File 3381.Aglet TimeLine

@LefeShiki

プロローグ

 遠い地平線の先まで、本棚が並ぶ。

 棚は3401までの区分が存在し、それぞれで色が違う。

 本には、番号ごとの”人類”……"星間文明となるべき存在"の歴史、文化、技術…… その全てが記載されている。

 そして、番号は"世代"……即ち、"テイク回数やり直した回数"を表す。

 1920なら1920番目の人類。839なら、839番目の人類である。

 その中を、真っ白な人型の事務機械……"エノックEnoch"達が動き回る。

「ねーねー、イヴァ、第3381世代についての本、ない?」

「あーーもう、今事務作業中でしょうが……ちょっと待ってねミュズ」

 "イヴァ"と呼ばれたエノックが、書類に文字を書く。

「なんでよー、すぐ終わるでしょ」

 "ミュズ"と呼ばれたエノックが、移動床の上をばたつく。

「ねーねー、まだー?」

「まだ1分も経ってないでしょうが……」

 イヴァは呆れた顔で、書類を書き続ける。文字には「3381世代の問題と改善点」と書かれていた。

「よし、ひと段落。待たせてごめん」

「やった!!動かすから待ってね」

 ミュズが床に移動指令を出す。床は大きく駆動し、「3381」と大きく書かれた棚の前につく。

「よし、着いた。最初はこれで合ってる?」

 移動床が止まると、さっそくミュズが箱を取り出してくる。

「えーっと……最初はこれ?どう読む……?見るものなのかな」

 ミュズがさっそく箱を手に取り、イヴァに擦り付ける。

「待ってよミュズ……それ"3381の近世"って書かれてるよ。最初はこれ」

 イヴァが既に持っていた箱を開き、また違う箱を地面に置く。箱はホログラムを投影し、映像を映し始める。

「イヴァー、まだ?」

「待ってってば、じゃあ再生するよ……よし」

映像が流動的に、目の前にあるかのように流れ始める。映像は1枚の世界地図を映し出し、そのうちの左下の大陸にズームしてゆく。

そして、ある程度その大陸に近づくと、ナレーションが始まった。

『今から、およそ20万年前。遠い東の果ての……』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 今から、およそ20万年前。遠い東の果てのアヴォレトクス大陸で、"人類"……『ホモ・サピエンス』が誕生した。

 人類の祖先となった生物や進化の詳細な歴史は、現在アヴォレトクス大陸を領有している「ガレリア大立国」……後述するホモ・アルブスの国家の鎖国政策により、今なお明らかになっていない。

 少なくとも、ホモ・サピエンスはアヴォレトクス大陸の温暖湿潤な気候に適応、繫栄していた。

 しかしながら、7万年前。突如ホモ・サピエンスはアヴォレトクス大陸の外へ歩んだ。船を作り、『ノロー諸島』と呼ばれる西にあった不毛な寒い島の集まりに歩み、そこからトーラサズ大陸、そして世界へと広がっていった。

 何故、ホモ・サピエンスが豊かなアヴォレトクスを捨てたのか、理由は単純である。

 ホモ・サピエンスの誕生から僅か10万年後。『ホモ・アルブス』と呼ばれる突然変異種がアヴォレトクス大陸で誕生。

ホモ・サピエンスに比べて二回り大きな体格と脳は、瞬く間に文明を発展させ、ホモ・サピエンス……アルブスらからすると、"縛られた者"、を虐殺していったからだ。

 つまるところ、ホモ・サピエンスは生まれてすぐ絶滅の危機に立たされていた。

 幸いにも、ホモ・アルブスはアヴォレクトスの東部で発生した。ホモ・サピエンスは彼らから逃げるため、数多の犠牲を積み上げてノロ―諸島を渡っていった。

 そして、彼らは大きな陸地を見つけた。いつの日か「トーラサズ大陸」と名付けられたその陸地は、アヴォレクトス大陸が猫の額に思えるほど大きく、そして豊かであった。

 ホモ・サピエンスは4本足で素早く走る大型動物を「馬」と名付け、それにまたがって居住地を広げた。すりつぶして練ると高い栄養価が期待できる「小麦」と呼ばれる植物を、「畑」と呼ばれた密集栽培地で育てた。

 そして、アルブスほどでないにせよ、その大きな脳からなる知力で熱帯、砂漠、平原、山岳、森林、全ての気候に適用し、住む場所としていった。


 そして、約7万年後。

 とある部族が国家を作り、世界はようやっと歴史を始めた。

……いや、"始めてしまった"のだ。

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