第19話過去⑥

ゴミをぶっ飛ばした1ヶ月後……。再びゴミは私の前に現れた。私の行きつけの店に…。

「ファナ様!!」


懲りずにまたゴミが現れたこの時は本当にゴミを殺そうと思い、剣を抜きかけた。それを見てゴミが急に慌てる。


「ま、まま待ってください!!弟子入りはもう諦めましたから!!夢は自分の力だけで叶えることにします!!」

「……じゃあ今度は何をしにきたのかしら?」


次の言葉次第では本当に斬るつもりでいたわ。とにっかく鬱陶しかったもの。


「お酒飲んでる時とか料理食べてる時とか暇な時でよろしいので、お話だけでも聞かせて貰えませんか?」

「………は?」


最初は無視した。そんなのやってられないもの。だけどゴミは…いや、少年は懲りずにいつも私の元に現れた。


いつからだったかしら?魔族を殺していつものように店に足を運ぶ。そこで……

「師匠、今日もお話聞かせて下さい!」

「ハァ、今日も来たのね……。ハイハイ、私がお酒飲んでる間だけね。それと師匠じゃないわ」


私はこの少年に話を聞かせていた。単純にウザかったこととこれが妥協点だと思っているからかしらね。


「ゴブリンと出会った時はどうしたらいいんですか?」

「リッチの対処法はどうしたらいいんですか?」

「師匠は今までどんなことしてきたんですか?」


「だから師匠じゃないわよ」


私が飲み食いする間だけは彼の話し相手になっていた。これはただお酒で気分が良くなっただけ。そう思ってた。


「剣を振る時、一瞬に力を込めるの。あと貴方は脱力が出来てない。もう少し力を抜きなさい」

「おぉ、ありがとうございます!!練習してきます!」


そう言って少年は走って店を出ては剣を振っていた。私だって常に暇じゃない。1日中戦うこともあったし、戦場とは離れた場所で戦うこともあったもの。


「どうして貴方は私に教えを乞うの?」


少年は真面目だった。だから弟子にもさせずただ経験を話すだけの私よりもっと色々なことを見て、教えてくれる師匠を探すべきだと思ったから…、ただ何となく聞いてみた。それにこの日はかなり酔っていたもの。


「そうですね……。師匠が1番強いと評判だったからです。世界一を目指すなら世界一の人に教わるべきでしょう?」

「そうね……。いい判断だわ。でも、私以外にも師は探すべきよ。こんな飲んだくれじゃなくてもっとちゃんとした人を」

「師匠も十分ちゃんとしてますよ!」


そう言われて何故か悪い気はしなかった。


「どうして冒険者を目指したの?今は魔族との戦いが激しいじゃない」

「そうですね………。でも、魔族だからって絶対全員が悪いだなんて限らないでしょ?」


甘い…………。そう思ったわ。そんな考えではこの時代を生きていけない。そんな考えだから私にやられるのよ。


「………もし、あなたがクエスト中に魔族と出会ってしまったらすぐに逃げなさい。クエストなんて放棄してもいいわ。あなたじゃ絶対に勝てない。それと魔族の言葉は聞かないこと。あとは……魔族というのは油断が多いことがあるからそれを使えば逃げることも難しくないわ覚えておいて損はないわ」


「あ、ありがとうございます」


半分は皮肉だったのよね。私は吸血鬼まぞくだから。


「それと、これをあげるわ」


私は腰に提げていた上等な剣を彼に譲った。彼の剣は見るからにボロボロであと1、2回戦えば間違いなく壊れるでしょう。でも彼の現状からして新しく剣を買う余裕なんてない。私も剣を変えるつもりだったからちょうど良かっただけ。


「あ、ありがとうございます!!!」


それでも彼はとても嬉しそうだった。後でその理由を聞いたら


「だって初めて師匠から貰ったんですよ!?」「だから師匠じゃないわ」


そういうことだった。


そんなことで1年の月日が経った。吸血姫わたしからすれば1年なんて一瞬のようなものだけど人間かれにとってはかなり大きかったようだった。いつの間にか身長も伸び冒険者ランクはDランクまで上昇していた。


「これも師匠のおかげです!!」


はっきりいって私はただ経験を話していただけで彼に何かを教えていた訳では無い。だからそんなことは無いと思った。だけどそう言われて悪い気はしなかった。




いつものように魔族を狩り、いつものようにいつもの店に通っていつものメニューを頼んだ。そしていつものように彼が来るのだと思っていた。だけど……


「あれ?ファナ様。今日はいらっしゃらないのかと………」

「……どういうことかしら?」


店を見ればいつもいる彼がいないことに気づいた。珍しいわね。こんなこと滅多にないのに。


「ご存知ないのですか?お弟子さんの話ですよ。」

「彼は私の弟子じゃないわ」

「あぁ、すみません。実は彼がさっき─────」

「………………………………そう。今日は帰らせてもらうわ。お酒だけ買わせてもらうわ」


その日は雨が強く降っていた。その中を私は1人ただ歩いた。


ゆっくりと彼がいるという神殿まで歩いた。


「失礼するわ…」

「ぉ、おぉ。ファナ様…。これはこれはようこそおいでくださいました」

「………神父、ここに彼がが眠っていると聞いたわ」


「おぉ、それはそれは………。彼は独り身だったようで……。ところでファナ様とウィル様の関係は…どのようなものでして?」


「…………そうね。ただの………………話し相手よ………」


私は神父に案内されるまでの間に事の顛末を聞いた。


いつものようにクエストに出かけた彼は村に立ち寄ったのだと言う。クエストはリッチの討伐。だけど運悪く辺境の村を燃やそうとしていた魔族と遭遇してしまった。


「彼は逃げずに魔族に挑み、油断した所を攻撃して相手を撤退させたそうです。村人も感謝しておりました」


「……………………そう。神父、彼の冒険者プレート……、私が貰ってもいいかしら?」

「…どうぞ」


彼の死に顔はとても綺麗だった。


はぁ。魔族と出会ったら逃げろと言ったじゃない。いつも私のアドバイスに忠実なくせにどうして1番大事なところで破っちゃうのかしら。


村人なんか見捨てれば自分だけでも助かっただろうに。全くどうして戦っちゃうのかしら………。まぁ魔族相手に撤退を選ばせた。Dランク冒険者には過ぎた評価だわ。


……これでやっと静かになるわ。


このときをずっと望んでいたはずなのに……何故か喜べない。酒がマズイ。


何を今更…………。知っていたはずじゃない。『人間なんて路傍の石に過ぎない。寿命は短いし、弱いし、脆い』


たかが石ころが無くなっただけ。彼とは1年の関わりしかない。200年以上も生きてる私からすれば瞬きにも過ぎない。


たった1年……そう、たった1年しか話していない。私は彼のことなんて何も知らない。


だけど………


『弟子にしてください!!!』


あぁ、こんなこと考えても意味は無い。だけど止められない。


もし、私が師匠になっていれば?もし私があの子に色々と教えていれば?ちゃんと彼を見ていれば?


1年あれば確実に魔族に負けない剣士に育てることは出来た。いくらでもそのチャンスはあった。人間が脆いと弱いと知っていた。なのに───!!


私は彼に何もしてあげることは出来なかった。出来ることなんて山ほどあったというのにね。



いつか、勇者に言われたことを思い出した。


『君はいつか人間に関わりたいと思うようになる!でも、君はその方法を知らない!だから予め教えてあげるわ』

『そんなの意味ないわ。私は人間なんてゴミとしか思ってないもの』

『いいや、いつか必ずそうなる!』

『……はぁ、気色の悪い妄想ね』

『いいや、未来よ!そうなった時は旅に出なさい!色んなことと触れて縁を繋げるといい。人の一生は短い。そこに何があるのか見るといいわ!』


ムカつくわ。まさかここまでわかっていたなんて言わないでしょうね。


だから私は旅に出た。


『でも、魔族だからって絶対全員が悪いだなんて限らないでしょ?』


甘い考えね。人間なんて全員同じに決まってる。だけどその甘い考えに乗らないでもない。全員が同じとは限らない……そう思ってみましょう。



1つこの旅が終わればなりたいものができたの。それが『教師』。弟子をとることはなくても誰かに教えることは悪くない。そう思ったから。少しでも私の多くを語ることで生き残るならそれでいいと感じたから。


ふふ。醜い自己満足よね。私もそう思うわ。これで過去の後悔が消える訳でもないと言うのに。こんなこと、私のやるべきことをないがしろにしてまですることは無いのに。


だけど私は…………。

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