女の中
鴉變諒
1
私はある日、途方もなく呆れていた。というのも、世の中というものは酷く凄惨で私が私を認識するだけでは現在の社会における場というものを持ちえず、他者からの視覚的承認が必要であることに気づいてしまったからだ。35歳で独り身、また女と遊ぶなどという経験もなく、言わば童貞として君臨する我が生に終止符を打つべく、飲み慣れないアルコールを過剰摂取して血をアルコールで代替し、歓楽街に躍り出たはずだった。
赤い筋張った人形が交差し犇めく歓楽街において、私の姿を見るものはおらず、誰にでも話しかけそうな客引きですら私の姿が見えていないようだった。我が生がこんなにも惨めだとは!
そんな中、私を一点に見つめる一人の女がいた。同時に私も彼女を一点に見つめていたのだが、彼女がいる場所が世界の中心点だと言わんばかりに私のレンズはボヤけ、太陽のように女は神々しい光を放っていた。
「アラ……お兄さん……アタシとどう……」
私は女を酷く怪しいんだ。自らそのつもりで足を運んでおいてそれはないじゃないかと思うかもしれないが、人というものは自身をも疑う癖があるのだから仕方があるまい。さてはこの女、この客引きにも声をかけられない中年男に声をかけるなんて、金目当てか変人奇人がお好きな変わり者のどちらかだなと検討を付け始めた。
「アァ…是非」
この際だからこのような肉体を肉体たらしめるような女を誑かすつもりで、わたしは二つ返事で了承した。サテどんな風に罵詈雑言を浴びせ、この卑しく、私を「お兄さん」と呼び、頭から足先まで馬鹿にしたようなこの女の生を後悔させてやろうか。いまの私の頭に煮えきったお湯を掛けたところで、きっとそのお湯は死んでしまうことだろうと思わずにはいらないくらいに、苛立ちが込み上げていた。
私はいかにも女が商売で使い慣れているホテルに誘導され、その一室に招かれた。私は部屋の大部分を占めているベッドに腰掛け、酒の勢いと共に汚物を嘔吐した!
「お前という女は私を内心馬鹿にしながら、ここまで連れてきたんだな?この薄汚い男にお前のような女は確かにお似合いかもしれんな。肉体的な乞食。ああ、その肉体に弄ばられる可哀想な生」
女は私の吐瀉物に意思の反射を見せず、白州のように灯りの雫を拡散するベッドのシーツのうえで腹ばいになった。
「お前は心底舐めた態度をとるんだな。」
シーツの白とは対照的な白が死体のように横たり、猫のような鼻につくいやらしさが私を更に苛立たせた。そして、突如女は気が狂った雌馬のように興奮し、孤独なストリップ劇場が幕を開け、人魚のように波打つ髪、首から肩甲骨にかけて躍動する白いフィルムに覆われた筋肉の痙攣、力を加えられた木のように湾曲する腰、あ、あ、、あ、、、そこだそこ、、、。いま私は眼球がこぼれ落ちんばかりに目を見開き、女が猫のような眼で私を見つめ、萎れた手が私の足をつかみ、誘惑する。空間に歪みが生じ、女の陰部が薄暗く赤いその螺旋をしっかり開くと私は―。
女の中 鴉變諒 @96nekoYamato
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