人生・いろいろ

 サクラ三月の晴れた日に北山の頂近くにある白い教会で、お互いの両親と私たちだけで結婚式を行った。ステンドグラスの向こうから聞こえる鳥のさえずりと、差し込む優しい光を浴びてシルクのドレスを身に着けた明保はとても美しい、あの時選んだドレスは一番シンプルなマーメードタイプに刺繍やパールが縫い取りされたもの。

 明保のためにあるとでも思えるほど彼女の体にぴったりだったのは、とても不思議だが本当の話だった。



 まだ、新築の匂いが残るマンションに二人で帰る。

 教会でお互いの指に交わしたプラチナのリングに、私は少し違和感を感じていた。29歳の人生の中で指輪をしたことなど、ない。


「どうしたの? 指輪、キツイ?」

「いや、はめたことないから不思議な感じだなと思って」

「いやなら、外してもいいのよ。仕事するときにきついと気になるし、緩くすれば外れてなくしてしまうでしょ」

 明保の言葉が本当の気持ちなのか、もしくは私は試されているのか? 三年の交際期間の間に学んではいた。でも今日からは夫婦で、同じ空間で生活をして、病気の時も仕事の後も、朝目覚めるときも同じ時間を共有するのだ。

「疲れたね」

 明保はキッチンの真新しい椅子に浅く腰を掛けた。

 荷物を置いて、私もその向かいの椅子に座ると明保の手を取った。

「これからよろしくお願いします」

「彰人、本当に私でよかった? 3年も付き合ったからプロポーズしたんじゃない?」

 私は明保のまっすぐな視線をきっちりと補足して言った。

「まさか、明保しかいないよ。僕の隣にいるのは」

「ごめんなさい、つまらないことを言って。私……。こんな私だけれどよろしくお願いします」

 明保はフロアに正座して三つ指ついて頭を下げた。

 あまりにも古風で時代ががっていて、いつもドライで強気な明保らしくないので私は驚いた。だが私も同じように床に正座して明保の手を取った。

「これからもこんな頼りない僕を支えてくれる?」

「お互い様よ、家事も得意じゃないし。私も仕事辞めないって許してくれる。わがままなのは私の方だし……」


 半分ほどはきれいに整頓されているが残りはまだ荷物が完璧に整理されていないマンションで私たちは、宅配の寿司を食べてその夜を過ごした。ソファに座りスマホの画像を見ているうちにビールの缶を2本開けた明保は私に寄りかかってうとうとし始めた。

 面長できれいな切目にまつ毛のマスカラをたたえて目を閉じる。

 普段は勝気なのに、きっと緊張して昨夜は眠れなかったのだろうか。

 私は明保を抱き上げて、寝室に運んだ。細身の明保はとても軽い、この先何度も同じことがあるのだろうかと思いながらベッドの上に明保をそっと横たえると羽毛布団をそっとかける。横顔に軽くキスをすると私は寝室を出た。

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