また、推しが結婚した

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

タイトル:ご報告❤

タイトル:ご報告❤


 ファンの皆様へ……


 二○二二年 ●△月 □*日


 この度、声優の「×× ちさと」は、かねてから交際しておりました一般男性と、ゴールインすることに致しました。

 この場を借りて、情報を解禁いたします。

 ファンの皆様、今後とも応援を――


 

             ◇ * ◇ * ◇ * ◇


「ぎゃあああああああああああああ! ちさとちゃあああああん!」

 

 オレは悶絶する。


 また、推しが結婚してしまった。


「いやああああああああああ!」


 カーペットの上をグルグルと回りながら、悲しみに身もだえる。


 

 推しロス! またしても推しをロス!



 最初の推しは、同業者の男性と長い交際期間の後、結婚した。

 で、あの子を推せば同業者とデキ婚!

 今の推しに至っては、一般男性と結婚したっていうじゃん!



 

 誰よ! 一般男性って誰よ! 

 どうやったら声優と結婚できる一般男性になれるのよ!

 オレらファンからしたら、それが永遠の謎なんだ!



 

 別にいいんだよ! 結婚自体は。

 カワイイお子さんも産むだろう。幸せな家庭を築けばいい。

 少子化にも貢献している。


 それにさ、オレが好きになるアイドルとか声優って、離婚しねえの!

 ずーっと幸せなままなの!

 炎上しねえの!


 相手の男性の方が、きっと彼女を幸せにしてくれるだろうよ。


 

 それが「オレじゃねえ」ってだけなんだよおおおおおお!

 何よりも、それが辛いよおおおおおおっ!

 


 コンビニ行こう。今日は酒を飲もう。飲めないけど、気分転換したい。


「いらっしゃいませー」


 店員の少女が、無関心な声で頭を下げる。

 お気になさらず。オレに使う気はガキとかに振る舞ってどうぞ。


 酒を物色していると……。

 

「な、なんですか!?」


 店員の女性が、軽く悲鳴を上げた。


 客が、店員の手を掴んでいるじゃないか。やべえ!

 

「はあはあ、きききみいい、バーチャル配信者の、『デスマスク洋子』ちゃんの中の人だよね?」


 見た目はフッツーのサラリーマン風なのに、なんだこの異様な殺気は。

 こいつは危険人物だ。オレの脳が即座に察知した。

 

「ひい! ひひ、人違いです!」


「うそだ。配信事務所から後をつけたんだから間違いない。ボクさ、君の所の機材を取り扱っているから、わかるんだ! ききき、キミは、デスマスク洋子ちゃんだ!」


 キモ! ああはなりたくないな!




「放して! 放せキモいんだよ!」



 半狂乱になりながら、店員さんは抵抗する。


 

「えええ、エッチなセリフをひと言しゃべってくれるだけでいいんだ。そしたら、おおおおとなしく帰るからグヘヘ」

 

 

「放してやれよ嫌がってンだろうがこの認知厨が!」



 キモリーマンの脇腹に、オレはドロップキックを食らわせた。

 オレはレスラーなのだ。


 

 不法侵入して「せめてお顔だけでも」とか論外!

 ファンの風上にも置けない。ファンを名乗る資格なんてねえから!

 

「テメエみてえなヤツがファンの質を落とすから、オレらみたいな健全なヤツでさえ白い目で見られるんだよ! 死んじまえ!」


 ぶしつけな自称ファンに、オレはアイアンクローを喰らわせる。


「警察です! 手を放しなさい!」



 警官レフェリーのストップが入り、あとは任せることにした。


「おケガは?」


 手を払って、オレは店員の女性に声をかける。


 なぜか女性は、顔を赤らめていた。


「ありません! あの、覆面レスラーの『グレート・アマビエ』さんですよね?」

 


「いえ。なんでも」


 オレが答えあぐねていると、腰からポトッとマスクを落としてしまう。


 そのマスクを見て、店員が限界化した。


「やっぱりそうですよね! 見覚えあったんですよさっきのアイアンクロー! 手相見て分かったもん! 握手会のときに確認したんで!」


 手相まで覚えられていたのか!



「わたし、グレート・アマビエのファンで、この近くに住んでるって聞いてここでバイトし始めたんですよ! まさか、本当に本人に会えるなんて!」

 

「きょ、恐縮です……」

  

「あああのあの、もしよろしければ……」




           ◇ * ◇ * ◇ * ◇



 ご報告

 


 この度わたくしグレート・アマビエは、かねてより交際しておりましたバーチャル配信者の『デスマスク洋子』さんと、ゴールインすることになりました。

 この場を借りて、情報を公開いたします。



           ◇ * ◇ * ◇ * ◇

 



 今日も、誰かの悲鳴が轟いた……。

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