第22話 冒険者ギルド②
(さて、冒険者登録するか。つってももう美人に話しかけると何が起こるかわかったもんじゃないテキトーに…できるだけ人気がないところを……ん?)
そう考えて、受付カウンターを見回すとほとんど全員が目を見開いて驚いている状態だが、1人だけそうでは無い者がいた。
その人の周りには冒険者らしい人がいないからそこまで人気がないんだろう。
ゼノンは迷わずその人の元にむかった。
その男はカウンターに足を乗せて椅子にもたれ掛かり、顔には何か本を乗せていた。
「あの、すみませーん」
「…………………」
「冒険者登録したいんですけどー」
「…………」
「…………」
何故かその男の職員はゼノンの声に反応しなかった。ほかの冒険者は何故か静まり返っていて何故かギルド全体に緊張が走っていた。
「あの…」
「……………返事がない。ただの屍のようだ………」
「…………は?」
そして何故か男からは「すー…すー…」という寝息が聞こえてきた。
「こら!!」
そんな男にセラが分厚い本の角を男の顔面に落とした。
「っぅいってぇ!!!全員気をつけろ!!オークが現れたぞ!!!」
「誰がオーク…ですってぇ?」
セラがその可愛らしい顔をゆがめながら男を睨んだ。すると…
「………オークじゃなくて
「ふん!!!」
「ぃっ!!いってぇ!!!」
セラは思いっきり分厚い本を男の顔面に叩きつけて、ふくれっ面で男を睨む。
「あんた、仕事中に何サボってるの??ギルド長に訴えるわよ?」
「は!俺がサボってたっていう証拠がどこにある!加えて言うなら俺はサボってた訳じゃない!冒険者がこっち来ないから仕事がなくて休んでただけだ!!サボるという行為は仕事があって初めて成立するのだ!!つまり俺は休憩していただけに過ぎない!!はい、訴えられる理由なし!!」
「ギルド長、"リアム"のやつがー」
セラがカウンターの奥を指さしてそういうと…、
「ギルド長ぉぉ!!俺は真面目にやってますよ!!それより昇給の件よろしくお願いします!!」
リアムは急に背筋を正して薄汚れた目をかっぴらく。
(なんだ…?この男は……)
ゼノンはこの一連のやり取りを見てそんな感想を抱いた。
リアムと呼ばれた男は灰色の少し長い髪にほかのギルド職員と同じ制服を来ている。意外と筋肉や身長もある。だが、何より特徴的な所は目である。
(こいつの目……死んだ魚みたいだな……)
ゼノンから見たリアムの目は、腐っていた。光も見えないような黒い瞳で見た目は死んだ魚のように覇気を感じない。正しくダメ男という感じであった。
「あ?何だテメェ…」
(加えてこの態度……。ダメ男じゃねぇか……。そのくせ油断出来ない)
「コラ!!そんな態度取らない!!」
「いっ!!あ〜ダメだ。今ので今日のやる気全部削がれた………」
「もう1発いくわよ?」
「ぁ〜、わかったよ!そこの血だるま!」
「はい?」
リアムはゼノンを指さして大きな声で呼ぶ。
「こっちの美しいお姉さんのところで冒険者登録しろ!」
ガンッ!!!
リアムの頭の上にぶっ厚い本の角でもう一度落とされる羽目になった。
「〜〜ッ!!お前、角はダメだろ…!!」
「あんたねぇ!冒険者相手に『血だるま!』とか失礼でしょ!それに仕事してないじゃない!」
「したわ!この新人くんをお前のところに案内しようとだなぁ…」
「はぁ…。ごめんなさいね。この死んだ魚のような腐った眼をしているのがリアムで、私はセラ=ルナよ」
「はぁ…。俺はゼノン=スカーレットです」
「さっきはごめんなさいね。ウィル様からの指示で『止めるな』と言われててね…」
「あぁ、全然気にしてないんで大丈夫です」
(むしろエコーロケーションを実践できたし、そもそもルールを破ったのは俺だしな)
「……ふふ」
「どうしたんです?」
何故かセラはゼノンの反応を見て少し驚いた顔をした後にクスリと笑った。
「ううん、冒険者志望なのに口も悪くない。私も知らないみたいだからちょっと面白くて」
「………??」
ゼノンにはセラの言っていることが全く分からない。それを見兼ねたファナが解説する。
「…彼女は私と同じ英雄と呼ばれる一人、"月光"のセラよ。これなら貴方でも分かるでしょ?」
「…………は?」
ファナの衝撃のカミングアウトにゼノンは思わず驚きを隠すことができない。
"月光"のセラ。2年前の魔族との大戦争において彗星の如く現れとてつもない戦績を誇った人間。驚くべきは当時20歳という若さであった。一言で言えば天才。この言葉に尽きる。とてつもない実力を見せた彼女は若干20歳で英雄と呼ばれている。
「ま、まさか…この死んだ目の男も英雄とかすごい人物なんじゃ………」
「あっはっは!それはないない!彼はサボることが得意の私の幼なじみで普通のギルド職員だよ!」
「…うるせぇ…」
(…よ、良かった…)
ゼノンは心の奥で少し安心した。こんな腐りきったゾンビのような人間が英雄ならば英雄という者への尊敬視が出来なくなってしまうところだったからだろう。
「ちなみに私が英雄のファナってことも知ってるから安心しなさい」
(……安心出来ねぇよ。むしろ不安な要素しかねぇわ………)
ドSなファナのことである。セラを使って自分でを遊ぼうとしているのだろう…。とゼノンは考えているが、おそらく実際にその通りであろう。
「さっきのお礼という訳じゃないけど、私が冒険者登録してあげようか?」
「お、そうしてもらえ、血だるま!」
セラがそういうとさっきまでうつろうつろしていたリアムの目が一気に覚醒してセラを援護する。
「いや、そこの死んだ魚の目をしたリアムにしてもらうことにします」
「おいおいおい!何言ってんだ!?クソガキ!?ってかお前ら俺の評価おかしくない!?いちいち死んだ魚の目って言わなきゃダメか!?」
「そうねぇ。それがいいわ!」
ニヤニヤとしながらセラはゼノンの言葉を肯定する。その目はリアムを見ている。
「私はセラに用事があるから」
そう言ってファナとセラは別のカウンターへと向かって行った。そしてその場にリアムとゼノンの2人になった。
「それじゃ、冒険者登録頼むわ」
「敬語どしたよ?さっきまで敬語だったろ?」
「いや、リアム相手ならいいかなって思って」
「んん?初対面の大人に対してそりゃどーゆうことだ??」
(こんな死んだ魚のような腐ったダメ大人を認めるのもなんか癪だしなぁ)
「…まぁ、いいわ。問い詰めんのもめんどい。この紙に必要事項書いとけ」
ゼノンはリアムが出した紙に名前と加護、魔法、特技など必要事項をスラスラと書いていく。
「書けたぞ」
「ハイハイ。……って無加護か…」
「無加護だとやっぱ問題あるのか?」
「………マニュアルには書いてないしどうでもいいだろ。問題があってもめんどいからパスだ。あ〜、ダリィ。あ〜、あとなんだっけ?あぁ、そうだ、注意事項だっけ?もう言うのめんどいから勝手に目ぇ通しとけ」
(ある意味でこいつに登録お願いしてよかった。ほかの受付なら無加護なことに何か言ったことかもしれないし。ってかこいつ無加護に無反応なんだな)
普通のものは無加護だと分かれば高圧的な態度をとってくるがリアムにはそれがなかった。
リアムが投げてきたマニュアル本をキャッチして『注意事項』と書かれたページを開いて読む。
ざっとまとめるとこんな感じだった。
・冒険者にはFランク〜Sランクまでのランク分けが存在する。下から冒険者プレートは白、灰、橙、緑、青、赤、黒というふうになっている。
・冒険者ランクと同じように魔物にもランクがあり、Fランク冒険者でも倒せる魔物をFランクというふうにSランクの魔物まで存在する。
・冒険者ギルドは信頼で成り立っている。依頼者が冒険者ギルドに依頼するのは信頼があるからである。冒険者は自分のランクに見合った依頼を受けることが出来る。ただし、依頼を達成出来なかった場合は違約金を払うことになる。ただし、依頼があまりに不当な場合は抗議することが出来る。
・冒険者プレートの再発行には時間がかかり、その間は依頼を受けれない。また、発行には銀貨1枚かかる。
「読み終わったぞ」
「…ん……ァあ〜……。チッ今いい夢見てたのにな」
(マジでこの男大丈夫か…?)
ここまで来たらクズ男という侮辱や軽蔑感より心配が上回り始めた。
「あぁ〜、とりあえずこれだけは覚えとけ。死ぬな。この仕事はろくな事じゃねぇ。ろくな最後は迎えねぇからな。頑張って生きろ。」
「リアム……おまえ……」
すごくいい大人じゃないか……。そういうとゼノンがした。しかし、
「あと、死んだお前を探すのがめんどい。依頼の不達成はやめろ。違約金の処理がめんどい。冒険者プレートは無くすな。再発行がめんどい。依頼は3日後からだ。3日後は俺が休みだからその時に依頼受けとけ。綺麗なお姉さんいるから。もしくは俺以外の職員に渡せ」
「お前……クズだな!」
「うるせぇ、ほっとけ!俺なんかよりクズが世の中いるんだよ!」
(下には下がいるもんだが…下見てたらキリねぇだろ!ってかお前以上のクズってなかなかいねぇわ!!)
心の中でそうゼノンはツッコムが決して声にだけは出さなかった。
「終わったかしら?」
ゼノンとリアムの無駄なやり取りに終止符を打ったのは仮面をつけS級冒険者フィルとして活躍しているファナであった。
「あぁ、終わりました」
「…これで俺の仕事も終わりだな…」
「あ、ついでに依頼をなんでもいいから1つでいいわ。受けておきなさい」
「了解です」
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