落ちこぼれの魔術士は機械人形に夢を見る

どら

落ちこぼれの魔術士は機械人形に夢を見る

 人生っていう物は必ずしも誰しもが幸せな時間を過ごして生きていける物じゃないと思ったのはいつからだろうか。

 俺はまだ知らなかったんだ。パートナーの存在を。


「では、今日の授業はここでまで。明日の授業は実践形式です。今日習った魔術制御などはしっかりと復習しておくこと。では解散」


「明日の授業実戦形式だってー!」

「うわっまじかよ。めんどくせぇな。そんな事より遊びに行こうぜ!」


 授業終わり、男女の仲よさそうな会話が聞こえてくる。

 今日はこの授業で終わりだし俺もそろそろ帰るか。

 そう立ち上がって席を後にしようとした時。


「なぁフェルト明日の授業、実践形式だってな。お前、明日は来ない方がいいじゃないか?」

「おい無視すんなよ。せっかく落ちこぼれのお前に話しかけてやったんだからよ。なんか反応しろや」

 バンッ


 後ろの席に居た一人の生徒が俺の後頭部に小さな爆発魔法を放ってきた。

 痛さとしては小さな爆発魔法だったためデコピン程度だったが髪が少し縮れた。

 俺はそいつの事はあまり知らなかったけど、赤髪で感じが悪い男子生徒ぐらいの認識はあった。


「……ッ!」


 俺はお返しに魔法ではなくそいつの目を睨んで抵抗した。

 いや、魔法で抵抗しても恥をかくだけだから睨む事しか出来なかった。


「なんだよその目……喧嘩売ってるのか?おい」

「ちょっとあんた何やってんのさガレン。いくら威力を抑えた魔法だからって人に向かって放つのはいけないよ。もう……」

「さっき授業始まる前に先輩があんたの事探してたよ。いった方がいいんじゃない?」

「チッ……覚えておけよ。明日の授業来なかったらただじゃおかねぇ。来てもただで返す気ないけどな」


 危うく喧嘩に……いや一方的な殴り合いになっていたが、ガレンの隣に座っていた女子生徒が会話に入り込んで来たお陰で何とか今日は無事で済みそうだ。


 俺はフェルト18歳 ここルシアナ魔法学院で魔法について学んでいる冴えない落ちこぼれ1年生だ。

 俺はあまり魔法の才能に恵まれていない。

 魔法は才能9割努力1割とよく言われる程、生まれ持った才能によって優劣がつく技術。

 その才能の中でも一番魔法の力に優劣がつくといわれているのが適正魔法が何かっていう事だ。

 適正魔法とは、術士が一番得意としている魔法の事を指す。適正魔法は通常の魔法に比べて術士が何倍ものパワーで操る事が出来る。

 逆に言うと適正魔法以外は人並みまでしか操れない。

 そして、適正魔法の傾向によって術士の将来は大きく左右される。

 火、水、土、風系統の魔法など元素魔法が適正魔法とされている者はいわゆる勝ち組と言われる存在で、もしそこに他の才能があれば国家公認の魔術士として第一線で活躍できる可能性が高いといわれている。

 操作系統の魔法が適正魔法だと生産職などにつく者も多い。

 だが俺は未だに自分が何の魔法が得意魔法なのか判明していないんだ。

 それが落ちこぼれと言われる俺の一番の原因。


 ※※※※


「ただいまー」

「あら、フェルトお帰り」

「今日は帰り早かったのね。今日の学校どうだった?そろそろお友達は出来たのかい」

「はぁまたその話かよ。今日夜飯いらないから」

「ちょっと、フェルト!……夜飯いらないってまたあの子人形いじりかしら……」


 俺はあの後特に何事もなく帰宅した。

 帰宅してすぐ、俺の世話をしてくれているおばさんから友達が出来たかと毎日のように言われているセリフを流しながら自室のある2階の部屋へを駆け込んでいく。

 今日でキミと出会ってちょうど一年か。

「遅くなったな、M-001」

「今日こそキミを直してやるからな」


 俺には秘密が一つあった。

 それは一人の少女、いや機械人形アンドロイドを修理しているという事だ。


 ※※※※

 一年前


 俺はとある休日、やる事も特になかったかので一人でゴミ捨て場に金に換える事が出来そうな物がないかゴミ漁りに来ていた。


「今日も特に収穫なしか……」


 休日に何してるんだ俺。

 もう少しでルシアナ魔法学院の入学式があるのに……

 ルシアナ魔法学院で魔法を学んで立派な国家公認魔術士になるために切磋琢磨する仲間達との学園ライフを送るんだ。

 俺の適正魔法は何だろう。

 火炎魔法とかかっこいいな!いや水流魔法とかも捨てがたい……

 そんな妄想に胸を膨らませて空を眺めていたらいつの間にか寝てしまっていた。


「あれ……俺いつの間に……くらっ」


 起きた時には日が沈みかけていた。


「やばい、早く帰らないとまた怒られる」


 俺は起きて早々、帰ろうと体を起こしゴミ山を降りていた時だった。

 ドスン!

 後ろの方から鈍い何かが落ちてきた音がした。

 俺は急いで振り向くと小さな煙が上がっている。


 「なんだろう……もしかして隕石とかいう奴か!」


 俺は興味本位でその煙が出ている所まで近づいてみると、そこには――


「に、人間!?」

「だ、大丈夫ですか?あの声聞こえてます?」


 やばい返事がない。

 なんでこんな所で寝ているんだ。

 いや何かがおかしい。この煙はなんだ。

 よくよくその人間らしき者を見てみると……


「もしかして、機械……人形……?」


 人間のように思えたそれはよく見てみると壊れかけの機械人形アンドロイドだった。

 露出している肌の部分があちこち傷だらけで、損傷箇所が酷い所からは機械の部品を思わせるようなコード類や歯車が夕焼けの日光に照らされ光っていた。


「なんで、こんなゴミ山に……」


 俺は空を見上げて見たが特に、飛行船などが飛行している様子もなく、何が起きているのか全く見当がつかなかった。


「た……すk」


 俺が頭の上にクエッションマークを出しながらこの出来事にあっけをとられていた時、機械人形アンドロイドが音声を発し始めた

 急いで耳を近づけて聞いて見る。


「お願い………助けて……こん…な…こt………」


 そこで音声は途切れた。


「ま、待ってろ俺が助けてやるから!」


 俺は気づくと体が動いていた。

 たしかに助けを求める声が聞こえたんだ。

 しかもそれは、まるで人間が喋っているような感情を持つ声を。

 その声に俺は突き動かされたのか背中に機械人形アンドロイドを乗せる。

 重かったけどその時の俺はとにかく必死で火事場の馬鹿力を発揮して家に帰宅した。


 ※※※※

 帰宅後


 帰宅したら家の扉には鍵がかかっていた。


「ねぇおばさん!開けてよ!」

「お帰りなさいフェルト。なんでこんなに遅くなったのか説明しなさい」


 扉越しから明らかに怒っている声が聞こえてくる。


「なんの連絡もせずに夜遅くまで帰らなくてごめんさない。外で遊んでいたら、お昼寝しちゃって……」


 俺は素直に謝って扉を開けてもらった。


「心配したじゃないフェルト今後は遅くなるんだったら……」

「フェルト!?どうしたのその体、傷だらけじゃない。それにその背負ってる子はどうしたの!?」


 おばさんが驚くのも無理はない。

 ここまで背負ってくるのに途中足を引っかけて転んだし、傍から見たら気を失っている怪我人を連れて帰ったように見えてるだろうし。


「大丈夫だよおばさん。俺は平気だし、これ人間じゃなくて人形だから―」


 急いで自室に機械人形アンドロイドを連れ込んだ。


「よいしょっと」


 俺は機械人形アンドロイドを降ろしてもう一度損傷箇所を調べてみた。


「うむ……わからん」


 昔から壊れたものをゴミ山から拾ってきて修理する事は結構好きだった。

 だから多少は俺にも直せるんじゃないかと変な期待も持って持って帰った。

 しかし機械人形アンドロイドなんて、今まで見たこともなかったから今の俺に修理の施しようがなかった。


「綺麗だ……」

 

 どうにかならないかと調べているうちにふと顔覗くと美しい顔があった。

 馬鹿、なに見惚れているんだ俺。

 髪も白髪でサラサラしてるし……

 これが人間じゃないなんて驚きだ。

 とにかく今は直す方法を探さないと。


 それがM-001との出会いだった


 ※※※※

 現在


 あの頃から一年の月日がたったが、未だに直っていない。

 俺なりに毎日頑張って修理方法などを模索して多少形はぎこちないが傷口は修復したんだけど……

 俺は根本的な所で問題を解決出来ずにいた。


「はぁー……今日もダメそうかな」


 溜息をつくほどに分からなかった。

 機械で一番重要な問題。この機械人形アンドロイドの動力源についてだ。

 コアであろう部分は見つけてはいるのだが……


「明日の授業、行きたくないな……」


 修理方法に行き詰っていると、今日の授業終わりの事を思いだしてしまった。

 明日は、行っても行かなくても恥を明日掻くか、それ以降に恥を掻くかの二択でしかなかった。

 俺にもっと魔法の才能があればこんな事には……


「もしかして……魔力」


 俺は一つの選択肢を思いついてしまった。

 逆になんで今まで試さなかったのだろう。

 いや、俺は勝手に魔力を使うという手段を選択肢から切り捨てていたんだ。

 どうせ、俺の魔力じゃなんの役にも立たないと。

 魔力を使うたびに聞こえてくる落ちこぼれというフレーズが頭に浮かぶ気持ち悪さ。


「誰も見てないし、試すだけなら問題……ないかな」


 でもどうやってコアに魔力を流し込めばいいんだ。

 魔術教本に載っていないだろうか


「あった」


 これだこれ、えっと魔力を対象物に流し込むには、手のひらを対象物にかざして魔力の放出を行えばいいか……

 これなら流石の俺にも出来そうだ。

 やってるみか。

 俺は教本に書いてあった手順の通りに、M-001のコアの部分に当たる胸に手をさざす。


「ふぅ……」


 ゆっくりと深呼吸をした後、一気に魔力を放出すると。


「ひ、光った!」


 急に胸の部分が光始めた。

 そしてまた、あの日聞いた声が聞こえてきた。


戦闘型自立機械人形アンドロイド個体識別番号M-001再起動します」


 もしかして、成功したのか?

 俺の魔力で?


「おはようございます。マスター」


 喋った。

 直ったんだ。

 あの日、ゴミ山でキミと初めて会った時以来のこの声…… 


「お、おはよう……」


 やばいなんだか泣きそうだ。

 一年間ずっと、キミを直してきた。

 ルシアナ魔法学院に通い始めてからは才能のなさを感じても機械人形アンドロイドをド素人でも一から直して見せたら馬鹿にしている奴も少しは俺の事見直してくれるとか、魔法に全然関係ないのに無理やりこじつけて直してきた。

 

「あのマスター、なんで泣きそうになっているの?大丈夫?」


 M-001は自ら動き、俺の右目に溜まっていた涙を拭いてくれた。


「泣いてないよ。ちょっと感極まっただけ……」

「ごめん。君を直すのに1年かかった。遅くなってごめん」


 色んな感情が溢れて来て、自分でもなんで謝ったのかさえ分からない。


「ううん。でもマスターは私を助けてくれた。感謝しています」


 そう言ってM-001は俺に向かって頭を下げてきた。

 そこで俺がふと我に返り疑問をぶつけた


「いくら何でも会話が自然すぎる。キミは機械人形アンドロイド……だよね」

「そうですね、私は感情を持って生まれた自立機械人形アンドロイドです」


 感情……今の機械は感情を持つのか。

 んなわけない!

 聞いたことないぞ機械が感情を持つなんて。


「マスター。改めてお礼を言わせてください。」

「ちょうど一年前あの日私を拾ってくださり、今日まだ一日も休まず私を直してくれたこと、そして毎日私にお話を聞かせてくれたこと。いくら感謝しても足りません」


 え、今なんて?

 毎日お話?……


「お、おいもしかして聞こえてたのか?動いてなかった間も?」

「はい、私は動力を失い自ら発言する事は叶いませんでしたがしっかりと聞こえていましたとも。そのおかげで寂しさを紛らわす事が出来ました。」


 つまり、動きはせずとも意識はあったという事か……

 地獄だな。

 もし俺だったら1日でアウトだ。

 そして俺はある事に気づいた。さっきM-001が言っていた言葉


『毎日私にお話を聞かせてくれたこと』

 

 つまり、直してる時の心の声だだ漏れだっとという事。

 めっちゃ恥ずかしい!

 俺なんか変な事言ってなかっただろうか!?


「声に出してる自覚なかったし、でもなんで俺動いていないM-001に語り掛けていたんだ」

「マスター、そういう所ですよ」

「え……もしかして声に出てた?」

「はい」


 少しの沈黙を経て


「マスター、あなたはきっと私と一緒で寂しかったのでないですか?」

「寂しかった?」

「だって、マスターが話してくれる内容は自分の情けない所の自虐や愚痴に近い言葉だかりで……例えば友達との仲良しエピソードや自分が楽しかった思い出については語ってくれませんでした」

「それは……俺友達いないし」

「そこです。マスターは友達がいないから私を友達代わりに無自覚に話しかけていたのでないですか?」


 グサッ

 俺の心が槍で刺されたようにいたい一撃……

 結構容赦ないなM-001


「ごめん。話が変な方向に行ってしまった。それでなんだけども」

「はい、なんでしょうかマスター」

「M-001はなんで、あの日ゴミ山に倒れていたんだ?」


 俺とM-001との出会い。

 あれは一体どうして起こったものなのか。

 俺は知りたい。


「すみませんマスター。それにお答えすることが出来ません」

「話すのがいやなのか?」

「いえ、そうではないのですが……私の記憶ログを遡っても何故かマスターと出会って以前の記憶ログがないのです」


 記憶喪失か。

 じゃあ真相を知るのは無理か。


「じゃああと一つ、これはM-001にとって重要な事だ。今後のキミはどうするんだ?記憶がないんじゃ行く当てもない」

「マスターについて行きます」


 その一言が俺の心を揺れ動かす。


「ちょ、馬鹿待てついて行くって学院にもか?」

「はい、私は機械人形アンドロイドです。マスターの他にも自分の使用する道具として人形やペットを連れていく人もおられるのでは?」

「人形使いやペット使い……そういえば連れてきているな」

「なので、明日からはマスターの道具としてついて行きます」


 道具って、いいかたどうにかならないのかな

 それに明日は……


「マスター、顔に出てますよ。明日何かあるんですね?」

「察しがいいんだね……明日はついてこなくていいよアハハ」


 俺の恥を掻く所なんてM-001に見られたくない。

 絶対に。


「なぜですか?嫌ですけど」

「え……明日は実戦形式の授業があってM-001にそれを見られたくないんだ」


 何素直に言ってるんだ俺。


「そういう事でしたか。それでしたら尚更ついて行きます」

「私を使ってください」

「な、なにを言って……そうか戦闘型って事は……M-001魔法って使えるの?」

「ええ、多少なら使えます」


 明日の授業、俺が魔法を使っているふりをしてM-001に魔法を使ってもらえば、多少は誤魔化せるか?


「そこまで言うなら分かったよ。ただあんまり目立ちすぎないでくれよ」

「ありがとうございます。マスター」

「はぁ……今日はもう疲れたから寝る。おやすみM-001」


 なんだが、不思議な気持ちだ。

 相手は機械人形アンドロイドなのに……

 なんだこの気持ちは。


「おやすみなさいませ。マスター」


 ※※※※

 翌日


「え、なにあの子綺麗。どこのクラスの生徒?」

「てか、横に居るのフェルトじゃない?あの落ちこぼれ術士のー」


 俺はM-001を連れてルシアナ魔法学院に来ていたが――

 目立ってる……M-001が予想以上に目立ってしまっている。


「ごめんね服、今どきの可愛いの無くて……少しおばさん臭い服になってしまったけど許して」

「いいえ、マスターありがとうございます。服を用意していただけで私は感謝しております。」

「それよりもマスターに対する侮辱的な発言を感知しました。ちょっと排除してきたもよろしいでしょうか」

「まてまて、排除って。俺の事はいいんだよ。好き勝手に言ってもらって。実際間違ってないし」

「そうですか……マスターは別に落ちこぼれではないと思いますが」

「逆に誰よりも魔法の才能は上だと思うのですが」


 まぁM-001も俺の実際の実力を見たら、理解するだろうな。

 嫌だな。

 嫌われたくない。

 

「皆さん集まりましたね。では今日は昨日予告していた通り実戦形式での授業を行います」

「授業では、こちらで用意したこの的を射抜いてください。ただしこの的は魔石が含まれております。ですので皆さん適正魔法を使わなければ弾かれます。」

「やり方は自由ですので、適正魔法を十分に発揮してください。以上です」


 うげ、適正魔法だ……


「先生―!適正魔法が使えない生徒が一名いるんですがそれはどうするんですかー?」


 ガレンが大声で明らかに俺を馬鹿にしたような発言をしてくる。


「ゴホン、ええと適正魔法が何かを探すのも授業の一環です……ので頑張ってくっださい」


 先生の口から出た苦し紛れの言い訳。


「アハハハハ」


 授業を受けている大半がそれを聞いて笑った。

 やっぱり今日は来なかった方が良かったんだ。

 そう、俺は確信してしまった。


「なぁフェルト、お前には打ち抜けないよなぁ?あの的は」


 わざわざ俺の所まで来て嫌味を言うガレンとその連れ2人組


「マスター、この者達が言う事は無視して結構です。行きましょう。授業の目的はただ一つ。的を射抜くだけなのですから」


 M-001はそう言って俺を的の前まで連れ出そうとする


「なんだ。あの女このクラスにいたか?」

「いや、いなかったと思うけど」


 ガレンが取り巻きの生徒と何やらぶつぶつ話して居る。


「はい、では次は……フェルト君。魔法の準備を」


 いよいよだ。


「マスター、私の背中に手をかざしてください。昨日の夜私を目覚めさせてくれたように」

「なんで?君の魔法で打ち抜くはずじゃ……俺は人形操作魔法なんて授業で少し使った程度だし。適正もなかった」

「いいので、早く。」


 言われるがままにM-001の背中に手をかざす。

 きっと、M-001は俺が魔法を使っているように見せかけてくれてるんだな。


「では、マスター魔力を私に流してください」

「お、おう」


 もう、見せかけでもどうにでもなれ!

 俺は魔力放出を手に集中させM-001に流し込んだ。


「貫け!M-001」


 俺は目を疑った。

 俺が合図をしたと同時に、M-001の右手が的に標準を合わせ手の平から眩い光と共に光線レーザーが飛んでいき的を粉々にした。


「えぇ……あれ何?凄い威力……」

「フェルトって落ちこぼれじゃなかったの?」


 周りがそれを見て驚いていた。

 M-001は戦闘型自立機械人形アンドロイド

 でもいくらなんでもこれは……恐ろしい過ぎる。


「お、おいフェルトお前ずるしたな?この女おかしいと思ったんだ。」

「先生、こいつ機械人形アンドロイドを使って自分が魔法を放ったようにみせかけてるぜ」


「なんだって?フェルト君それは本当かい?」


 皆がガレンの言葉によって俺に疑い目を向けてきた。

 やばいバレた。流石にこれはやりすぎた。


「それにしても機械人形アンドロイドとはお前よく買えたな?そんな高級品。それとも盗んで来たのか?」

「い、いやこれは……その……」


 終わりだ。

 もう終わりだ。


「いいえ、マスターはズルなんてしておりませんよ。マスターは魔法を行使致しました」

「はぁ?何言ってるんだお前。ただが術士の道具のくせに生意気だぞ」


 ガレンがM-001向かって手を振りかざす。


「なんて愚かな人間なのでしょうか。マスターと同一の種族だとは思えません」


「ぶっ壊れっ!なに!……ぐはぁ!?」


 M-001はガレンが振り下ろした腕をなんなくと受け止め、思いっきり右足で蹴り上げた。

 ガレンはその攻撃で気を失ったようだ。


「皆さんに一つ教えてあげます。私は機械人形アンドロイドですが、特注品です。先ほど光線レーザーも私が行使できる一つの魔法です」

「ですが、私は魔法を自分の力のみで行使することは出来ません。行使出来る条件は一つ機械人形アンドロイド操作魔法適正者が私を操り魔法を行使する他ありません!」


 M-001は何を言っているんだ……

 あいつ魔法を使えるって自分で――

 機械人形アンドロイド操作魔法?

 適正者?

 その言い方はまるで俺が―――――


 とある、昔の国家公認魔術士が言っていた言葉を俺は思いだした。

『魔術士は才能がなければ、なれない職業だ。だがその才能は誰しもが持っている。魔術士になれる者となれない者の違いはただ一つ。その才能を見いだせるかどうかだ』


「マスター、申し訳ございません。黙っていまして。マスターは落ちこぼれの術士なんかじゃありません。この世界でたった一人の自立型戦闘機械人形アンドロイドを操れる魔術士です」


 そう、笑顔でM-001は答えてくれた。

 それに答えるように俺は――


「あぁ……M-001キミと出会えて………本当に救われた」


 涙声と一緒に返した。


 ※※※※

 その後


 授業はガレンの一件などがあり中止となった。

 ルシアナ魔法学院はその後の授業も中止となり職員会議が入ったそうで、生徒は家に帰された。

 ※※※※

 帰路の中で


 俺はM-001と自宅へと帰っていた。


「なぁM-001ちょっといいか?」

「はい、なんでしょうマスター」

「なんかこう…とも…だちに…」

「すみませんマスター。もう少しハッキリと言ってくださらないと私も聞き取れません」


 俺はM-001に対する感情の中に1つだけわだかまりがあった。


「あぁ、分かったよ。言うよ!M-001」

「はい」

「俺と友達になってくれ……」

「はい?」

「M-001は道具なんかじゃない。立派な俺の恩人だ……だからその友達に……」


 言ってしまった。

 誰にも言ったことがないセリフ。


「マキナです……」

「え?」

「M-001じゃなくてマキナと呼んでください。私の名前です。そうしたらマスターの友達になります」

「そっか……マキナか。いい名前だな。じゃあ俺の事もマスターじゃなくてフェルトって呼んでくれ。」

「そ、そうですね……フェルト」

「これからもよろしく、マキナ……」

 俺の名前をマキナが呼んでくれた。

 何故だろう――ただ俺は名前を呼んでくれただけなのに凄く嬉しかった。


 神様がもしこの世界に存在するとしたらそれはきっと意地悪な神様なんだろう。

 もし、あの日俺とマキナは出会わなければお互いに最悪の結末を迎えていたと思う。

 もし、どこかで俺が挫折してマキナの修理を諦めてしまっても最悪だっただろう。

 俺は人生は必ずしも誰しもが幸せな時間を過ごして生きていける物じゃないと思っていた。

 ただパートナーの存在を知った今。

 少しだけ、俺の人生は灰色の世界から色塗られたカラフルな世界に変わり始めていた。







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落ちこぼれの魔術士は機械人形に夢を見る どら @hopidesa123

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