第20話 過去と現在

「これが私の理由よ。満足かしら?」


「………弟子、とるつもりはなかったんですか?」


ファナはそんな出来事があっても師弟と言う関係より教師を選んだ。どちらも大きく変わるものでは無いが、関係の名前は大事にしているのは話で分かった。


「弟子をとるつもりがなかったわけじゃないわ。でも、彼より努力しないのに。彼より頼み込まないのに。彼より面白くないのに。私がその弟子を認めるなんて………許せないでしょ?じゃあ、彼の努力はなんだったって言うのよ。あれほど頑張っても私は彼に私の弟子と名乗ることを許さなかったのに。ふふ、彼を忘れないようにしてるようで滑稽かしら?」


「そんなことは無いですよ。俺はそういうの、好きですよ」


(むしろ、こういうことの方が信用が持てるし好感がある)


「…………そう。貴方はどことなく彼と似てるわよ」


「それは不服ですね。俺は唯一無二だと言うのに!」


「彼は謙虚だったからやっぱりあまり似てないわね」


はぁ…。とため息を着いてファナは歩き始めた。


「私は往く所があるから貴方は休みなさい」


「どこに行くんですか?」


「……墓参りよ。さっき話したでしょ?」


「!俺もついて行きます。それが弟子の務めでしょ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「師匠!早いですって!」


「どこ行ってるの?こっちよ」


ファナの過去を聞いた翌日、ゼノンはファナに付き添って墓参りに来ていた。ファナからの言いつけにより、ゼノンは墓に着くまでは目隠しでエコーロケーションの習得に励んでいる。


おかげで右往左往し時間は予想より大幅にすぎていた。


「これが………」


「ええ、そのお墓よ」


ゼノンの目の前にはふたつのお墓がこじんまりと存在していた。ファナが話していた少年とその幼馴染なのだろう。


墓石には文字が刻まれているが古すぎるためかところどころ墓石がかけていることもあって読むことはできなかった。


200年前の墓がこの時代まで残っているなんて信じられなかったが、その理由はすぐに分かった。


(なんだ?ここ一帯まるで聖域かのように結界やら防御魔法やらが巡ってやがる。こんなもん本気出した俺でもそう簡単に破れねぇわ。ってかこれ、どうやったら壊せんの?)


ファナが施したのであろう結界の外側と内側では空気すら変わっている。本当にここは聖域のようになっていた。


ファナは手馴れた手つきで墓と墓の周囲を掃除し始めた。それに習うようにゼノンも掃除を始める。


最後に2人で墓の前に立ち、手を合わせる。


「………弟子をとることにしたわ。次は…できるだけ早く来るわ」


ファナは小さな声で墓に語りかけたらゆっくりと目を開いて墓に背を向けて歩き始めた。


「それだけでいいんですか?」

「えぇ。特に前来た時と代わり映えのない日々だもの。あなたは何か言ったの?」


「ん?あぁ、そうですね…、『ありがとう』とそれだけ」


「ふふ。面識もないのに感謝するの?」


「まぁ。だって彼がいなければきっと師匠は人間に関わることなんてなかっでしょう?きっと俺を弟子にすることなんてなかった。だから、『ありがとう』ですよ」


ゼノンは笑いながらファナの問いかけに答えた。


『でも、魔族だからって絶対全員が悪いだなんて限らないでしょ?』


「……………………その通りね」


その姿がどう映ったか……それはファナにしか分からない。


(彼が私の人生を変えたのは間違いないわね…。彼が私に『人間を知るきっかけ』をくれた。そして多分…この子も……)


「でも、意外でしたね。師匠が死んだ人の墓参りを200年もするなんて!」


(なんか純愛というか…若干重い女というか……そういうの意外だわ。もっと遊んでるもんだと思ったわ)


「貴方……死にたいようね……。そんなに私が不純に見えるかしら……。すぐに剣を取りなさい。ぶっ殺してあげるわ」


「ん!?そんなの俺言ってないですよね!?ちょ、目隠し…ギャアァァァ!!!」






墓参りが終わり、ゼノンとファナは王都まで帰ってきた。ただし、ゼノンはファナによりボロボロにされた状態である。目隠しをした状態ではファナの猛撃を避けることも出来ずにひたすらに耐えるしかなかった。


(くっそ…。しっかりと気配消して攻撃してくるわ…。エコーロケーションを身に付けるのには最適かもしれないけどそれでも暴力的すぎんだろ)


「そういえば、スカーレット君はお金がないのよね?」


「えぇ、そうですね。借金がざっと1億ほど…」


あなたのせいでなぁ!!という言葉を何とか喉で抑え切り、怒りと現実の恐怖で声を震わしながら答えた。


「違うわよ」


「え?何が違うんですか?」


(確かに教会からの請求額は1億のはず……。まさか!師匠が一部負担してくれるとか!?いや、それはありえないな……となるとなんだ?)


「私が払ったあなたの武器代100万に利子をつけて1000万をプラスして1億1000万よ」


「まてまてまてまて!!いくらなんでもおかしいでしょう!?」


一瞬期待していたファナの補助ではなくむしろ反対のファナからの請求だった。さすがのゼノンもそれには反論する。


「何かしら?」


「いくらなんでも高利貸しすぎるでしょうが!!利子10倍はどう考えてもおかしい!!高利貸し屋とかぼったくり屋でもまだマシな貸し方しますよ!?かの有名な泥棒猫でも3倍でしたよ!?」


「?ちょっと何を言ってるのかよく分からないわ…」


「と、とにかく!!100万は100万です!そもそもそんな話してなかったじゃないですか!」


「そうね。貴方にはかも知れなかったけど私は(こっそりと)言ったわ」


「と、とりあえずこの話は保留です…。それで急にこんな話をしてきてどうしたんですか?無意味に俺を傷つけるために言ったわけじゃないんでしょ?」


ファナならばどんな手を使ってくるか読めたものではない。ここでゼノンはとりあえず期間を設けることでこの場を逃れる。


「…まぁいいわ。そうね。貴方にはお金を稼げる方法を教えておくわ。修行やトレーニングのついでに稼げるからちょうどいいでしょう?」


「へぇ…。それはありがたいですね」


最近修行の合間にどうやって師匠から金を頂くか、もしくはミオから教会にお金の請求の取り消し方法を必死に考えたゼノンにとってはまさに渡りに船という話だった。


「着いたわ。ここよ」


「え?ここって……」


ゼノンの目の前の店?の看板は酒と2本の剣がX字に交わったもの。外にも中の喧騒が聞こえてきて酒の匂いが漂う。さすがのゼノンでもここは知っていた。


「ここって冒険者のギルドですか?」


「そうよ。王都のね。国の中心と言うだけあって冒険者ランクが高い人がゴロゴロといるでしょうね」


冒険者ギルド─。ファナの話していた少年も所属していた組織で簡単に言えば金さえ払えば何でもする"何でも屋"だ。周辺の騎士もいない村からの依頼だったり、薬草採取の依頼だったりと様々な依頼が集まる。そしてその中でも花形であり、最も多い依頼が"魔物"の討伐である。


国の騎士達は基本的に警備だったり犯罪者の確保などの仕事もあるが逆に主な任務は魔族との戦争である。そのため国全体に散らばり、無数の数を誇る魔物相手にまで中々手を割くことが出来ない。加えて魔族と魔物では戦い方かなり違ってくる。


仮にそうしたとしても今度は魔族との戦争で負けてしまうだろう。人間の長所である"数"の有利がなければ一瞬で負けしまう。


そこで生まれたのが冒険者ギルドである。


騎士たちと違って荒くれ者や自由人が多いのが特徴の一つである。


そしてゼノンが魔王とは別にこっそりと憧れていた職業である。


(自由だが、自分のことは自分やる。カッコイイなぁ。王都に来たらやりたいことランキング第2位の冒険者登録ができるとは!!)


ちなみに1位は強くなりたい。3位に自分より強い人に教わりたいである。


「ここの扉を入ってすぐに受付カウンターがあるわ。そこの……そうね。1番左に行きなさい。そこで新規の登録するといいわ」


「了解です!では、行ってきます!!」







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お星様とレビューお待ちしております!!

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