彼女がいなくても趣味の話で盛り上がれる友達がいればそれだけで結構楽しい!

東苑

てぇてぇ話ができるって尊い関係




 とある高校の教室にて。

 朝のホームルームが始まる前にて。


「いや~! ハナ娘の最新話めっちゃ面白かったし! 観た!?」


 と、興奮気味に話し出したのは佐藤だ。

 眼鏡男子だ。眼鏡だけど勉強はできないオタクである。


 ハナ娘というのは現在好評放送中のアニメだ。

 擬人化された動物の女の子たちが競走レースで一番を目指し、仲間やライバルたちと成長していく。

「燃え」×「萌え」の、花の乙女たちの物語である。

 現在は第一〇話まで放送されている。


「観た、観たー! ダブルアクセルちゃん、とうとすぎてなー」


 佐藤に応えたのは高橋だ。

 短めの髪に日焼けした肌(もともと色黒)と一見すると運動部っぽいけどただのオタクである。

 高橋は頭の後ろで手を組み、椅子を傾かせて遊びながら続ける。


「アクセルちゃんがテイコーに『次のレースで勝負だ!』って言うんだけど、テイコー引退するから『ごめん、それ無理だから。諦めて』って返されてね~」


「でもダブルアクセルちゃんがダダこねるからテイコーがちょっとイラッとしながら『だから無理って言ってんじゃん!』ってね! うわ~、でもこれはしょうがないよな~って。テイコーも諦めたくないけど何度も怪我して辛いのわかるし、どっちの気持ちもわかるから俺たちもツラかったよな!」


「佐藤わかってるー! それでその後アクセルちゃんがディスタンスちゃんに泣きながら抱きついて顔上げてさ――」


「そうそう! それそれ! あの泣き顔は尊過ぎた。あとダブルアクセルちゃんがレース中に叫ぶところ!」佐藤が思い切り腕振りし、顔も振ってそのシーンを再現する。「『これが絶対に諦めねえってことだ!』って……泣いたよね」


「あれは泣くよ」と坊主頭の山田がうんうんと静かに頷く。坊主頭のため野球部や剣道部、陸上部の新入生に部の先輩だと間違えられて挨拶されるが帰宅部のオタクだ。


「ほら。拭けよ、眼鏡」と高橋が山田のポケットから引っ張り出したハンカチを渡す。すぐに山田に取り返される。


「アクセルは泥臭いところがいいよな。勝っても倒れこむところとかさ。いつも全力で、全部出し切るみたいな」


 静かに、しかし流れるように語る山田。

 学校のテストでトップクラスの成績を誇る優等生だが、その胸には二次元への熱い思いを秘めている。


「最初の方はさ、強いキャラが出る度に『あいつもアクセルが倒す』とか言っててさ」


「あった、あったー! 自分のこと大型新人とも言ってたし」


 高橋がゲラゲラと笑う。


「でもダブルアクセルちゃん全然強くないというね! てか、最新話までただのにぎやかしだと思ってたわ!」


 高橋に続くように腹を抱えて笑い出す佐藤。

 そんな友人たちの反応に釣られて、山田も少し笑顔になるのだった。

 そして盛り上がってきたところで担任教師が来たため一時中断。

 お昼休みの教室で朝の続きをする。


「ふゅーーーーーーじょ●!」


「はあー!」「はぁ」


 佐藤の掛け声に合わせて三人で机をくっつけ、メシを囲む。


「正直、一〇話……最新話観るまではアクセルがいつも周りに大きいこと言っても「はいはい」って感じて観てた」


 山田が母親がもたせてくれた弁当箱のふたを開けながら続ける。


「でも、だからこそ強敵たちを制して一位でゴールするあの展開はアツかった」


「今日の山田、めっちゃ語るし」


 いーじゃんと高橋が人差し指で鼻の下をこする。


「もちろん自分が勝つために頑張って走ってるんだけど、怪我して走れないテイコーへの思いっていうかさ……」


「わかる、わかる」


「ダブルアクセルちゃん、前からテイコーのことライバルって言ってたもんね! 名前すら覚えてもらえてなかったけど!」


「それな、マジで眼中にないって感じだったよなー」


「俺もテイコーだったらあんな感じだったと思う。誰だっけ? みたいな」


 おどけるように肩をすくめた山田に、色黒の高橋と眼鏡の佐藤が爆笑する。


「ディスタンスちゃんが『行けー! アクセルー!』って叫ぶところもよかったよね!? ディスタンスちゃん、自分も同じレース走ってるのにアクセルちゃんのために叫んでてさ!」


「で、そのアクセルちゃんのレース観て、他の仲間からも励まされて、テイコーが競技引退を撤回すると……あー、また泣きそう」


「俺のハンカチを取るな、高橋」


 休み時間も移動教室に行く途中もアニメや漫画の話で盛り上がる三人。

 それは学校の外でもだ。学校から駅までの間も、電車を待つ間も、電車の中でも三人は飽きもせず話し続ける。

 そのまま真っすぐ家に帰るわけもなく、駅に着いたら寄り道してカラオケに行き、アニソン縛りでもしてるのかというくらいアニソンだけを歌いまくり、「今日はどこのラーメン屋行く?」「てか今週のジャ●プ読んだ?」と行き先も話題も尽きることなく、有り余るエネルギーを惜しげもなく解放する。


 少しでも長く、気の合う友人たちと楽しむために。


「じゃあね!」


「おう!」


「また明日」


 そして別れを惜しむように……なんてことはなく。

 この時間は明日も明後日も当然のように続くと信じて疑わず。

 

 佐藤は元気いっぱいに。

 高橋は爽やかに。

 山田はハニカミながら。


 挙げる高さは違えど手を振って、家に帰るのだった。



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