エピローグ『その結末と続く未来』
その結末と続く未来
時間改変の一件以降、陽壱には夢ができた。
美月と共に在ることと、地球人と宇宙人を繋ぐこと。そのために生きていくことを自分に誓った。
まずは、今得られるものは全て得る。そういう視点で見る生徒会長という立場は、将来の糧になるものだらけだった。
生徒と学校の間に存在している生徒会は、利害の調整を必要とする案件には事欠かない。規模こそ小さいものの、社会の縮図と捉えることができた。
そこで陽壱は副会長の美月と共に、様々な伝説を残すことになった。各種学校行事の改革や、現代に見合わない校則の改善など、片手では数えられないほどだ。
惜しまれつつ卒業した後は、第一志望の大学で宇宙工学を学んだ。美月はマーケティング心理学を専攻する。
二人は学業の傍ら、レイラの口利きで『株式会社 地球防衛隊』でのアルバイトを始めた。
陽壱にとっては、宇宙人との社会勉強も兼ねているつもりだった。橘や優紀と共にノイズ退治の手伝いをしながら、少しずつ宇宙人とのコネクションを作っていった。
そこでは、宇宙人にも地球人と同じように様々な考え方をした人々が、様々な利害を持っていることを知ることができた。
レイラとの友人関係を活用するのは卑怯にも感じたが、目的のためと割り切ることができるようになっていた。それはレイラも承知の上だ。むしろ、ちゃんと活用しろとまで言われていた。
大学卒業に合わせ、陽壱は美月と一緒に暮らすようになる。小さなアパートの一室は、陽壱にとっての天国だった。
二人はアルバイトからの流れで、地球防衛隊に就職した。それぞれの希望や特性から、別々の部署に配属となった。
陽壱はその交渉力から、各国政府と宇宙人のパイプ役に抜擢された。後にその成果が認められ、宇宙人の存在を公表する計画にも携わることにもなる。
美月はいずれ訪れるであろう星間旅行の企画と運営の担当となった。
あの時のようなテロを起こさせない。二人はその思いを胸に秘め、自分にできることを精一杯に務めた。
二人の活躍もあり、宇宙人の公表時は予想ほどの混乱は起きなかった。それはもちろん陽壱たちだけではなく、地球防衛隊全体としての成果だ。
それでも続く調整ごとは多く、多忙に多忙を極めていた。しかし、陽壱は自分の生きる目的を忘れてはいなかった。
就職から三年、陽壱は一大決心をする。宇宙人との交渉など比較にならないほどの重要事項だ。
その日、陽壱と美月は実家近くの夏祭りに来ていた。どんなに忙しくても、毎年欠かさずに誘っている。あの日の約束は、何があっても忘れない。
浴衣を着てはしゃぐ美月は、これ以上ないくらいに愛らしい。それどころか、年々魅力が増しているようにも感じられた。
相変わらず少規模な打ち上げ花火を見ながら、懐かしく思うようになってしまった道を歩く。
「美月、俺と結婚してくれ」
「いいよー」
陽壱が必死で口にした言葉を、美月は簡単に受け入れた。
「あっさりだね」
「待ってたからね」
「そっか、お待たせ」
「よういちは、いつも待たせるよね。危うく私からプロポーズするところだったよ」
花火の光を受け微笑む横顔は、最高に美しかった。
婚約の直後、美月に出向の辞令が出た。出向先は恭子が興した旅行会社だった。
恭子は恭子で、レイラとの人脈を活用し、地球人初の星間旅行を前提とした旅行会社を設立していたのだ。地球防衛隊が後ろ盾にはなっているものの、表向きには『若い女社長が拓く新事業』という方が見栄えがいいのは確かだろう。
イメージキャラクターには、恭子の発案でモデルの『ヒロ』と『アキ』が採用された。
美月は「身内びいきすぎる気がするよ」と言っていたが、人気絶頂の彼らを採用する選択は世間に大好評だった。
関係者が増えてしまったため、結婚式は盛大なものになった。陽壱も美月も、こういうのはあまり好まなかったが、仕方ない。
その代わりに、二次会は時間改変に巻き込まれたメンバーだけでささやかに行われた。
この段階で、恵理花がようやく重婚を諦めてくれた。異世界の社会は安定してきているらしく、皆で遊びに行くことに決まった。
広報に異動した優紀も、社内に気になる人ができたそうだ。橘ではない。
二人の新婚旅行は、地球人初の星間旅行となった。テストを兼ねるため、関係者であることは必須だ。という名目で、レイラが推したらしい。
なぜか国賓待遇で迎えられた新婚旅行は、楽しい思い出となった。テレビ撮影やインタビューの際は、顔をホログラムで隠して対応した。目立ち過ぎると今後の活動に支障が出るし、未来の家族にも影響があるだろうからだ。
その翌々年、二人には新たな家族が誕生した。可愛らしい女の子だ。無事に生まれてきてくれたことに、陽壱は涙した。
それを期に、実家近くに一軒家を購入した。あまり大きな声では言えないが、地球防衛隊の報酬はかなりのものだった。たぶん、これ以上働かなくても一生暮らせてしまう額だ。
あくまでも普通のサラリーマンという立場を崩したくないため、一軒家といっても普通の範囲内のものを建てた。互いの実家と大差ない大きさの家は、陽壱の帰るべき場所となった。
美月は子育てに専念するため、非常勤扱いでの在宅ワークを選択した。本音は「よういちの奥さんと、この子のお母さんを本業にしたいんだよ」だそうだ。陽壱は再び美月を好きになった。惚れ直したのはこれで何度目か、数えていないのでわからない。
宇宙人の公表と交流の基礎固めという大仕事が済んだ陽壱だったが、残った問題も多く当分は暇になりそうもなかった。それでもなんとか、週二日の休みだけは確保できていた。
そんな生活が数年続き、娘もだいぶ大きくなった。社会性を身につけるため、幼稚園に入ることも検討するくらいの歳だ。
ある休みの日、娘と遊んでいるとチャイムが鳴らされた。
「はーい」
娘を抱き上げ玄関に出ると、夫婦と思わしき男女と小さな男の子が立っていた。
浅香家の隣にこれから家を建てるそうで、その挨拶をしに来たとのことだ。男の子がタオルの入った紙箱を差し出す。
「ご丁寧にありがとうございます。ほら、もらいな」
娘を腕から下ろし、受け取るように促す。
「こんにちは!」
「こんにちは」
元気に挨拶する男の子と、小さい声で恥ずかしそうな娘。
もしかしたら、未来はこうやって繋がっていくのかもしれない。
【俺は好きな子がいるんだ~最強の幼馴染みが並み居るヒロインをその絶大な好感度でなぎ倒す~】 完
【完結しました】俺は好きな子がいるんだ~最強の幼馴染みが並み居るヒロインをその絶大な好感度でなぎ倒す~ 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho
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