ソロプレイ ~ 密室殺人の顛末

三枝 優

「というわけで、この邸宅に住んでいる5人全員が犯人よ!」


 どどーん!

 邸宅に来ていた、桜高校ミステリー研究部の部長である綾香がひとさし指を空中に指して宣言した。


 豪華な邸宅で起こった、密室殺人。

 死んだのはそこの主人の推理小説家。

 口元からはアーモンド臭。胸にはボーガンの矢。頭には鈍器で殴られた痕。花びんが転がっている。背中にはナイフが刺さっている。そして首にはロープが巻き付いている。

 床には、血で書いたダイイングメッセージ。”ピ”の文字。


 家族は5人。そして、被害者への犯行も5種類。だから全員が犯人と言うわけだ。


「真実はいつも・・・!!」

「あああ、綾香!私まで犯人だって言うの!?」

「「俺はやっていない!」」

「「私もよ!」」

「弁護士を呼べ!」「もう呼んだわ!もうすぐ着くそうよ!」

 騒然となる室内。警部は、残念そうな眼をあやかに向ける。


 やがて、顧問弁護士の高崎が到着した。後ろにはバイトの優一が着いてきている。

 それを見て、少しほっとした表情の警部。


 家族から状況を聞く高橋弁護士。その間、部屋をぼ~っと眺めたり、窓から外眺める優一。


「あ・・あんた。今回は私の推理に間違いないんだから!」

 あやかが優一に突っかかっていくが、優一は聞いているのかいないのか。

 部屋を見回すだけ。


 やがて、部屋にいた一同に警部は言った。

「まぁ、皆さんには任意同行していただいて聴取させていただくことになります。高崎先生も同席していただきますか?」

「はい、もちろんです」


 その時、優一がため息をついて言った。


「あ・・・その必要はないかもしれません」


 その時、警部と高崎弁護士が驚いて優一を見た。

「ゆ・・・優一君。君はついに推理する気になったのか??」


 優一は、かつて有名な少年名探偵であった。多くの難事件を解決している。そのため、警部とも懇意であった。

 だが、ある事件を契機に推理することをやめてしまう。

 殺人事件に遭遇しても、犯人を捕まえることに興味を示さない。

 推理するとしても、冤罪を掛けられそうな人を助けるだけだった。


 今は弁護士を目指し、高崎弁護士事務所で働いている。


「仕方がありません・・・それが、故人の意思のようなので」

 優一は、嫌そうに言った。




「まず、被害者はこの執筆用のデスクに立って、カップの紅茶を飲みました。もちろん青酸化合物入りです」


 デスクの横に立って、飲むふりをする。


「そして、カップを落とした時にその衝撃でテーブルに立てかけていたモップが窓の方に倒れます」

 実際にモップが床に倒れている。

「その時、カーテンの横に張っている、糸に引っかかります。その衝撃でカーテンレールの上をボールが転がり始めます」

「ボール??」

「はい、ボールです。おそらく白か赤色です」

「色もわかるのか?」


「そのボールはカーテンレースに沿って転がっていくと、やがてカッターの刃が付いた仕掛けを倒します。その先にはナイロン製の糸が結ばれており、その糸を切ることでロッカーの中に隠されたボーガンから矢が発射され胸に刺さります。その時に被害者は倒れて、ダイイングメッセージを書いたんです」

 鑑識が叫んだ。

「カーテンレースの上に仕掛けと、結ばれた糸があります!」


「そのボールはやがてカーテンレールから落ち、その下のバケツに入ります。するとそのバケツは天井まで引き上げられる仕組みになっています」

 天井を見ると、小さな赤いバケツが書棚のところにある。

 中を見ると白色のボールが入っていた。


「その書棚の上にはたくさんの本が倒れているのが見えます。もともとは立てられていたのでしょう。そのバケツが当たることで、ドミノのように倒れる仕掛けだったのです。おそらくは最後の本が倒れるとその先の紐が切れてシャンデリアからつるされていた花びんが落ちる仕掛けになっちたのでしょう」

 確かに、紐がシャンデリアにぶら下がっている。


「それと同時に、一冊本が床に落ちたのでしょう。その本には糸がついていて、部屋の反対側に振り子のように横切ってそっちの棚に移動して入ります。

 その棚にある本ですね。それが壁のスイッチをぶつかるとナイフが飛び出る仕組みになっていると思います。それが床に倒れている被害者の背中に刺さったんです」

「たしかに、何かの装置があります!」


「それと同時に、棚に置いてあった置物が落ちました。その床の置物には糸がついていますよね。

 それが引かれると、その先の滑車で別な糸が引っ張られるようになっています。その糸が引かれると、床に仕掛けられたロープが被害者の首に巻き付くようになっていたと思います。

 しかも、糸が張り切った時に、カッターかなんかで糸が切れてしまうように細工があったと思います。」

「ロープの端にナイロン製の糸が結ばれています!」


「糸は2本ありました。もう一本の糸は、その通気口につながっていたと思われます。その通気口から外の門の方に紐がつながっているのが見えます。その紐を伝って”何か”が門のところ・・おそらくポストに移動していったと思われます。

 その”何か”を見れば、事件の真相がわかるはずです」


 刑事の一人が門のところに走っていった。

 やがて、一つの白い封筒を持って戻って来た。


 一同がその封筒を見る。

 そこに書かれているのは”遺書”の文字。


「つまり・・・この事件の犯人は・・・」

「いませんよ。自殺です」



 高崎弁護士の立ち合いの元、その場で開封された遺書に書かれていたこと。



 推理小説家は、不治の病にかかっており余命わずかだった。

 すばらしい密室殺人のトリックを思いついたので、実践したくなったと書かれている。このトリックが誰によって解明されるか楽しみだとも・・


 悔しそうな顔をして聞いていた綾香が叫んだ。

「まだ謎はあるわ!」


 全員が綾香を注目した。


「ダイイングメッセージの意味がまだ分からないわ!」


「そんなの・・・決まってるだろう」

 あきれたように優一が言った。


「何よ!」

「ピ〇〇ラ装置の頭文字だよ」

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