21回目のぱんちらを見たら即死する男の物語
真野てん
第1話
まさかさっきのが20回目のぱんちらだったとは――。
国民から無作為に選ばれた挑戦者が毎回『21』という数字をテーマに繰り広げられる大人気番組『デス21』は、今回で21回目というアニバーサリーなLIVE放送だった。
挑戦者は眼球に埋め込まれたカウンターと連動する拳銃を、コメカミ付近に銃口が来るようセットされており、どんな競技でも「21」をカウントするとトリガーが引かれるという仕組みである。
目は閉じないように器具で強制的に固定され、拳銃が取り付けられているヘッドセットもまた外科的に頭蓋骨へとねじ止めされており一見すると中世の拷問器具のようである。
記念すべき今回のテーマは「ぱんちら」だ。
その意図を主催者にインタビューしたところ、こんな答えが返ってきた。
「ぱんつーまるみえ、パン、2、0、見え、だよ君。わーはっはっは」
主催者氏は両手でパンっと柏手を打つと、続けて指を二本立て、さらに輪っかを作る。最後に「見え」と額に手をかざして遠くを見るジェスチャーをすると高らかに笑った。
要約すると前回までの20回を振り返って、そういうテーマにしたのであろう。
まったくそのセンスの冴えには毎回驚かされる。
主催者バンザイである。
さて生放送も佳境を迎えていた。
スタート直後には21人いた挑戦者もすでに残りひとりとなっている。
第一ステージ「強烈なビル風が渦巻く、女子高の通学路」では、一気に半数が失格――つまりコメカミの銃口が火を噴いて、あたりに脳漿をぶちまけたものだ。
つづく第二ステージでは「OLさんのお昼休み、脚組む公園のベンチ」はさすがにマニアック過ぎるシチュエーションだったのか、そこそこの挑戦者が通過。そこで死亡してしまった挑戦者はプロフィールにて脚フェチと記入。
この因果関係を立証するには、いましばらくの研究データが必要である。
セミファイナルとなった「見えそうで見えない階段地獄」は、世界的研究チームにより計算されつくした絶妙な勾配を持つ地下鉄の階段『ザ・モンスター』を先ゆくミニスカ軍団の数メートル後方から昇り進めていくという厄介なレースだった。
顔を背けることも、また目を閉じることも許されない。
ましてやミニスカ軍団を追い越すなど、レギュレーション違反で即失格となる。
挑戦者には前を見る権利しか与えられなかった。
続々と命を落としていく挑戦者の鮮血で、階段は真っ赤に染まっていく。
そんななか唯一のサバイバーが、やっとのことで階段を昇り切った。
ゼッケン21――。
番組上、名前は公表されないが、なかなかのイケメンである。
ファイナルステージをまえにして、彼のカウンターをチェックしたところ、なんとも運命的なことに「20」となっていた。
あと一回のぱんちらを見れば彼は死亡する。
頭蓋に固定されたオートマチックは、感情を持たぬ死刑執行人だ。
「まさかさっきのが20回目のぱんちらだったとは――」
悲痛な独白が体内に埋め込まれた配信用のマイクに拾われた。
いよいよファイナルステージの幕が上がる。
ゼッケン21の男は、ゆらりと立ち上がった。
「さあああああて、盛り上がってまいりましたああああああ」
実況中継のアナウンサーも興奮を抑えられないようだ。
ジャケットを脱ぎ捨て、実況席に足を乗せている。
「ファイナルステージは『ドキッ! 深夜のコンビニでたむろしているギャル』であります! これは見てしまう! 私だったらこおおおおれは見てしまっても仕方がない! いやさ男であれば、見ない選択はないまであるっ!」
普段は国営のお堅い報道番組でアンカーを務めている彼である。
その言葉にはじつに含蓄がある。
主催者バンザイ。
深夜のコンビニ。
まるで誘蛾灯に吸引された羽虫のように、遊び疲れたギャルたちが、人目もはばからずに大股で地面に座っている。
酔ってるからそうなのか、はたまた地で羞恥心などないのか。
むっちむちの太ももの隙間から、アニマル柄のおぱんつがチラ見している。
「くっ――」
ゼッケン21は苦しそうだった。
まだギリギリのところで眼球のカウンターは回っていない。
意を決した彼は、そのままの勢いのままゴールへと突き進んだ。
見なければいいんだ。
見なければいいんだ。
そう心のなかで念仏でも唱えるように呟き、ただ一心不乱に駆けていく。
ゴールはあと少しだ。
コンビニの店内へと走り込み、わき目もふらずにバックヤードへと消えていった。
そこに今回のゴールはある。
地面に引かれた赤いライン。
それさえ超えてしまえば、彼を苦しめている拷問装置は解除されるのだ。
あと5メートル、3メートル――。残りわずか。
そしてあと一歩。
「や、やった! やってやったぞ!」
ゼッケン21はゴールまえにも関わらず両手を上げた。
バンッ――。
あと一歩というところでゼッケン21は、コメカミを撃ち抜かれて死んでしまった。
顔中の穴という穴から、名残惜しそうに血が流れていった。
ゴゴゴゴゴゴゴ――。
なぜ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
彼は死なねばならなかったのか。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
それは。
ゴールを決めるフィニッシュライン、その向こう側。
コンビニのバックヤードで重い荷物を持ったハゲた中年太りのおっさん店員がいた。
その彼のズボンが――。
バックりと――。
裂けていたのである――。
「ぱんちらは女だけとは限らんよな。なあそうだろ、君ぃ。はははははははは!」
はいその通りです。
主催者バンザイ、万々歳。
こうして21世紀最大の人気番組である『デス21』の公開生放送は終わった。
生存者ゼロ。
それではまたお会いしましょう。
21回目のぱんちらを見たら即死する男の物語 真野てん @heberex
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