ゴールはどこだ?
それから数年して子供が生まれても明保は仕事を辞めなかった。
保育園に預けて、明保のお母さんは時々私たちがいない間に、広いマンションを掃除して、夕食を冷蔵庫に入れてくれた。
私はそれに異論を唱えずにいた。明保もできる日はエプロンをつけて料理を作り、子供にも、私にも愛情を注いでくれた。子供は一人だったが、中高一貫校の進学校から大学に進学した。大学院に進むと実験が多くなり、大学の近くに下宿して就職をするとそのままそのマンションに住むことになった。
私たちはまた二人になった。
とても駆け足でアッという間の50年だった。
一人娘は結婚して孫もできた。明保はいつの間にかかわいいおばあちゃんになり私はいつまでも明保のそばでその横顔を見てきた。
明保は今、私の前からいなくなろうとしている。
数年前に病を得て、私を置いていこうとしていることは耐えられない。
だが、私はあの時のように、明保の横顔にキスをした。あの時きつかった指輪を私は外すことはなかった。同じ左手を重ねる。
「彰人さん、ごめんね。あなたを置いていくなんて。待っています。ゆっくりときてね」
私は数年後、明保のもとへと旅立つ日が来た。
やっとゴールが来た。二人で次の旅へ行く日が。会えるといいな明保。
私は何も怖くないよ。
了
ゴールの先はまたスタートだったりする 樹 亜希 (いつき あき) @takoyan
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