点『私』と点『読者』と点『仲間たち』を頂点とする三角関係は時間経過で点が移動して面積が大きくなっていきます。 答えは無い。

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 ファストフード店からこの物語は始まった。

 何となく元々集まってはポテトやナゲットを摘まみながら各々が読書したりゲームしたり小説投稿したり、話したり…色々していた四人だった。

 皆で同じゲームをやる事が有ったし、本を読んでいた事もあった。

 そんなこんなで色々遊んでいる内にやる事が無くなって飽きて、『自分達でも何か動こう。』って事になった。

 取り敢えず、店から出てネトゲで強力プレイしたり、私有地じゃ無い山で冒険したり、探偵ごっこやったり、色々やって来た。

 そんな中、俺は次にやる事を思い付いた。

 『俺達がやって来た色々を小説にしてみよう』と。

 同意は取り付けた。

 皆で今までやって来たゲームを先ず小説にする事から始まった。

 凄い人気になった。

 毎度毎度投稿する度に感想と評価の雨霰あめあられ

 目を覚まして投稿した小説サイトにアクセスする度に感想欄がパンクしてて、アクセス数に若干計算が必要なレベルの数字が並ぶ。

 目を丸くしたよ。全員。

 『マジで?』『やったじゃない!』『おぉ、やったな。』

 ただのFPS文字実況にそこまで喰い付いたの⁉と思っている!

 一年経過して尚人気上昇中。上位陣に実況小説が食い込んでる。

 嬉しいよ。超!

 でもさ。感想欄見てみろよ。

 『モブ(仲間の名前)さんの颯爽と、シレっとサポートするあの姿、痺れますねぇ。』byチョメランマ

 『饅頭(仲間の名前)氏の何処でも饅頭精製サイコー!饅頭次は何処に出るんだ⁉』by眠り寝転ぶ

 『狂戦士(仲間の名前)様の名前とは裏腹な頭脳と計算に敬服するばかりで御座います。』byマグネットさん

 『モブさん、この前分断されたリタさん(俺)がピンチの時に狙撃成功って実はプロのヒットマンでは?』byネグセウルフ

 『狂戦士が推しです。語気は強いのに回復アイテム投げつけるとか、リアルツンデレ?これはツンデレですか?』

 『今日のおやつは饅頭にしよう。そう、決心させられました。『今日の饅頭ターイム!』』

 仲間たちの感想ばっか!

 俺の感想だけ超無い。

 皆活躍してる中で俺だけちょっとパッとしない感じは否めないよ?

 でもさ、あんまりにも俺、空気じゃん!

 モブ、饅頭、狂戦士は好きだよ。一緒に居て楽しい。だからあれだけ色々小説の題材に出来る様な内容が有る訳だし、書いてて面白いし、人気が出たんだと思う。

 でもさ、この嫉妬はさ、抑えられないんだよ!

 読者を、振り向かせたいんだ!




 私達は何の生産性も意義も無く、毎日を無駄に過ごしていた。

 その時間を有意義に使おうと思えば使える場所に居る。

 有り余る力で何かを為そうとすれば、手が届く。

 でも、動かなかった。動けなかった。

 『なぁ、一通り遊んで飽きたし、そろそろ自分達で遊んでみねー?』

 リタのその言葉が私達をポテトとナゲットの鎖から解放した。

 それからというもの、山へ、海へ、都会へ、裏道へ、ボードの上の世界へ、電子の世界へ、釣り、ハイキング、散歩、人助け、食べ歩き、追跡、冒険、探検、演奏、バトル、謎解き………………………。

 今までに無い景色、今までにない匂い、今までにない音、今までにない感触、今までにない味。

 今まで無かった刺激。

 世界が広がっていく。歩けば歩く程、こんなにも新しい、楽しい事を発見して笑い合える。

 楽しい、心から。

 そんな中、リタはこう言った。

 『俺達がやって来た色々を小説にしてみよう』と。

 目を輝かせて言ったんだ。

 皆アイコンタクトも無しに快諾。当然だった。

 私達の足跡、奇跡みたいな軌跡。

 それが形になっていく。

 皆でアイデアを出し合って、わいわい相談して、校閲や編集、宣伝も皆であれこれ画策や工夫して………それもまた、新しい発見だった。

 そんな結果出来上がったものは大反響。

 自分達の宝物が世の中の人達に称賛されるこの胸躍る感覚。これもまた楽しかった。

 だけど………。

 「聞いてくれ!投稿した作品のフォロアーが100人超えたぞ!」

 「感想送ってくれた!返信!返信送って良い⁉」

 「レビュー来た!レビュー貰った!これどうすればいい?如何すれば良い⁉これどうやって応えるの⁉」

 「読者がさ、ファンアート送ってくれたんだよ!見てコレ!饅頭まで書いてある!これ野生の絵師?」

 「今朝、出版社から、書籍化の打診きました‼

 多くの読者に支えられ、来るとこまで来たぞぉ!」

 読者の話ばっかり!

 全力でリタをバックアップしたさ!

 最近は小説化前提で考えるから、ゲームをする時は魅せプレイする様にまでなったよ!

 この前、何気なく同じゲームやってるプロゲーマーが負けるシーンアップされてたから見たんだよ。

 プロゲーマーを負かしていたの……私達だった!

 ここまで頑張って頑張って、なんで読者ばっかり見るの⁉

 私たちと遊んでよ!楽しんでよ!コッチ見てよ!

 読者が、私達は妬ましい。




 痺れたよ。

 仲間たちが切磋琢磨して、相談して、楽しんで、色々な経験をして成長していく………。

 ストーリーはありきたりだ。

 だけど、その中身は生きている。

 そこには実際に生きていた人間の息遣いが聞こえる。

 心が見える。

 人生が、そこには詰まっている!

 それもそうだ。この作品は事実を基に創られているのだから。

 超楽しい。

 どんどん楽しくなっていく…………。

 書籍化までするって言っているしさ!楽しみでしかない。

 でもさ…………………。

 『モブ』・『饅頭』・『狂戦士』

 この三人、実在している筈なのに、表には決して出てこない!

 作者は感想で返信をくれるが、三人が一切出てこない。

 何度も何度も、何度も三人と話したいと回りくどく、直接的にアプローチをして来たが、全然音沙汰無し!

 皆を見せて欲しい!あの作品の皆を、見せて!

 あぁ、皆と話してここまで来ている作者が、妬ましい!





 こうして、私と読者と仲間たちは、それぞれがそれぞれの全力を以て全うした結果、書籍化、ドラマCD化、漫画化、舞台化、アニメ化、ドラマ化………と、成長を続け、それぞれが全力で前に進み、点同士は離れ、三角形は大きくなっていく。

 そうして出来た三角形は、皮肉にもとても美しい。

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点『私』と点『読者』と点『仲間たち』を頂点とする三角関係は時間経過で点が移動して面積が大きくなっていきます。 答えは無い。 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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