なんということもない話(掌編集)
代官坂のぞむ
妻に感謝
「えー、うちは手抜きごはんばっかりだよ。由美のとこみたいに、毎晩ご馳走なんて作れないし」
夕飯の後片付けをしてから友達の由美と電話。
由美とは高校時代からの付き合いで、彼女の旦那も同級生だったからよく知っている。なので二人のインスタをフォローしているが、旦那は毎日、とっても豪華な夕飯の写真をアップし続けている。しかも「今日も妻に感謝」とかコメントして。
お付き合いで「いいね!」を押してはいるけれど、毎日ずっと続くと、正直、面白くない気分になってくる。
結婚した頃の我が家の夕食には、キャベツと豚肉の炒め物と目玉焼きが、3日に1回のペースで登場していた。それぐらいしか、作れる料理が無かったから。結婚前に料理教室に通う余裕もなかったし、結婚してからも、仕事から帰ってきてご馳走を作るような、時間も精神力も持ち合わせていなかった。
今でも、多少種類は増えたけど手抜きごはんなのは変わらない。とても人様に公開なんてできたものじゃない。
由美もフルタイムで働いているはずなのに、この差はどこから来るんだろう。
「由美のとこは、リモート勤務とかあるの?」
「彼はリモート勤務になって、家からパソコンで会議していることが多いみたい。私は接客だから、リモートなんてできないけどね」
ずっと家にいるのなら、やりようがあるかと思ったけど……
でも都内に出ているなら、買ってくるという方法もあるか。デパ地下なら、あれぐらいのご馳走は揃えられるに違いない。うちも週に1回はコンビニ弁当だし。
「通勤しているなら、惣菜とか買って帰れるからいいよね」
「うんうん。たまの週末とか特別な日に買ってくるよ。美味しいよね。でも毎日買ってたら破産しちゃう」
これも違うか。ますます絶望的。
手抜きごはんとインスタ映えするご馳走。この差はどこから生まれてくるんだろう。もう聞いてしまおうか。由美になら、恥も外聞もないし。
「ねえ。どうやったら毎日あんなご馳走が準備できるの? 私には絶対無理」
「私にも無理だよ。彼が毎日、感謝してるよって作ってくれるから。彼がマメなの、知ってるでしょう」
「ご馳走さま」
10年前に仕込みが終わってたんだ。そんな究極の手抜きごはんに、かなうわけがない。
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苑田愛結さんと小糸味醂さんの主催する
「#手抜きごはんから生まれるストーリー」
参加作品です。
なんということもない話(掌編集) 代官坂のぞむ @daikanzaka_nozomu
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