現:アーク帝国、首都アーキリア、紀元前1508年

 アーク帝国の源流、古代アークは紀元前40世紀にまで遡る。

 現在のアーク帝国首都アーキリアの中心街からは、紀元前40世紀のものと推測される人骨や原始的な集落、簡易的な農場が多数発掘されている。

 アーキリアなどの南プーヴェルは多数の大河が流れ、なおかつ温暖湿潤な豊かな地であり、その歩みはトーラサズと同等か、それ以上だった。

 紀元前38世紀ごろには最古の都市国家群(トーザラスのそれとは大幅に異なるため、"南プーヴェル式都市国家"とも呼ばれている)が勃興、すでに大河の水運による高度な交易が確立されていた。

 その中でも、紀元前30世紀ごろに勃興し、砂金の多数産出する流域を抑えた都市国家キンナは特に勢力を拡大、北アーク大河(現在のアーク帝国北西部を流れるもの)流域において領域国家を形成し、1500年にもわたる栄華を極めた。

 正確な時期こそ不明であるが、そんなキンナは紀元前15世紀に"アル"と呼ばれる都市国家を征服。征服や服従は当時の日常茶飯事であり、その事業そのものにも何ら問題はなかった。


 滅ぼされたアルの王子アークルスが、"神々の恩寵"とまで呼ばれた天才であったことを除けば。

 アークルスはすでに緩やかに意識のあった反キンナ感情を伝って諸都市を巡り、統一された指揮系統を持つ強固な連合を結成。指導者として台頭した。

 もちろん、当時全盛期であったキンナがそのようなことを見過ごすはずもなく、反キンナ同盟とキンナによる大戦(キンナ戦争)が勃発することとなる。アークルスには同盟軍(歩兵3万5千、チャリオット1千5百)があったが、キンナの戦力はそれを凌駕していた(歩兵4万、チャリオット2千)。アークルスの直卒の兵士は軍の1割にも満たなかった。

 しかしながら、アークルスはその戦術眼と指導力、そして政治能力を生かし次々と戦に勝利していった。

 もちろん、キンナの軍略が繁栄故遅れていたこともあるが、それでも豊富な物量を有するキンナを相手にしたにも関わらず、戦いは殆ど一方的な形で進み、遂にはキンナ首都キンノブルクでの戦いにて勝利すると、とうとうキンナは降伏を申し出た。

 アークルスは大勝利を成し遂げた。既に同盟は統一国家と言えるほどに強固なものとなった。そして、それの指導者はただ一人であった。

 アークルスは戦勝後、同盟を"アーク"と呼ばれる国家として統合し、王に即位した。これがアークルス朝王政アークであり、現在まで続くアーク帝国の源流である。

 アークルスは焼け野原になったアークの復興に心を尽くし、古戦場を巡った。市民の要求を受け入れるため、議会を設立した。そして、新たな都として旧アルを中心に、"アルク"を設立した。その市域はアル市街に限らず、一部はキンナ市街まで含んだ広大なもので、都市を取り囲む城壁に至っては当時世界最大の物であった。

 そして、王政アークもまた486年もの間栄え続けた。王の権力は王朝中期~後期には既に有名無実化し、議会が政治を取り仕切っていたが、古代アークの奉ずるアーキリア聖教教主としての権威は高まっていた。

 議会が王に代わって、本格的に政治を主導したのは紀元前1022年からだった。議会は「元老院」と呼ばれ、構成する人口は有産市民層が主であった。

 そして、議員は権力を蓄え貴族化していった。

 元老院はすぐに貴族化した有産市民によって腐敗したが、市民の声が上がるにつれて改革の機運が高まっていった。改革は紀元前537年まで行われた。

 例えば紀元前986年の「ヌイカの乱」においては、腐敗していた元老院階級に対し市民が起こした一揆が発端であったが、改革を望む一部の元老院勢力や貴族が一揆の指揮・支援や議会での一揆の擁護を行なった結果、既得権益側への処刑や粛清が吹き荒れた。

 紀元前888年の”マルフォトの改革”では元老院に対する”民衆会”が設置され、さらに属州を治める貴族(総督)は許可なく帝都アルクへの侵入を禁止される。

 紀元前632年の”最終改革”においては、民会と元老院が統合され、水道利用料や税金を下げ、市民権獲得条件を緩和するなど、断続的に民衆に対する改革は行われ続けた。

 であるにも関わらず、元老院の腐敗と特権階級化は止まらず、度重なる蜂起・一揆による戦乱や北東のヴィラ族、南部のトルトス族といった異民族の侵入で経済は疲弊、国土の荒廃が続き、遂には支配地のうち属州の3分の2を手放したほどであった。

 国土が焼け、市民が下を向いた。そして、そのような時代には英雄が持て囃される。

 その英雄の名は、レムリアール一世と言った。彼は当時のアーキリア聖教教皇の息子、すなわちアークルスの子孫であった。

 彼は弱冠18歳で既に属州総督として失地回復に幾度となく成功しており、彼が26になった紀元前540年には元老院にて終身独裁官に就任。”古き良きアーク”のイメージから市民層から支持を集め、それを元手に元老院にて皇帝就任を発議した。

 元老院議員は会議のため議会へ向かったが、彼は市民に道を塞がせることで反対派を議会から締め出し、全会一致での皇帝就任可決を実現した。

 そして、皇帝の国は帝国である。

 アーク帝国は祖国再興に邁進した。

 レムリアール一世は道半ばの戦で倒れたが、後継者としての地位を固めたポンポトゥスがその道を引き継いだ。ポンポトゥスは妾の子であったが、”アークルスの再来”とまで謳われ、支持は厚かった。

 ポンポトゥスは即位後、”尊厳者”を意味するトゥットリヒと名乗った。

初代皇帝”レムリアール”、そして帝国の基礎を築いた”トゥットリヒ”の名はアーク皇帝の称号として、今もアーク帝国にて受け継がれている。

 そして、人間とは同じことを繰り返し、それを望むものである。

 国が滅び、荒廃すると、再興しようと動く人間が出現する。

 三光星帝国においても、もちろんそうであった。

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