第23話 冒険者ギルド③
ゼノンは依頼の紙が貼ってあるボード版へと移動してFランクでも受けれる依頼を探す。
(F、F……。探しても薬草探しとか、街の掃除とかそういうのしかないな…。とりあえず薬草探しにしとくか)
元々ゼノンは花には詳しかった。それ故に薬草の種類もほとんど記憶していて実際にソツ村にいた時に採取した経験もある。どういう環境に生えているのかも知っているためそれを活かすべくゼノンは薬草探しの依頼を選択した。
「依頼お願いしまーす」
「………………テメェ、何故ここに来てやがる………」
「えぇ??依頼を受けるならどこでもいいんでしょ??」
ゼノンは薬草探しの依頼書を迷わず真っ直ぐにリアムの元へと持って行った。
「チッ!あと1分で昼休憩だ!さっさと依頼書と冒険者プレートよこせ!!」
ゼノンは素早プレートと依頼書を渡すとリアムはそれを受け取るや否や即座に仕事にかかり始める。そのスピードはとてつもなく早く、さっきまでの怠惰っぷりからは想像できないほどである。
(……相変わらず動機が不純で目も腐っているがな……)
「よっし!これで終わりだ!!依頼終了の受付は3日後か俺以外のテーブルに渡せよ!」
およそ1分以上かかるものが30秒ほどで手続きが終わる。普段はサボっているが、仕事の腕が優秀ということかもしれないとゼノンは考えた。
「覚えておくよ」
(2日後にリアムのところに完了の報告に行くか…)
ゼノンはそう決心した。「覚えておく」と言っただけであり、他のところに行くとは確約していない。それを逆手に取った行動である。
どんどんと思考がファナに似てきているが、ゼノンがそれに気づくことは無い。
「帰るわよ」
「了解です」
依頼受領を済ませたゼノンは入口付近に待機していたファナのところに向かう。
「待てやコラァァァ!!」
ファナと合流してギルドから出ようとすると後ろから大きな怒鳴り声が聞こえる。それにゼノンは足を止めて振り返るが、ファナは迷うことなく進み続けていた。
……2人が似てきてはいても確実に両者が違う所の一つである。
「えっと……ネルソ……さん?でしたよね。どうかしました?」
怒鳴り声を上げていたのはゼノンがセラに話しかけたということで暴力を振るい、ゼノンによってしばらく動けないようにされていたネルソであった。
ネルソは明らかにゼノンを睨んでいる。そしてその雰囲気は怒りと憎悪に満ちていた。
「テメェ、俺様に何した!?」
「?」
(………あぁ!思い出した!師匠を攻撃しようとしてたからちょっと突っついたんだけ?)
「えーっと……ちょっと工夫して神経を刺激して……」
と、ここまで自分の技の説明を言ってからゼノンは自らの失態に気づいてしまった。
(はっ!!しまった!!!俺は何を!!)
「へぇ……。そういうことだったの………」
歩みを止めたファナがしっかりとゼノンの失言を聞いていた。その顔は満面の笑みに満ちていた。
(やっちまった!!!あの技は今のところ
吸血鬼であるファナは心臓さえやられなければ復活することができるし、傷もすぐに治すことが出来る。その吸血鬼でさえもゼノンのあの技の前では為す術がなかったのだ。
もちろん腕を切り捨て再び腕を再生すると言うなら話は別であるが、戦闘中にそんなことをする余裕はない。決まれば勝負は大きくゼノンに傾く程の技の種をよりにもよって最もバレたくはないファナにバレてしまったのだ。
(クッソー!ここまで言ってしまったら師匠ならこの技のほとんどが分かったんだろうな……。はぁ。これはもう通用しないと思うか。まぁ、元々そんなに綺麗に決まることなんて少ないからいいけどな……)
落胆を隠せないゼノンとは反対にネルソの怒りはどんどんと膨れ上がり、ピークに達する。
「ふざけんな!!!!そんなこと出来るわけがねぇだろうが!!!俺様を舐めてんのか!?」
(んな事言われても……。まぁ、血液魔法も使ってるからあながち間違いじゃなけど………)
「さっきから俺様…俺様…と……。傲慢がすぎるんじゃないか?」
ゼノンもネルソと同じように戦闘態勢に入る。
「ちょっとネルソさん!落ち着いてください!!ギルド内でのイザコザは禁止ですよ!!暴力を振るうようでしたらギルド職員が止めることになります!」
セラもこれは見過ごせないのかさっきとは違い、ゼノンとネルソの間に割って入りネルソを止めようとしている。
「どけ!!セラちゃんでも容赦しねぇぞ?」
(コイツ…正気か?師匠と同じ英雄と呼ばれる人に喧嘩売るなんて……)
セラも若干怒ったのかさっきまでの穏やかな雰囲気はなく纏う雰囲気は徐々に戦闘態勢のものに変わっていく。
ゼノンはこのままセラに任せようかどうか考えているとそこに割って入ったのは意外な人物だった。
「ぁ?……めんどいことになってんなぁ」
「!?ウッソだろ……」
「え?え!?」
なんとセラとネルソ間に入ってきたのはあの死んだ魚のように腐った目をしたサボり魔、リアムであった。
(えぇ〜…………、さっき出会ったばっかだけどコイツが自分から動いて働くなんて信じられないんだけど…………)
ゼノンの中のリアムの評価はともかく、同じことをセラも思ったのかゼノンと同じ顔をしている。
ゴーン……ゴーン……
王都中に響くこの鐘の音は正午ピッタリの合図であり同時に──リアムの昼休みを知らせる鐘である。
「どけやぁ!!」
ネルソは自分の腰に着けた短剣を引き抜きリアムに振り下ろそうとする!
「ここからは勤務時間外労働だ…」
ボシュッ!とポケットから出した煙草を口に持っていき、燃やす。
そして次の瞬間…
ドン!!
と鈍い音を立てて倒れていたのは………
ネルソであった。
さすがのファナもこんな鮮やかかつ一瞬の出来事に驚いたのか表情には若干目を見開いて驚きが見える。
「あ〜……めんどくさい…………。俺の仕事増やすなよ………」
リアムは「ふ〜っ」と一服して髪をガシガシと掻きながらネルソを蹴りながら端に寄せる。
(今、リアムは襲ってきたネルソ……さんに対してリアムは的確にネルソ……さんの顎に蹴りを入れた。ネルソも手練の動きだった……けどリアムはかなりの手練の動きだった)
顎は人体の弱点のひとつである。てこの原理で顎を強打されると首の付け根を支点として脳が顎の移動距離よりも長く瞬時に移動し頭蓋骨に衝突して脳震盪を引き起こすのだ。
(でも、いくら顎が弱点とはいえ、さっきの攻撃で脳震盪を起こすほど弱くはないわ………)
ファナが驚いた部分は技術ではなく、力である。
(彼は身体能力強化の魔法を使っているようには感じられなかった………。でも、さっきの彼が脚に入れていた力は"蹴る"というより"触る"という表現の方が正しい感じがするわね。………つまり………)
ただ、触るだけで気絶するなんてことはありえない。そんな不可能を可能にするのが………"魔法"や"スキル"の存在である。
(どんな魔法かしら?検討がつかないわ。いや、あるいは………)
ファナはある仮説が頭の中に思い浮かぶ。
(そもそも何故リアムは動いたんだ?コイツは自分のためならともかく仕事のために動くような普通の真っ当な人間じゃないはずなのに……)
一方でゼノンもファナとは全く違うことを考え始めていた。
ちらりとゼノンはリアムを見てからあることに気づく。
(まさか…セラさん?)
『彼はサボることが得意の私の幼なじみで普通のギルド職員だよ!』
セラはゼノンにリアムのことを幼馴染として紹介していた。先程まではどうでもいい情報と聴き逃していたが、ここでゼノンは重大な発見に至る。
(そ、そうだ!!『幼馴染』!!!これは恋に発展する王道パターンじゃねぇか!!!なんってこった!どうして今まで気づかなかったんだ!?ってことは…ってことはつまり…………)
ゼノンはセラとリアムを何度も見る。そしてあるひとつの結論に至った。
「ふっふふ……」
「はっはは……」
2人同時に頭の中でそれぞれの考えが纏まる。そして導き出された答えは……
「面白いなぁ(わねぇ)!!!」
2人して獰猛な笑みを浮かべる。そして2人はギルドを後にした。
おまけ
一方、ゼノンたちが去った後のギルド……。
「な…、なんだ!?今、とてつもない悪寒ととてつもなくめんどくさい気配を感じたんだが!?」
「どうせ気の所為でしょ」
「いや、違うんだって……。絶対俺の事を誰かが『カッコイイ!』って噂してるんだって!!」
「はいはーい。アンタはカッコイイね〜」
「そんな棒読みすんなよ………。あ!ちゃんと時間外労働したから給料に入れとけよ!」
「意地汚……」
「タダ働きなんて俺の信条に反する!」
「ってかアンタ…昼休み少なくなってるけどいいの?」
「マジか…。セラ…お前も昼休みだろ?一緒に食いに行こうぜ。いい店教えるから」
「リアムの奢りね〜」
「!?それはご勘弁を!…。ってかセラの方が給料いいだろ!?知ってんだからな!」
セラはリアムの土下座に目を止める様子もなく出口へと向かう。まるで日常茶飯事のできごとのようである。
「………あと、助けてくれてありがと……」
「お、おう…」
ゼノンたちがギルドを去った後にこんな話があったとかなかったとか……。
「くっ!どこからかラブコメの波動が…面白い気配がする!!」
「うるさいわよ。黙りなさい」
「師匠!言葉が強いです!!」
加護なし少年の魔王譚 ジャック @jokerlowJack
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