごときが…覚えていろよ」


 男はポケットから石を取りだした。すると石が発光し男は姿を消した。






 エースは怯えるメアリーに言う。


 「もう大丈夫……だと思う」


 メアリーは涙を拭う。


 メアリーは事の発端を語り出す。


 あの男に命を狙われていること。

 

 そしてその目的は自身が保有する強力な力と悪魔の血と言われる血筋の者を殺すためでありその力がエースに継承されたこと。


 少女は涙を堪えながら言う。


 「あなたも…きっと命を狙われる。私たちは悪魔の血族だから」


 エースは少女に言う。


 「俺は死なない。君を必ず守る」


 なぜこんな言葉が出たのだろうか、

治ったとはいえ体に深い傷を覆い巨悪の存在を突きつけられ、


 それでも何かが背中を押した。


 この少女を守れと,それがお前の使命,生きる理由だと。


 その言葉を聞き少女は笑顔になる。


 「…ありがとう」


 メアリーは少数だが悪魔の血族の自分たちに味方してくれる人達がいることを伝える。


 その者たちがいるのは


 【天界】


 と呼ばれる世界でこことは別次元の空間にあると言う。


 「そこに行こう。俺は君のために戦う」


 分からない,なぜこんな言葉が出てくるんだ。


でも俺はこの少女を守ってやりたいと……思っている。


 思っているのか……?


 さっき俺は疑問に思ったじゃないか。


 なぜあんな言葉が浮かんだのかと……


これは俺の意思なのか……


 俺の背中を押す何かに無意識のうちに俺は気づいていた。


 何か特別な存在が俺の背中を押している。


 この少女を守れと、そうだ、さっき気づいたじゃないか。


 エースは沈黙し、思考を巡らせるが途中で考えることをやめた。


  「天界にはどうやって行くんだ?」


 エースがそう聞くとメアリーは先程男が使ったような石を取り出す。


 「これを使うの」


 メアリーはそう言い、石を強く握る。

 

 すると二人は光に包まれ次の瞬間にはもう天界にいた。


 「仲間の元に行こう」


 エースはメアリーにそう言う。


 メアリーは小さく頷く。

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