きみの物語になりたい
蟬時雨あさぎ
この度、主様は物書きになりました
こんにちは、リシャロッテです。
リシャロッテというのは、
そしてこの度、
* * * * *
それは突然のことでした。
「リシャロッテ」
「はい、
「今日から僕は“物書き”になろうと思う」
ある日、王城から帰宅された
リシャロッテは“物書き”なるものがどういうものかは知りませんでしたが、
「かしこまりました。リシャロッテは応援いたします」
「……そうか、ありがとう」
その日から
“お
ただずっと、座ってなにかを書き留めているようでした。
ある日、リシャロッテは一度、聞いてみました。
「
「ん? なんだいリシャロッテ」
「
「うーん、そうだねえ……」
顎に手を遣る仕草をして、考え込んでいる様子です。
それから椅子ごとリシャロッテの方を向いて、
「僕はね、“きみの物語”を書いているんだよ」
「……リシャロッテの物語、ですか?」
「そう」
驚きました。
物語というのは、往々にして自分ではない誰かのものであるという認識でした。それなのに、
「リシャロッテがお医者さんになったら、魔法使いになったら。料理人に、絵描きに、それこそ物書きになったら。どんな時間を過ごせるか、どんな楽しいことが起こるか、それを僕は、書いているんだよ」
「――なぜ」
「なぜ、そんなことをするのですか」
リシャロッテにはわかりません。
リシャロッテは、
それなのにどうして、ありもしない可能性の話をするのですか。
物語の中に、リシャロッテを閉じ込めるのですか。
「……きみの物語になりたい、きみ自身の可能性を知ってほしくて」
「もっとわかりやすくお願いします」
「きみの
思えば、この時もう既に、
* * * * *
それから“
「リシャロッテ」
「はい、なんでしょうか
「ちょっと疲れたから、僕は眠ろうと思う」
「……かしこまりました」
「書架に、僕の書いた“きみの物語”がある」
「はい」
「どうか、読んでくれると嬉しい」
「もちろんでございます」
最後の会話は、静かに、そして
それでも、
広いお屋敷を動き回るのは、
書架に向かい、本棚を見ると、
“
「……どの物語から、はじめましょうか」
本棚を埋め尽くすように置かれた、
“
そのすべてを、
「次起きたときは……私の物語を聞いてくださいね、
きみの物語になりたい 蟬時雨あさぎ @shigure_asagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます