ゴールの先はまたスタートだったりする

樹 亜希 (いつき あき)

ドラマじゃないんだから

「ねえ、どう思う? これ」

「ああ、いいんじゃない」

 女はなぜこれほどまでにこんなにも移り気なのだろうか。うんざりしてくる私はYouTubeをみるのにも少し飽きていた。ここに座っていることも結婚生活の始まりの予行練習のようなもの。

「彰人(あきと)ねえ、さっきのドレスとどちらがいいと思う?」

「そうだね、それでいいかな。さっきのもいいけど」

 実はあまり見てなんかいないきっと明保(あきほ)は次の三着目を着るはずなので適当に返事をした。

「もう!! 全然見てないじゃないの。どうでもいいわけ? 結婚式のドレスなのよ。普通の買い物とはわけが違うのよ。いいわよ、もう嫌なら帰って。ママとくればよかった」

 私のことは敵になってしまったようだ。

 ドレスをここでガチガチに見てしまえば、結婚式当日の美しさが半減すると思っただけなのに。ここまで怒ることはないだろう。それも衣装担当の女性が二人もいるところで……。

 私が悪いと誤ればいいのだと素直に謝るしかない。

「ごめん、どれも似合っているから僕には選べないんだよ」

「明保さま、そうですよ。上川様の言われることもわかります。たくさんあるドレスの中でこの3着を選ばれたのですし、どれもステキなのですよ」

 意外な助っ人の女性担当者、名前は知らないがベテランの30歳後半に見える女性がにこやかに笑いながら明保の手を取り白いサテンの靴を履かせた。明保は小さくうなずいて全身を映す鏡のほうを向いて立ち上がるとまるでそこには女神のように輝く光を纏い誇らしげに私の方を鏡越しに見つめるまなざしは自信にあふれている。


 私はスマホを手にして立ち上がった。

 自然と動く一連の動作に私は息をのんだ、スマホで撮影をした。明保はゆっくりと鏡から私の方へターンした。それもすかさず撮影する、しかし、その前のドレスの撮影はしていない。そうだ、明保はこうすることを私に望んでいたはずなのに、ドレスのことなどに無関心であった。


 普通のことではないイベント、女性視点で、その脳の中での重要性は男性脳と女性脳では違っていて当たり前なのに、私は気が付かないかった。明保は私にそれを教えようとしていた。

 

 師走の初め、窓の外は小雪が舞う。式まで数か月……。

 結婚式は三月の初めの土曜日、北山のチャペルで少人数で行われる。

 本当は大学の友人たちも招待して、ハレの時間を迎えるはずだった。

 私たち二人のスタートであり、交際三年のゴールでもあった、結婚式は感染症の終息がみられないなかでやむを得ず簡素に行うことにした。明保は28歳、私は29歳の春が来れば私たちは夫婦になる。

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