第21話 冒険者ギルド①

ギィィ…とゆっくりとドアを開く。


ゼノンがはギルドに入った瞬間にギルド内の空気が変わった。飲み食いしてる冒険者が静まりゼノンを見つめる。


(なるほど。品定めって訳ね。まぁ、気にせず飲み食いしてるヤツらもいるが)


半分ぐらいは特にゼノンも興味なしということで酒を飲み続け、もう半分はゼノンの力を見定めるようにじっと見る。


ゼノンは特に気にすることなく、受付カウンターへと進む。


(確か……1番左……と。うわ!すげぇ可愛い子だ…)


ファナの教え通り1番左に行くとそこに座っていたのは茶色の髪を肩まで伸ばし、真っ白な肌をギルドの服で全体を覆いながらも女性らしく体の起伏はしっかりとある美人と言うよりは可愛いの言う言葉が初めに出てくる女性であった。


(見た目のイメージは師匠が薔薇ならこの人は向日葵に近い…か?)


「すみません。新規の冒険者登録したいのですが…」


「え?」


「え…?」


ゼノンがファナの指示通りに話しかけると何故か相手の受付の人に踊ろれてしまう。


周囲も急にざわつき始めた。さっきほどとは違い、全員がこちらを注目しており、何人かの冒険者からはゼノンに怒りを向けているようであった。


「あの……俺、なんかやっちゃいました?」


さすがのゼノンもその視線にはすぐに気づいたので受付の人に聞いてみる。


「あ、いえ!冒険者にしては口調が丁寧だったので…。驚いてしまって申し訳ございません。えっと…冒険者の登録でしたよね?」


「オラァ!!テメェ、白の分際で何セラちゃんに話しかけてんだ!?ゴラァ!」


「え?…えぇ?」


ゼノンは酒臭い男に何故か怒鳴られてしまう。よく分からない物言いにゼノンは思わず退いてしまった。白というのは冒険者ランクがFランクということである。状況的に考えるとゼノンが話しかけた可愛い子がセラであろう。それぐらいはゼノンにはわかった。


(おかしいぞ。俺は確かに師匠の言われた通りに………。師匠の言う通り?)


ここでゼノンはファナの今までの遍歴を振り返る。


(最初の決闘…、修行…、師匠まさか……騙した!?有りうる!あの師匠だ!!こんなイタズラ仕掛けてきてもおかしくない!!クッソ!!なぜ俺は師匠の言うことを信じてしまったんだー!!)


『私の言うことは全て正しいとは思わない事ね』

『どういうことですか?』

『言葉のままよ。私や大人、法律そして世界が全て正しいと思っているならそれは違うわ。だから信じるかどうかはあなたが決めなさい。少なくとも私に言われたことをただ鵜呑みにするのはやめなさい。信じるものなんていくらでも変わるわ。それに言われたことをただ信じるだなんてつまらないもの』


昨日話したファナとの会話がゼノンの頭にフラッシュバックされる。


(ヒントはあったんだ!!だが、仮にそうだとして!そんな嘘をつく必要あるか!?そこはもう信じさせてくれよ!!絶対あの言葉の意味違うって!!)


だが、ファナと過去の素直な自分を恨んでも今の状況が好転することはない。そう頭を切りかえてここからのことを考える。


(とりあえず、俺はなんかギルドのルールを破ったってことだな。知らなかったとはいえ、そんな言い訳意味無いしなぁ……)


「いいか!?セラちゃんはなぁ!王都でもNo.1の人気受付嬢で、Sランク冒険者のウィルの専属受付嬢でもあるんだよ!」


「ちょ、ちょっとネルソさん!!専属だからと言ってほかの冒険者の受付をしては行けないなんてルールにはありません!あくまで専属の冒険者様を優先するだけです!」


「…ウィル?」


(そんな…まさかな……)


つい先日聞いたその名前に心当たりはあるが、そのはずがないので同名の別人だろうとゼノンは判断した。


(とりあえず状況は分かった。よくわからんが、この受付さんに話しかけるって言うか、事務作業をやらそうとしたのがダメだったと)


「すみません。以後気をつけます」


(結局師匠は何がしたかったんだ?)


まぁ、いいかと思ってゼノンは別の受付をしている人の元へ向かおうとしたが


「ちょっとまって!!ゴラァ!!」


何故か酒ぐさい男に再び絡まれてしまう。ゼノンは内心めんどくさいことになりそうだなとは思いながらも「どうかしましたか?」と聞き直す。


「けっ、白の餓鬼がセラちゃんに話しかけて「はい、すみません!」で済むと思ってのんか!?ゴラァ!!何勝手に橙の俺の断りなしでどこ行こうとしてやがる!!」


(えぇ〜?マジかよ……。マジでめんどいパターンじゃん)


ちなみにだが、橙はDランク冒険者の証でもある。Dランク冒険者は下から3つである。ここまで来るとルーキーという訳ではなくベテランと言えるレベルである


「ネルソさん、ギルド内での揉め事は禁止ですよ」


受付嬢もといセラが注意してくれる。しかし、全く効果が無いみたいだ。


「アイシャちゃん、これは揉め事なんかじゃねーよ、身の程を知らねえ餓鬼に現実を教えてやってんだ。黙って見てな」


(なるほど…。冒険者はこういうのが多いのか。確かに俺の口調に驚くはずだ)


妙な所で納得したゼノン。それとは別にゼノンにはある落胆に襲われていた。


(はぁ……。なんか冒険者ってもっとカッコイイイメージだったのになぁ。やっぱ夢と現実は違うんだなぁ)


夢と現実との差の落胆を隠すことが出来ず、落ち込んでしまうゼノン。ファナが魔王の真実を語っていた時とは真逆の反応である。


「おい、クソ餓鬼!このネルソ様の教えを受けたんだ!!有り金全部置いていけ!!」


「マジっすか!!!助かります!!」


「「「え?」」」


ゼノンはネルソの手をガシリ!と握って何故か尊敬の眼差しを向ける。その事にネルソは当然、ゼノンとネルソのやり取りを見ていた周囲の冒険者やギルド職員ですら驚きの声を上げている。


当然だろう。「金をよこせ!」と言われてどこの誰が「喜んで!」というのだろうか。


ゼノンはゴソゴソと懐を漁って取り出したものをネルソに渡した。ネルソが手を開くとそこには







「ふ、巫山戯んなぁぁ!!クソガキがァ!!」


ネルソは教会からの請求書を地面へとたたき落とす。


(えぇ〜?有り金全部渡せって言ったのはそっちじゃん)


叩き落とされた教会からの請求書を渋々だが、再び自分の懐に入れる。ゼノン曰くこの時のこの請求書はとんでもなく重かったと言う。まるで十字架を背負うようだった…と。


「おいおいネルソ、お前相手にされてねーんじゃねーか?餓鬼になめられてんだよ」


ネルソを指さして笑いながら、他の冒険者の一人が声をあげる。そしてその声を聞いた、他の冒険者達が更に大声で笑い声をあげる。笑いの連鎖は止まることなくギルド全員にわたる。笑われた張本人のネルソは顔を真っ赤にさせて、怒鳴りだす。


「巫山戯んな、クソ餓鬼があっ!ギルドここでルールを破った罰を教えてやるよォ!!」


そう言って、振り上げた拳をゼノンに向かって叩きつけようとする。


(都合がいいな)


そうゼノンは思って目を瞑り、その瞬間を待った。ほかの人が見ればゼノンが覚悟を決めたというふうにしか見えないだろう。


(ん!?これは…)


ゼノンがそう思った瞬間…


ドゴッ!!


ゼノンの左頬にかなりの衝撃が走ったが、ゼノンは尻もちを着くことも無く、耐えた。


ゼノンは衝撃が来る瞬間に顔をずらし、腰をひねらすことでネルソのパンチの拳を極限まで吸収したことで倒れること無かった。もちろんこれはゼノンの筋力と体幹ありきの話である。しかし、さすがのゼノンでもエコーロケーションを身につけていない状況でこんなことは出来ない。


つまり…


(そうか…。てっきり忘れてたけどが丸わかりだ)



ファナや森での訓練は気配が分からなかったが、ネルソからはしっかりと気配が感じる。第六感があるからと言って簡単に防げるものでは無いが、直前の景色と組み合わせれば不可能ではない。


「ししょー」


ゼノンがそうつぶやくとどこからかゼノンの耳のみパチン!と指を鳴らす音が聞こえた。その瞬間にゼノンと周囲の気配は完全に断たれてしまう。


(やっぱ見てるんだな…)


そう思ったゼノンの前に……


「オラァ!!もう1発!!」


ネルソの一撃が迫る。ゼノンは手を叩いて音を出して"エコーロケーション"で動きを読もうと試みるが……


(クッソ!!全くわからん!!)


ゼノンの耳に入るのは周囲の喧騒のみ。音の反射音など聞こえなかった。


ドゴ!!


ネルソの一撃がゼノンの腹に直撃する。


「グッ!!」


ゼノンは直前の風切り音と当たった瞬間に反射により体を動かすことで何とかダウンせずに済んだ。


これもゼノンの人並外れた反射神経があるからこその技である。


「うぉぉ!!」

「やれ!ネルソ!!」

「おい!ルーキーも負けんなぁ!!ギャハハ!!」


周りの冒険者は賭け事の対象にしたり、口笛や声を出して盛り上がり、囃し立てる。


ドン!!ドゴ!!バゴ!!


「オラァ!!」

「グッ……は…」


ゼノンの口が切れて血が滴り始めた。


とうとうゼノンが上手く防御できず、吹き飛ばされてしまう…が、


「あ、やべ!!」


ゼノンは目を瞑ったまま周囲のものを壊さないように体をねじり回避する。


(あ、あっぶねぇ!!これ以上請求される訳にはいかねぇんだよ!!マジでここで人生詰む!!)


ゼノンは予め周りの景色を把握して脳でマッピングすることにより目を瞑ったままでも何がどこにあるのか、自分がどこにいるのかは把握していた。


ついでに誰がいるかも把握していて、近くにいたセラには怪我させないように立ち回っていた。


ゼノンの後ろはギルドの出入口の扉である。


(やっべ…。これ以上後ろ下がれないじゃん。後ろ飛ばされたら…ドアの請求しにがみが来る!!!)


「オラァ!!!」


ネルソが拳をゼノンに振り下ろそうとした瞬間、


ギィィ……


とゆっくりと扉が開く音がした。


(…………)


ゼノンは覚悟を決めたような顔をする。ネルソもそれに気づき、己の勝利を確信する。


「はっは!!これで終わりだァ!!」


スゥゥ……ゼノンがゆっくりと瞳を開く。


「……そうですね……」


目の前の景色はネルソが拳を大きく振り下ろそうとしてゼノンにあたる瞬間だった。


トントントンッ!!


しかし、地面に倒れたのはネルソだった。


それにはほかの騒いでいた冒険者も鎮まってしまう。


ゼノンはファナを攻撃した時のように、指でネルソの右腕、左脚、右脚を突いた。


その瞬間ネルソの手からは力が抜けて脚はふにゃりとなり、地面へと落ちていった。


「な!?足に力が…入らねぇ!?テメェ何した!?」


「すみません。後ろの人は関係ありません。それに罰ということならこれで十分では?」


それだけ言うとゼノンは自分の後ろ…、今入ってきた人の方を振り向く。


「すみません……お怪我は………って師匠……?師匠ですよね……?」


「そうよ。なかなかに面白かったわ」


ゼノンの前に立っていたのは白衣の戦闘服に包まれ、謎の仮面をしたファナであった。


「派手にやられたわね。どうせ反撃するならさっさとすれば良かったじゃない」


「号に入っては郷に従え……ってやつですよ。どうやら俺はルールを破ったみたいなんで…師匠だれかのせいで。だからその罰を受けただけですよ」


何故かゼノンの言葉にはとてつもないトゲがあった。


「そんなに怖い目で見ないでくれるかしら?私は悪くないわ。嘘を信じたあなたが悪いでしょ?」


(無茶苦茶だな!このドSめ!)


周りの冒険者は何故か静まっていて、酒も飲んでいない状況だった。


「それで、エコーロケーションの初めての実践はどうだったかしら?」


「全然ですね。まだ第六感に頼ってしまいます」


「………ウィルだ」

「どうしてここに?」

「ウィルってS級冒険者の?」


「師匠……これって……」


そのつぶやきはゼノンの耳にも届いた。間違いなく冒険者たちは今の仮面をつけたファナを見て"S級冒険者ウィル"だと話している。


「………そうよ」


そしてゼノンにもウィルという名前には心当たりがある。それは昨日聞いたファナと少年の話。その少年の名前は…ウィルだった。



『俺約束したんです。死んだ幼馴染と家族に。世界一の冒険者になるって』


「………約束なのよ。私は約束を破ることはしないわ。それが例え私のものじゃなくても。だから……不本意な形とはいえ、これで納得して貰うしかないでしょ」


「……そういうの…好きですよ」


「……はぁ。さっさと冒険者登録しなさい」


「はぁい」

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