春夏秋冬代行者 黄昏の射手 外伝 ~南柯の夢~③
――おい、おい、おい。
飛んだ瞬間、さくらは自分で自分を責めた。
――私を苦しめるな、私。
既に何が起きたか理解したからだ。
――自分の脳内が憎い。
大体予想は出来ていたのだが、残された季節のホームである創紫。
創紫の中でも有名な神社に舞台は移り変わっていた。
神社へ続く参道には土産屋とお茶屋がずらりと立ち並んでおり、人々が楽しそうにしている。国内外でも名を馳せている神社ということもあり、参拝を終えた人と、これから向かう人の入れ替わりが激しい様子だ。
そんな混雑の中、俯瞰さくらの視線はとある集団に吸い寄せられる。
――くそ、出来が良い夢め。
さくらの瞳がまず捉えたのは、誰もが振り向いて見てしまうような愛らしい少年だった。ふわふわの巻き毛、天使のような顔立ち。女児かどうか迷うところだが、服装は男児。
――撫子様、なんてお可愛らしい。
秋の代行者、祝月撫子の少年姿だった。
「りんどう、おろしていいよ。おもいでしょう」
少年撫子が声をかけたのは自身を抱き上げている女性。
「こんな人混みの中、下ろしたらもみくちゃになりますよ」
艶やかな女性姿の阿左美竜胆だ。
背後に『羞花閉月』の文字を背負っていそうなその人は間近で撫子と目を合わせながら言う。
「絶対に駄目です。せめて参道を抜けるまでは私の腕の中に」
涼し気な目元の美女に『めっ』とたしなめられて、少年撫子は頬を薔薇色に染め上げる。
「も、もみくちゃになってもいいよ」
「私が良くない。うちの王子様がそんな目に遭うなんて」
「王子さまなら、りんどうをまもるべきじゃないかな……」
二人の傍には女性の時と比べ少しだけ背が高い男性の真葛美夜日と、変わらず恵まれた体躯をしている女性の白萩今宵の姿がある。
「撫子様。阿左美様に抱っこされるのが恥ずかしいようなら真葛のほうにきますか?」
「撫子様、わたしも持てます。力持ちです」
真葛と白萩が意気揚々と撫子のほうに手を差し伸べる。
撫子が迷ったような顔をしてから真葛に視線を向けたところで、女性竜胆がそれを阻止した。少年撫子を更にぎゅっと抱きしめて離さない。
「りんどう……」
「駄目です。私が護衛官ですよ。私の腕の中にいるべきでしょう」
「ちょっとはずかしいの……」
「なぜ。護衛官が主と共にあるのは普通のことなのに」
男性真葛は少し呆れ顔になってから、女性竜胆の手から少年撫子を助け出し、それから『少しの間、待っていてくださいね』と声をかけ、女性白萩と手を繋がせた。
「白萩さん、撫子様を見てて。阿左美様、顔貸してください。一分で済みます」
「あ、はい」
強い口調で真葛に呼ばれ、竜胆は仕方なく従う。年上に弱いのは変わらないようだ。数歩だけ二人と離れて顔を突き合わせた。童顔の年上男性と大人びた美貌を持つ若い女が二人、話すことは互いの主についてだ。
「阿左美様、男の子の複雑な気持ち、理解してあげてください……。まだ十歳にもなっていないといえど大和男児。性差を考え始めるお年頃ですよ」
竜胆は首をかしげる。
「いまの時代にそれをとやかく言うのはよろしくないのでは」
「阿左美様、撫子様のこと『私の王子様』って言って育ててるくせに全部性差なしでいくのは無理があるでしょう」
「いや、まあ……それは……そうなんですが。この多様性の時代に男らしくあってもいい。女らしくあってもいいという肯定でもありまして。性差を尊重しつつ、か弱きものに優しくなれる男児になってほしいという私の願いが……」
「仰ってることはわからないでもないのですが、王子様ってある程度のパブリック・イメージがつきまとうものです。願いは人にまじないをかけるのと同義。貴方がかけた魔法じゃないですか。それを背負わせているのに何で自立したがる子を尊重しないんです?」
竜胆が反論出来ないでいると、真葛が追撃するように問いかける。
「言ってみてください。王子様とは? どんな存在ですか?」
真葛に問われて、竜胆は口ごもりながら言う。
「……弱きを助け、強きを挫く。いつも紳士で、人に別け隔てなく接する。ヒーローのような存在です」
「そうですね」
「王子様たれと育てるのは間違っているでしょうか……」
「いえ、間違っているとは言っていません」
肯定の言葉をもらい、竜胆は少し嬉しくなったが真葛はその喜びを許さない。
「けれど、撫子様に王子様たれと願っているならいまのやり方はよろしくありません。もう少し撫子様の御心を尊重しないと。出会った頃ならいざ知らず、貴方に『王子様』という概念を教えられた撫子様はすでにそのような存在を目指しています。守るべき女性に抱っこされる現状が恥ずかしくなる時なんです。嫌がってるのに抱っこし続けるのは駄目ですよ」
竜胆は露骨に不満そうな表情を浮かべた。
「……そりゃあ、いつかは……離れるべきですが、早くないですか? まだあんなに小さいのに……。あの子は苦労してきたんです。私が少しくらい甘やかしてあげたってバチは当たらないじゃないですか」
「バチは当たりませんが、撫子様を尊重出来ていません」
「ええ……」
「撫子様は聡明な方です。内面の豊かさを思えば女性との接触に抵抗を覚え始めるのは当たり前のこと。僕達の幼い頃と同じように考えることのほうが、無理があるんですよ」
竜胆は腕を組んで唸ってから、ちらりと少年撫子を見る。
大人しく白萩と手を繋いで待っている彼はとても可愛らしい。人形のようだ。
女性白萩との手つなぎを拒否していないところを見ると、抱っこされることだけが嫌なのだろう。そこらへんはまだまだ子どもだ。
「……私の撫子は恐らくこの世の中でも五本の指に入るほど聡明で素晴らしい男の子ではあるので、早熟なのも仕方ありませんが……」
まだ納得しきれていない様子だが、真葛の諭しは効果があった。
竜胆はようやく諭しを受け入れ始める。
「きっと二人きりの時なら貴方に甘えるでしょうけど、いまは人前ですから。ちょっと気を遣ってあげてくださいよ。同じ男として気の毒に思います」
「うーん……」
「僕だって、有事の際に阿左美様に守られるのは歯がゆい気持ちがありますよ。申し訳ないなって……。非戦闘員ではありますが、男ですので。女性に守られることに忸怩たる思いが……」
「え、真葛さん非戦闘員なのにそんなこと思うんですか? 気にしないで守られてくださいよ」
竜胆に相手を煽る気持ちはなかったのだろうが、真葛は苛ついた。
「男たるもの、という考えは大和に生まれた男子なら少しは持つものです!」
「はあ……時代錯誤ですね」
「阿左美様は男顔負けの護衛官だから理解しにくいんでしょうが、あんまりにも自分の気持ちばかり優先してたら嫌われますよ。とにかく、撫子様の繊細な 御心を慮ってください」
「はあ……」
「はあじゃなくて『はい』が聞きたいんですよ、こっちは」
真葛が苛々した様子で言う。対して竜胆はのらりくらりとした様子だ。
「まあ……そうですね。主の心も身体も守るのが護衛官ですから」
頷いてから、女性竜胆は撫子と白萩のもとへ戻った。
すぐにしゃがんで、撫子と目を合わせてから言う。
「すみません。少し頭が冷えました。撫子、もし抱っこがお嫌でしたら……私をエスコートしてくれませんか? 白萩もいいだろうか」
少年王子様、撫子は目を大きく開いて輝かせる。それから、白萩を見上げて了解の意思を確認した。白萩は優しく微笑んで『どうぞ』と言う。
「りんどう……でもね、あるくのおそくてもいい……?」
おずおずと尋ねてくる撫子に、竜胆は相好を崩す。
「ええ、もちろん。そもそもこの参道の進みが遅すぎますし、速く歩く必要がありません」
「わかった……あとね、あのね、りんどう」
「はい、撫子」
「りんどうがいやなわけじゃないよ」
告げられた言葉に、竜胆は目を瞬いた。
「だっこがね、ちょっと……はずかしかったの……」
少年撫子の言葉は、その一音、一音に竜胆への思慕がにじみ出ている。
「おなじくらいの年の子があるいていて……『あの子だっこされてる』っていわれて、はずかしかったの……」
竜胆は少し陰っていた心が急速に満たされていくのを感じた。
「だから、だっこがいやだなっておもっただけで……りんどうがいやなわけじゃないよ……」
「ええ、わかっております。貴方が私を嫌うはずがない」
「ほんとにほんとうだよ。りんどうが大好きだよ」
「撫子……」
女性竜胆は少年撫子を抱きしめて頬ずりしたい気持ちがむくむくと湧いたが、先程真葛に言われたことを思い出し、なんとか踏みとどまった。
「私の秋よ。あまり気になさらないでくださいね。貴方に失礼なことを言ったその童子も、きっと私達の姿が羨ましかったのでしょう」
「そう、だとはおもう……。でもね、そうじゃなくても……やっぱり王子さまはお姫さまをまもるものだから……だっこはよくないと思ったんだ」
撫子はそう言うと、はにかんだ笑顔を見せた。あらためて撫子は竜胆と手を繋く。
撫子がすぐに『いこう』と言うので、竜胆は最後の言葉に対して返事をすることが出来なかった。
――お姫さまをまもる。
守りたい存在が既にいるのだろうか、と鈍感な竜胆は思う。
――私はそんな風に思ってもらえる存在ではないし、どちらかと言えば騎士だ。
だがもし、撫子が言う『お姫さま』が自分を指しているのなら。
それはとても光栄で、そして胸がぎゅっと締め付けられるくらい幸せなことだと竜胆は思った。
こんなに小さな命が、自分を一生懸命守ろうとしてくれている。
竜胆はその信頼と愛情に応えねばならない。
「……」
竜胆はまたちらりと撫子を見た。
撫子も視線に気づき、二人の視線が交わる。
少年撫子は繋いだ手を揺らしてから満面の笑顔を見せてくれる。
――貴方にふさわしい人になりたい。
あらためて、竜胆はそう思った。
真葛と白萩は顔を見合わせてから二人の後ろを守るようについていく。
この小さな少年王子様が、その未来が楽しみになるような光景だった。
――可愛いな、撫子様。
俯瞰さくらは自己嫌悪に陥っていたが、多少心が回復していた。
少年撫子の存在があまりにも可愛らしいので癒やされたというのもある。
――だが、もうかんべんだ。
彼らを貶めるような妄想はしていないが、実在人物を夢の中で歪ませてしまっているのは事実。
――頼む、もう目覚めさせてくれ。頼む。
さくらの疲労を感じ取ったのか、はたまたもっと深い眠りに誘われているのか、視界はまた変わっていく。
――こんな夢、人に言えん。
さくらの願いに呼応するように、やがて夢は夜に溶けていった。
それからしばらくしても、さくらは自分が見た夢のことを他者に話さずにいた。
自分の主である雛菊にはもちろんのこと、まだ藤堂や霜月にも夢の「ゆ」の字も漏らしていない。
胸にしまった秘密を忘れかけた頃、さる高貴な御方から電話がかかってきた。
『姫鷹様、ご健在だろうか。花葉様もお傍に?』
相手は大和の夜、黄昏の射手。
四季界隈も巻き込んだ神妻騒動の渦中にいた巫覡輝矢だ。
『あらためまして先日の事件ではご迷惑をおかけしました……。こちらもようやく身辺が落ち着きまして、四季の方々にも正式にご報告出来ることがあって……。あ、よかったら果物など送らせていただけないかな? 竜宮でね、仲の良い果物屋さんがいて……それとも他に食べたいものがあれば……』
「輝矢様、恐れ多くもお詫びの御品は以前にもいただきましたし、お気になさらずに。我が主も輝矢様と花矢様のご無事が何よりの喜びと申しております。正式なご報告とは……?」
さくらはそこで神妻騒動にて中心人物だった娘が輝矢の養子になる流れに話が進んでいると聞かされる。
いつの間にか傍にいた雛菊や藤堂、霜月も驚きの様子だ。
反応はそれぞれだった。藤堂は感心した様子。霜月は若干の拒絶を示し、雛菊はひたすら困惑していた。途中で電話を雛菊にも交代し、輝矢と直接話すとようやく納得した様子ではあったが、戸惑いの色は消えない。
さくらはと言うと、藤堂と霜月と雛菊の感情を全部足して割ったようなものになった。
『輝矢様、ご乱心を』とさくらは思いはしたが、輝矢にしか出来ない民への救済の流れであることは確かだったので、『ご乱心を』の言葉は呑み込んだ。
「もしかしてこの説明、他の季節にもしているんですか?」
『うん、ひとまず冬の方々には先程電話をさせてもらった』
「狼星、失礼な態度を取っていませんでしたか?」
『いや、まさか。さっぱりとした態度だったよ。正気を疑われはしたけど』
「やっぱり失礼な態度を取ってるじゃないですか。代わってお詫び申し上げます」
『それ、寒月様にも言われた』
冬と春の仲の良さに輝矢は電話の向こうで相好を崩す。
『さすがに事件のことを書面で済ませたり、他の人から告げたりするのは不義理すぎるから。皆様も結局どう始末をつけたかお知りになりたいかと思ってご連絡させていただいたんだ……。いやはや、本当に本当にご迷惑をおかけしました』
「……知りたくはありましたので、お気遣い感謝します」
『それで驚いた?』
「度肝を抜かれました」
率直なさくらの言葉に、輝矢は声を出して笑った。
『この後、夏と秋の方々にもご連絡するよ。囚われの身の故、直接頭を下げに行けないことが本当に申し訳ない』
「いえ、御身の場合は致し方ないことかと。こうしてご連絡をいただけたこと自体、身に余る光栄です。……それで、あの、輝矢様。エニシの花矢様にはこの事は……?」
さくらは花矢の顔を頭の中に思い浮かべる。
まだそれほど交流が深いわけではないが、今年から親しくさせてもらっている現人神だ。さくらとも雛菊とも年が近い。輝矢に傾倒していることはあの事件の動揺ぶりなどでも知っていたので、彼女の反応が気になるところではあった。
『四季の方々より先にお伝えさせてもらった』
「どうでした……? その、ご反応は……」
『絶対に反対。許せない、で終わってしまった……』
さくらは『そりゃあそうでしょうよ』と言いたくなる。
花矢は輝矢が保護しようとしている娘、一鶴の指示で不審者に攫われかけたのだ。
とても怖い思いをさせたことを、輝矢もわかっているはず。
『こればかりは当然の反応なので……俺もなんとも言えない。花矢ちゃんに理解を求めるのも違うと思う。だから、俺は謝ることしか出来ないよ』
「……そう、ですね。本当になんとも言えないです」
『守り人の弓弦君もね、花矢ちゃんほどではないけど反対の姿勢だ。ただ……此度の事件の前に、ほら……俺が弓弦君を救う為にエニシに行っているから強くは言わないでくれてる感じ。あと、花矢ちゃんよりは少し政治的な部分も見てくれていて……この措置があるから誰も死なず、鎮守衆との関係もなんとか保たれているというのもわかってくれているみたい』
でも、理解を示すことと感情は別物だから、と輝矢は言う。
ずっと可愛がってきた妹分からの反発は輝矢にとっては辛いものだろう。
声音が少し寂しそうに聞こえる。
「その……花矢様は輝矢様のことを本当に敬愛されていますから。恐らく、ご自身を加害した相手が、というより……輝矢様を加害した相手なのになぜ、という憤りのほうが大きいのではとは思いますよ」
『そうなんだよね……花矢ちゃん、本当に良い子で……』
「事件の最中も輝矢様のことをとても心配されてました……。御身を大切に思えばこその反応かと」
『うん……』
「とはいえ、ご聡明な方ですからいつかは輝矢様の選択が、民を含め関係者を誰も死なせない為のご決断であったとご理解される時が来るとは思います。私も最初は驚きましたが、よくよく考えてみると……輝矢様がそのような動きをされないと、現時点で誰かが責任を取る形で首をくくっていてもおかしくはありませんからね」
『……姫鷹様は聡い方だなあ』
「いえいえ、村社会の虐め方というものをよくわかっているだけです。私が言ったところでお慰めにもならないでしょうが……ご決断が間違いだとは思いません。実際、首謀者の娘は輝矢様がお救いにならなければ今頃どうなっているかわかったものではありませんし……。民をお救いになりたいという現人神様の御心は、我々下々の民にはその時理解が及ばずとも、最終的にはあれで良かったとなるものですから……」
さくらは春の舞の四季庁爆破事件を思い出して言った。
あの時、雛菊が頑として民を守ることを譲らなかったので従ったが、もし二人で先に逃げていれば、無辜の民である四季庁職員が少なくとも数名は死んでいただろう。
そうであったなら、心優しき少女神である雛菊が、現在のような心穏やかな暮らしを送れていたとは思えない。
誰も死んでいない、というのは結局のところ最良の結果なのだ。
「そうなったら、御身の御心はいまよりもっと乱れていたことでしょう。護衛官としては、現人神様の心身のご健康が一番であります」
『……姫鷹様』
「不知火に雛菊様と遊びに行く予定がありますから、こちらからもそれとなく花矢様にお話ししますね」
『本当にありがとう。俺もめげずに花矢ちゃんに連絡をいれるようにするよ』
それから、二人はとりとめのない雑談をしたのだが、さくらが最近酒を飲むようになったという話になると、大酒飲みの輝矢は一気に声を弾ませ、それならば炭酸と割って美味しい甘い果実のリキュールなどをお贈りしようと張り切りだす。
『そこまでお酒がお得意ではないということなので、本当にジュースみたいのだけ贈るね。すっごく美味しいのがあるから、あれは飲んでもらいたいな』
「子ども舌のようでお恥ずかしいですが……嬉しいです」
『いやいや、舌は関係ない。酒は体質だよ。俺も最近飲んだお酒ですごく合わないものがあってさ……。恐れ多くも【春天女】という、御身の所属する季節を冠したものなんだけど……』
「えっ」
『美味しかったんだよ。美味しかったんだけど……でも、すごい夢見が悪かったんだよね』
さくらはそこで突如、携帯端末を持ったまま部屋の隅っこに移動した。
帝都迎賓館の一室に集まっている雛菊や藤堂、霜月は怪訝な顔になる。
「輝矢様……」
さくらは殊更小声を作って言う。
「もしかして……すっごい変な夢見ませんでしたか? 実は私もそのお酒で本当に奇妙な夢を見たんです」
『姫鷹様も? ええ~! ご覧になった夢とか聞いたら困らせてしまうかな? 俺はさ、なんか自分が女性になる夢を見たんだよね』
「……ほ、本当ですか!」
『ほんと、ほんと。慧剣も女の子になってたよ。なんか、関係性的に俺がお母さんみたいになってた。あと、なぜか見知った人々が全員いまとは違う性になってて面白かったな。月燈さんとか、そりゃあもう麗しい青年になってて、女性の俺はドギマギしてたもん』
「荒神隊長が男性だったら、そりゃあもう格好良いでしょうね」
『うん。女性のままでも格好良い人だけど、男性だとまた違う破壊力があったよ』
輝矢は同じ話題を共有出来るのが嬉しいのか、赤裸々に語る。
『ちなみに、花矢ちゃんはちょっとぶっきらぼうな可愛い男の子で、弓弦君は芸能人にでもなれそうな美女だったよ。あそこはあんまり関係性が変わらない感じだった。いつも通り、弓弦君は花矢ちゃんを大事にしていて、花矢ちゃんはそれがよくわかっていない感じだった』
「……輝矢様……実は、私も似たような夢を見たんです……」
『え、姫鷹様も見たの? どんな夢?』
かくして、さくらと輝矢は妙な共通点で会話が盛り上がるのだが、ひとしきり話した後に、『やっぱり他の現人神に不敬な気がするから内緒にしよう』と互いに誓い合うことになる。
もし、どこかの酒屋で『春天女』なる酒を見つけた時は手に取るか真剣に審議したほうが良いだろう。
それは貴方を摩訶不思議な夢にいざなうかもしれない。
春夏秋冬代行者 暁 佳奈/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko
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