現:三光騎士帝国、ラソス、紀元前610年

 トーラサズ大陸北西部、"北西トーラサズ"と呼ばれる地域の中でも最も北西に位置する、ルィト半島。

 現地のトラウ人、いわゆる現代における"三光人"は、ロート半島とその地を呼ぶ。

 彼らは紀元前700年頃になると、空でもひときわ大きく輝く太陽、月を信仰する"二光信仰"……今で言う所の"三光教"と呼ばれる宗教の前身、を信じていた。

 占いや儀式のため、彼らは星の動きを覚える学問、"天文学"を発達させていった。発達した天文学はやがて、食料となる植物や動物の生活サイクルの認知に役に立った。

 すると、それらを効率的に利用する為の各種学問が発達していく。生活は豊かになり、農業生産率が上昇し、多数の都市国家が誕生した。

 進んだ世界は余裕を持ち、やがて世界、それを構成する"物"、そして自分自身への疑問を深めていった。知識人たちは万物について考えだした。それが哲学である。

 そうして、世界中に都市国家が誕生していった。平野を、山岳を、森林を、そして海を越え、ゆっくりと、しかし確実に世界中に文明が広がっていった。

 その中でも、トラウ人の都市国家たちは特筆すべき文明力を所持していた。

 なぜならば、"星の金属"と呼ばれる特殊な金属……今で呼ばれるところの"鉄"の生産技術を独占していたからである。鉄の農具は作業力を向上させ、さらなる発展へとトラウ人を導いた。

 歴史学者はこの都市国家誕生から建国星帝アルフォルト・ラソスの誕生までを"二光期"と呼称する。


 そして、紀元前570年。

 現在のラソスに当たる都市国家に、アルフォルトと呼ばれる男が誕生した。誕生時、二光信仰の神官は、彼が太陽神と月光神の加護を受けた子であると予言した。

 そして、本当にそうなのかもしれなかった。

 

 アルフォルトは都市国家ラソスの参政権を受け取ると、瞬く間に勢力を拡大し、遂には最高指導者にまで上り詰めた。

 そして、「強いラソスを」と訴えた。

 

 いつの日か、アルフォルトは軍隊を組織し、それを指揮して周辺都市国家を併呑し始めた。

 ゲーティ、ガーラト、シルトと言った都市国家が、次々とラソスに併呑されていった。ラソスの力は強まり、都市国家に代わる新たな"領域国家"を作り出した。

 遂には戦わずして服従する都市国家も現れ、現在におけるバズーラ山脈以北、セヴェルセク海以西を支配する大帝国が形成された。

 後の三光星帝国である。

 その帝国は幾度とない勝利に飾られ、栄華を極めた。

 苗字に始まりの地である"ラソス"を贈られたアルフォルト・ラソスが倒れても、その歩みは止まらなかった。

 ラソスの一族は神と同格に扱われ、"星帝"の称号を贈られた。二光信仰に星帝崇拝を合わせた、三光教の始まりである。

 

 しかしながら、栄華の終わりは早かった。

 少し昔の紀元前1000年ごろ。アヴォレトクス大陸のホモ・アルブス国家が、ノロー諸島に攻め入った。ノローの現地人はグランダ半島に逃げた。グランダ半島の民は押し出され、その民がヒスラマーの民を玉突きしていく。そして、ヒスラマーの民が向かう先は、三光星帝国であった。

 三光星帝国は南部と東部から同時に迫りくる異民族との戦いで疲弊し、ルィト半島以外の"属州"と呼んだ土地からの徴税を強めた。もちろん、現地民の不満はセットである。

 不満はやがて闘争へと民を導き、まずゲルビス平野南部のステップ地帯にて、現地人・ワイゼル人がスィズ共和国を名乗って蜂起。続けとばかりに「知」への崇拝が強かったクーロンブ半島のエスティオ人、ログロムヌス人、ゲルビス平野のグラス人、リ・ノード湾北部のサマルア系諸民族も蜂起し、帝国は瞬く間に崩壊していった。

 もちろん、三光星帝国は腐っても大帝国であった。スィズ共和国、クーロンブ諸王連合、グラス公国、ノヴァリエ王政府の独立を許すも、失った領土は3分の2ほどであった。また、属州が独立したことで、異民族の脅威から遠ざかったことも安定化に効果があった。

 そして、3分の2もの領土を失っても、彼の帝国は立ち続けた。トラウ人たちは三光教を拠り所に、強い三光星帝国の再興を夢見ていた。 


 そして、独立した者どもも精いっぱいであった。

 ワイゼル人のスィズ共和国は異民族に押しつぶされ、ヒスラマーのローナ人との混血が進んでいった。ローナ人はその名の通り、現在はローナ砂漠西部に住む民族である。

 スィズ共和国は独立の英雄の死後まもなく大分裂し、混血したワイゼル人は良く傭兵を行ったことから"スィーザー人"と呼ばれるようになった。リ・ノード湾北部、現評議会人民共和国における場所でも状況は同様であった。

 グラス公国は肥沃なゲルビス平野からなる国力でログロムヌスと婚姻同盟し、同君下位に置いた。その国力は異民族を弾くには充分であった。

 クーロンブ半島はスィズと同じく諸勢力が乱立していたが、異民族の侵入がなかったためサジクスィー王の統一政策は順調に運び、クーロンブ諸王連合を形成し、グラスに対抗していた。

 


 北西トーラサズ情勢が複雑になる中、トーラサズ大陸西側、大東洋を挟んで左に南北プーヴェル大陸があった。

 その南部の方たる南プーヴェル大陸においても、同じようなことが起こっていた。

 

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