桶狭間の前の、もう一つの桶狭間

毛利元就。
中国地方における稀代の謀将として、厳島での快勝とともに現代でも語り継がれていますが、その彼が大名と呼ばれた時にはすでに老境。ではそこに至るまでの前半生は何をしていたかと言えば、強大な国に挟まれて、応仁より始まる激動の黎明期を必死に生き延びていたような状態でした。

これは、そんな青年時代の中でも、最大とも呼べる毛利家存亡の一幕劇。
優秀な息子たちは当然生まれておらず、兄は死に家督は宙吊り、家中も血縁者も盟友も虎視眈々と毛利の領地を狙い、そして敵はいにしえの覇王項羽の異名を持つ猛将に率いられた圧倒的な兵力。
厳島よりも絶望的な内憂外患の中、元就はいかに謀を巡らせ、そして勝利を収めることができたのか?

基本的に忠実な硬派な作風ながらも、細部まで踏み込んでシナリオが構成されているので、戦国時代に造詣が深い方でも新鮮な知識として楽しむことができます。
そして他作と同様、魅力はなんといっても良い意味で軽やかに作中を動き回るキャラクター達。
ヒロインの雪姫をはじめ、上記とは役に歴史を知らずとも、そのアクションや心の移り変わりは、ライト層にも十分読み物として楽しめること疑いもありません。

元就と毛利家を題材とした作品として、大河ドラマと合わせて押さえておきたい名中編歴史小説です。

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