電話に関する二つの珍事

無月兄

第1話

 実際に我が身に起こった、電話に関する二つの珍事です。


 今や、国民誰もが持っていると言っても過言ではない携帯電話。あるいはスマホ。それが、一般に広く普及し始めたのはいつだろう。

 少なくとも、今から20年以上前、自分がまだ子供だった頃にはもう、学生が手にすることも少なくなかったと記憶しています。

 しかしそんなご時世においてなお、我が家は携帯どころか、未だに黒電話を使っていた。


 黒電話。その呼び名の通り黒くて、ボタンなんてどこにもない。変わりに、ダイヤルを回すことで繋がる、あの黒電話だ。

 若い人は、そもそも存在を知っているのだろうか。もし知らなかったら自分で調べてほしい。スマホがあればすぐに検索できるだろう。


 とにかく、そういうわけで時代に取り残されながらも、使い続けてきた我が家の黒電話。しかしそんな彼も、ついに引退の時がきました。自分が生まれた時からあったものなので、正直なところ無くなるのは寂しい。ですがこれも時代の流れ。変わりに、新しい電話が我が家にやってきました。


 って言っても、携帯電話ではありません。今の今までダイヤルを回していた我らが家族にとって、あんなものドラえもんの世界に片足突っ込んだ未来の道具です。


 しかし、新しく我が家にやってきた電話の特徴がこちらです。


 ・ダイヤルでなく、0から9までのボタンがあります。


 ・留守電機能がついてます。


 ・ファックスが送れます。


 ・コードレス仕様の子機がついています。


 なんかもう、この時点で十分に未来の道具感満載です。ずっと黒電話しか使って来なかった我が家の家族にとって、こんなもの使いこなせるのかと、戦々恐々としていました。


 その結果、留守電はまともに使えるようになるまで数週間かかりました。きちんと接点したはずなのに、なぜか録音されていなかったり、再生する前に間違って消してしまったり、はじめのうちは全然使いこなせてませんでした。


 そして、それ以上に厄介だったのが、子機の存在です。これに至っては、使いこなせるかどうか以前に、ある問題がありました。

 子機を見た、自分の第一声がこれです


「このケータイみたいな小さい電話はなに?」


 自分は、そもそも子機の存在を知りませんでした。

 もしかすると、テレビや他所様のお宅で目にしたことはあるかもしれません。しかしそれを特に意識したことはなく、ほとんど初めて目にしたものでした。



 訳がわからず、自分は両親に尋ねました。そもそも新しい電話を購入したのは両親です。この得体の知れない小さな電話の正体も、きっと両親なら知っているはず。

 ですが、返ってきた答えはこうでした。


「よくわからない」


 いったいなぜ、両親はよくわからないものを購入したのでしょう。とりあえず新しいものをと思って選んだら、予期せずついてきてしまったのでしょうか?


 しかし、人間は学習する生き物です。そんな得体の知れない存在である子機も、よくよく調べてみると、だんだんとその使い方がわかってきました。


 身近にあると、自然とその使い方を覚えていきました。

 初めのうちは、受信ボタンと間違えて切るを押すなんてこともありましたけど。


 ただひとつ、使い方を覚えてなお、しばらくの間おかしなことがありました。

 子機を使って電話をかけようとした時のことです。


「そのケータイみたいなやつ取って」


 また、子機の使い勝手に対する感想がこれでした。


「最初は何かと思ってたけど、あると便利だね、このケータイみたいなやつ」


 ……おわかりいただけたでしょうか。うちの家族は、しばらくの間、子機のことを『ケータイみたいなやつ』と呼んでいたのです。それまで子機の存分を知らず、このサイズの電話は、全てケータイと思っていたために起きた弊害です。


 そして数日後には、こんなことになっていました。


「まさか我が家でケータイを使うことになるとは思わなかったよ」


 もはや『みたいなやつ』がとれて、ただの『ケータイ』としか呼ばれなくなっていました。それどころか、完全にケータイと混同するようになっていたのです。


 そんな状態が数ヶ月続いた後、ようやくこれはケータイではないという正しい認識を持つことができたのですが、後日人にこの話をしたところ、クレイジーな一家だと言われてしまいました。







 そして今。子機の存在に驚愕し、しばらくの間ケータイと呼び続けていた自分ですが、今やスマホを持つにまで至りました。

 しかし人の本質はなかなか変わらないもの。持ってはいるもののさっぱり使いこなせず、とりあえずでラインやら何やら、適当にアプリをとっていました。するとそんなある日……具体的に言うと、これを書いている前日のことでした。


 ピコン


 スマホに、何かお知らせがありました。見ればおばさんからのラインで、グループ登録をしますかと表示されていました。

 しかし自分はラインのアプリをとってはいたものの、全くといっていいほど使い方を知りません。これは、登録した方がいいのだろうか?


「相手はおばさんだし、悪いようにはならないだろう。登録──これでよし」


 よくわからないけど、とりあえず登録しました。すると、それから5分ほどした時です。


 ピコン


 またもスマホが鳴り、見ると別の親戚が、さっきのグループに入ったという連絡のようでした。

 さらにしばらく経ちました。


 ピコン


 またもスマホが鳴ります。またも親戚の一人がグループに入りました。


 ピコン


 スマホが鳴るのは止まりません。また親戚か? そう思って見ると、今度は知らない人がグループに入りました。

 そしてさらに………


 ピコン──ピコン──ピコン──ピコン──


「いったい何人入るんだ!」


 次から次へとやってくる、グループ参加の通知。確認してみると、知ってる人知らない人あわせて、二十人を越えるメンバーが一気にグループ入りしたようです。この間、わずか30分程度の出来事です。


 いったい何が起きているんだ。スマホもラインも録に知らない自分からすれば、ただただ混乱するしかありません。それとも、ラインとはこういうものなのか?

 そう思っていると、ひとつのメッセージが表示されました。


『たくさん通知が来たけど、いったい何があったの?』


 そのメッセージを送ったのは、つい数分前に登録した親戚の一人でした。どうやらその人もよくわからずに登録ボタンを押し、今の状況に混乱しているようです。


 するとそこで、ころで、新たな通知が来ました。最初に連絡が来たおばさんからです。

 そこには、こう書かれていました。


『操作を間違えてしまいました。登録解除お願いします』


 事の真相は、おばさんが間違ってライン操作し、グループ登録の通知を一斉送信。それを見た人達が、次々ととりあえず登録していき、今回の事態を招いたようです。


「うちの親戚、スマホに慣れてない人が多いから、みんなよくわからずに登録したんだろうな。自分も人のこと言えないけど」


 一気に技術を進歩させると、便利な反面思わぬ落とし穴もあるものです。皆さまもくれぐれもご注意ください。

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電話に関する二つの珍事 無月兄 @tukuyomimutuki

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