白い部屋

たまごかけごはん

白い部屋

 白い白い部屋の中。俺はいつからここに居たんだっけ。そんなことも忘れてしまう程、永遠にも等しい年月を、この白い部屋で過ごしてきた。


 ここに在るのは、一台のベッドと水道だけ。後は何かの残骸だと思われるゴミが散乱している。食事は味のしないクッキーのような物だけだ。退屈という名の泥水に俺の心は沈んでいく。


 だが、こんな日々のなかでも時々、違うことも起きる。もっとも、別に良いことじゃない。むしろ、俺が大嫌いなイベントだ。


 ドアがガラガラと開かれる。すると、白色の悪魔たちが三匹ほど部屋の中に入ってくる。そう、『悪魔』だ。これはきっと悪魔としか形容できない存在だ。


 二匹の悪魔が俺を羽交い締めにする。俺は必死に抵抗するが、悪魔たちは微動だにしない。そうこうしている内に、もう一匹が得たいの知れない針を俺の体に打ち込む。


 俺の身体に異常な痛みが走る。普段、生活している間では感じないような、独特な痛みだ。


 悪魔たちは大量の食料を置いていくと、扉の鍵を閉めた。彼らが何をしているかも、何が目的なのかも分からない。それが俺に途方もない恐怖を与える。


 ただ、このままでは絶対に良くない事が起こるという事は本能的に理解できた。この部屋に居ると、誰かに監視されているような気さえしてきた。もう、俺は頭がおかしくなりそうだった。


 そこで、俺はこの部屋から外に出ることを決めた。


 チャンスは悪魔たちがやってくる時だけだ。俺はその時までずっと扉の隣で、ただ待ち続けた。


◇◇◇


 どれ程の時が経過しただろうか。食料が底を尽きそうになった頃、ついに奴らはやって来た。


 扉が開くと同時に、悪魔の顔面を思い切り殴り付けた。幾度となく行ってきた俺の抵抗が初めて成功した瞬間だった。


 俺はそのまま部屋を飛び出した。そこには白い廊下が伸びていてで俺の部屋にあったような扉が大量に並んでいた。


 悪魔たちが必死に俺を追いかける。俺は無我夢中に走って、とにかく下の階へ逃げることにした。すると、階段を降りた先で、荷車のような物を押していた悪魔とぶつかった。その弾みで悪魔が歪な形の刃物を落とす。


 俺はそれを拾って、悪魔にぶっ刺した。今まで与えられた痛みを返すように、めった刺しにしてやった。


 悪魔は完全に動かなくなり、辺り一面血塗れになった。冷静になってその光景を見渡すと、どうしようもない不安と恐怖に襲われた。こんなことをしてしまったら、きっと奴らは激情して俺を殺しに来るに違いない。俺は自身の体力の無さを恨みつつ、息を切らして走り回る。


──すると、ついに出口が見えた。


◇◇◇


 初めての外。澄んだ空気が俺の体を通り過ぎる。鉛のような倦怠感に押し潰されていた日々とは、もうお別れだ。


 これが自由の悦びか。


 俺はとりあえず自分の産まれでも探そうかと思う。俺は昔の記憶を殆ど覚えておらず、なぜ白い部屋に入れられていたのか、入れられる前は何をしていたのか、自分の事を全く知らない。


 こうして自分の意思で何かをしようと決心すると、みるみる力がみなぎって来た。これからは、自由に、自分のために生きるんだ。


 世界に色が戻っていく。


◇◇◇


 しばらく、街を当てもなく歩いてみた。結局、なんの手がかりも得られなかったが、それでも何だか生き生きとした自分が居た。


 そんな、ある日。とある噂を小耳に挟んだ。


『聞いた? 病院から精神病を患った殺人鬼が逃げ出したんだって。医者をめった刺しにして、まだ捕まってないらしいよ』


 どうやら、この世の中も物騒な事があるらしい。

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