いつも同じような話ばっかり
尾八原ジュージ
いつも同じような話ばっかり
新型コロナウイルスの影響で外出の機会がめっきり減って、代わりに在宅時間が増えた時期、私はあることに気づいた。父がウェブ小説を書いているのだ。それも恋愛ものを書いているのだ。
かくいう私も家族に内緒でウェブ小説を書いている。だからSNS上で父とつながったのは本当にたまたまなのだが……正直、見てはいけないものを見てしまったと思った。
まず父はよく言えば昔気質、悪く言えば古臭い考え方のおじさんなので、「恋愛小説を男が書くのは恥ずかしい」と考えているらしく、SNS上では「若い女の子」を装っているのだ。父親の綴る『新作アップしました☆彡 よかったら読んでください><』みたいな文章は、私をひどくムズムズさせる。
おまけに書いている話がワンパターンにも程がある。主人公は勉強はできるけど地味な「僕」、そして相手はクラスのアイドルで、高嶺の花の超美人と判で押したように決まっている。理系科目が得意で土木系に進もうとしているところといい、部活が軟式テニス部なところといい、主人公のパーソナルデータが完全に父と一致するところも私をムズムズさせてくれる。文章自体は結構読みやすいけれど言い回しが古臭く、頑なにデニムを「ジーパン」と表記するところなどは、いかにもうちの父そのものだ。
などと言いながら、アップされるとつい怖いもの見たさで毎回読んでしまう私も私だ。ちなみにSNS上の私は目下、父に「BL小説書きのアラサー女性」と認識されており、「おづさんの新作、今回もキュンキュンしました☆」などとコメントされるとそこはやはり腐ってても創作者、無下にはできないものだ。だからこちらも父の作品に「こんな恋愛してみたかったです!」なんて感想を投げてみたりして、なんだかんだ励まし合いながら趣味を楽しんでいる。お互いがお互いの読者であり、貴重な創作仲間なのだ。
だからムズムズはさせてくれるけれど、決して悪い関係ではないと思う。
ちなみに父のアカウントの存在を教えてくれたのは、実は母である。三十年以上連れ添っただけあって、父の隠し事などとっくにお見通しなのだ。
「母さん、私にこんなこと教えちゃっていいの? 父さんが知ったら血圧上がって倒れちゃうかもよ?」
「だってぇ、こんなの自慢したくなっちゃうじゃない」
母は笑う。
父の作品のヒロインは、「高嶺の花の超美人」というところを除けば、どれも母に物凄く似ているのだ。家が食堂で自分も料理が得意とか、双子の弟妹がいるとか、陸上部で短距離走に強いとか……そういう特徴がそっくりそのままなのだ。おまけに名前も母の「佳奈子」に近い、「佳代子」とか「奈々子」とか「カナ」とか……。
「お父さん、これでバレてないつもりなのよ」
そう言う母はとても幸せそうなので、私も(まぁいいか)と思ってしまう。
ちなみに、一部で有名な「トンチキSF小説の作者」の正体が母だと知った私が声が出なくなるほど驚いたのは、また別のお話。
いつも同じような話ばっかり 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます