服事の民 二
薄目を開けると部屋の端が白んでいた。胸に閔花の腕が乗っている。重くて気持ちがよくて、瞼が何度かとろとろ下がった。頭の上で氓が座っている気配がする。氓はいつも壁に背をつけたまま眠る。カーテンが途中までしか閉まっていないらしく、部屋には灰色に近いまだ完全でない朝日が差し込んでいた。
夜明けは、この国に来て初めて肉体で覚えた言葉だ。それはこういう時間。新しいものが始まる前の、夜によく似た時間の中に、何かの気配がある。夜明けはこの国の色だ。確かな幸福ではないけれど、希望めいたほんのりと暗い明かりが、端の方に滲んでいる。やがて明るくなるかもしれない、という予感の国。
数十分ほど微睡んでから、また目を覚ました。気配がうろうろしている。氓は日が登り始めるともう起きて、部屋の中を歩き回る。鳴きはしないが、今にも鳴き声が出そうな、奇妙な呼吸を繰り返している。閔花を起こさないように布団からゆっくり起き上がり、私は一度その顔を見た。額にうっすら汗をかいている。眠っている閔花は宝物に似ていた。
カーテンを端までしっかり締め、ふすまも閉め、夜を作ってから氓と一緒に部屋を出た。
台所に出ると氓は寝室にいたときより大胆に飛び始めたが、鳴き声は出さないでちゃんと我慢している。偉いので今日もつい朝から蟋蟀を与えてしまった。あまりあげすぎると本当のご飯を食べなくなってしまうので、加減が難しい。
氓が蟋蟀を食べている景色はいつも、いつまでも面白い。
大抵はひっつかんですぐ口に入れるが、ときどき手に掴んだままじっとしていることがあって、そういう時は蟋蟀もあまり動かない。いつ口にいれるのかと眺めていても、一向に変化がなく、なにかの弾みでふと目をそらすと、次の瞬間にはすでに蟋蟀の姿がない。今日はすぐに口に入れてしまったので、観察はあっけなく終わってしまった。
蟋蟀はいつも悲鳴をあげない。
流し台の向こうからさらさらと、いつもより大きな音がした。出窓においてある竹がいつの間にかずいぶん大きくなっている。閔花が夜店で買ってきたもので、小さく育つ竹と書いてあったのに、色鉛筆で描いた線のようだった枝は、今では水道の蛇口くらい野太くなっている。まだ成長するだろう。買ったときの黒いカップにいれたままなので、かなり窮屈そうだ。持ち上げようとしたら、みちみちと音がした。根がカップを突き破って、かなり下の方まで到達していると見える。
夜中に聞いた軋む音の正体はこれだったかもしれない。最近の植物はコンクリートだけでなく鉄にも生えると聞いたから、タイルくらい訳ないのだろう。引きちぎることが出来なそうだったので、そのままにしておいた。何年か経てば台所は緑色一色になり、いつの日か下の階まで根が伸びて、悲鳴を聞くことになるかもしれない。そんな日があったら、きっと面白い。
短い夢想をしてから、お湯を沸かし、洗濯機を回してゴミをまとめた。今日は燃やしていいゴミの日だ。燃やしていいゴミと、燃やしてはいけないゴミ。蘇るゴミに危険なゴミ。この国にはゴミがたくさん存在する。
「氓、おむつ変えよう」
逃げまどう氓を足音を立てないように追いかけ回し、浴室の前でやっと掴まえた。氓はおむつの交換がきらいなのだ。というより、オムツの存在を思い出すのが嫌らしい。壁に片耳を押し付けるようにのけぞり、下半身の出来事を忌避しようとしている。
「すぐにおわるよ」
そんなに厭わしいのならばトイレを覚えればいいのだ。氓の仕事ぶりを見ればそう難しいことでもないように思う。実際、氓は私が忘れてしまったことをいつでも覚えている。蟋蟀の籠を掃除するブラシや、砂糖のための匙、パジャマにあいた穴や、眠る前に食べようと思っていた氷菓子まで。氓はいつも私に思い出させてくれる。
糞尿の匂いが広がって空気に湿り気が増えた気がした。人糞とそう変わらない匂いだ。
「氓」
毛の中に手を入れるとほのほのとぬるかった。肌がざりざりしている。新しいおむつがすっかり尻に収まってしまうと、氓はいつもの機嫌のない顔に戻った。記憶が途切れたようにしれっとして、台所へ戻っていく。私はおむつをごみ袋に放って、口を締めた。
生活。
同じ景色がくるくるといつまでも続く灰色の階段を降りていく。よく見ると白いモルタルには傷やシミや苔がついていて、同じ景色ではないのだと分かる。生活だ。私は、私たちは、ひと塊のゴミに似た大別のない暮らしをしているが、ひとつひとつ違うゴミとしてある。この国は、ゴミまでちゃんと識別をしてくれる。
生活。ということを感じると、母国にいたときの、幼く微かな記憶が浮かぶことがある。私たちのような外つ国の人間にとって、この国の存在はおとぎ話で、眩い原色の、それでいて不透明かつ不安定な色彩を帯びていた。鮮やで、平面的で、質量のない。美しい国。誰もが存在を疑いながら、そこで暮らすことを夢見ている。
幸福に閉じていて、豊かで、長命で、それほど人が死なない国。
私は運がよかった。叔父が死ななければ船に乗り込むことはできなかっただろうし、閔花に拾ってもらえなかったら母国へ送還されていたに違いない。時期が悪ければ永久に追放されていた可能性だってある。
船底の人糞の腐ったような匂いの中で、私たち移民は唸りもせずにじっとしていた。停泊するたびに人間は増え、虫の死骸の上にいる蟻のようそこかしこでうようよと人間が存在していた。極小の、無数の、くだらない粒として。空気の中に希望のようなものは何一つなく、光に似ているものも何一つ存在しなかった。湿っているのに埃が舞っていたように思う。みんな、粛々とじっとしていた。まるで勤務のように。船底でとどまっていることだけが重要で、あとのことは、その先のことも、頭のなかには何一つなかった。
船が港についたとき、私ははじめて自分がかなり奥の方に座っているということを知った。はるか前方に光の気配があったが、人間の頭のコブが邪魔をしてほとんど暗闇と変わらなかった。足元でねずみが死んでいることに気がついて、確かにこの先に明かりが存在するのだと知った。何かがこの先に存在している。
押しつぶされながら外に吐き出されて、光に目が潰れた。
空の色が濃く、雲が煙のようで、遠くに緑色の壁があった。いくつも虫が鳴いていて、空気がどこまでも遠くに広がっていた。木々を使った低く古い家々はどれもが重苦しく、庭が広く、そこにいる植物たちはどれも質量のある、重たそうな色をしていた。風に水田の匂い。はじめて聞く言語の、やけにはっきりとした母音が、耳の穴を何度も震わせた。閉じた国の中についに入ったのだと、体が震えた。
この国は美しい。美しいこの国で、私は生まれて始めて生活を知った。
「おはようございます」
階段を一番下まで降りたとき、右隣から声がかかった。見ると、昨日の男がまた土に水をかけている。私は昨日閔花に教えてもらったことを思い出した。
「おはようございます。それは、打ち水ですね」
男はゆっくりうなずいた。
「ええ、本で習いました」
「少し涼しいです」
昨日は土の焼けた匂いがしたが、今日はちゃんと水をかぶった土の匂いがしている。日の光をあまり吸い込んでいないときに水を掛けるのがいいらしいと、私は閔花に教わったことをそのまま男に伝えた。
「そうですか」
男は顔に皺を作って喜んだ。
「助かりました。ありがとう」
この国をの文化を覚えると、生活に床が張れる。壁が出来る。屋根が出来る。そうして生活の家が建てば、ずっとここで暮らしていける。ゴミ捨て場には青い網がうねうねとかかっていて、一つもゴミが飛び出ていない。母国ではゴミ捨場に眠っていたような人間も、ちゃんと規則を守る。この国は私たちに正しくあることを願う。自分たちのように生きていくようにと教育する。原住民街の方が醜く汚れていることを知っているけれど、私たちは彼らを模倣して生きているのだと主張しながら、正しく生きる。
けれどいつの日か原住民は消滅して、すべてが移民になる。残るのは私たちの肉体とこの場所だけ。中身のない外側の儀式はきっと忘れられてしまって、誰もが裸で桃を食べるようになるかもしれない。そうなったら、この国は消えてなくなるのだろうか。場所と儀式だけになったとき、この国はどうなっているだろう。
美しいこの国の景色は。
ふくをひろう。おれはふくをひろう。ふくをひろうといきられる。
おまえはきたふくをぬぐ。
きられてぬがれたふくをおれはひろう。ひろう。
ひろう。
ピクニックに行こう、とふすまを足で開けながら閔花が言った。この国の言葉群にはもうだいぶ慣れたはずなのに、ときどき、縁のない外来語が何よりも鮮明に耳に入ることがある。
「昨日、ハムを買ったから」
ハムを持ってピクニックに行く、ということを閔花は言っているのだ、と私は思った。ハム。ピクニック。言葉がぽつぽつと頭の中で咲いた。ハム。ピクニック。
「ピクニック!」
それは出かけるために出かけるという行事のことだ。
どこに行くのだろう。緑のある場所か、それとも水のある場所か。ハム以外の食べ物がきっと必要になる。氓にも特別な嗜好品としての蟋蟀を詰めなければ。より元気な蟋蟀をパックに詰めなくては。それとも、なにかピクニック用の虫が探せばいるだろうか。氓は蝉に興味があるようだから、行った先で掴まえたら喜ぶかもしれない。網はないけれど、花柄の水筒がある。それに色水をいれたらきっと素敵だ。
私は納戸に向かおうとして箒を蹴飛ばし、床下収納を開こうとして、指を滑らせそのまま後ろにひっくりかえった。肘を打ったが、そんなことは構わない。ピクニックの用意をしなければ。
後ろで閔花がくつくつ笑っっている。
「荷物かがりは、いそがしいね」
そうだ。忙しい!
氓が何かを察知して、背中に飛び乗ってきてしきりに明るく鳴いた。私は生まれてから今まで、暮らしていくための、仕事としての外出しかしたことがなかった。それだって母国の生活を鑑みればどれも特別に幸福な外出ではあったけれど、ピクニックはそれよりも一段も二段も三段も上の特別な行事だ。外出のための外出。数珠と蟋蟀と塩以外に持っていくべき荷物がたくさんある。
ビニールシートがいるし、ポケットティッシュもいる、氓が暑がるといけないから小さいバケツも持って行かなくては。白いタオルも。閔花の髪にはあの水色のリボンが必要だ。それに緑色のパラソルも。
納戸を潜って探すと、大きなバスケットが見つかった。取っ手がつるりとしていて、蓋は両側から開く。いつもの鞄ほどは重くなくて、いつもの鞄より中に沢山のものが入る。
台所では閔花が、いつも食べている柔らかい白いパンではなく、固い茶色のパンにさまざまなものを挟んでいた。トマトにレタスに鯖の缶詰。きゅうりにハムにチーズ。最後にいちごと練乳。私も昨日の桃の残りを蜂蜜と一緒に煮詰めて、ヨーグルトと混ぜて冷蔵庫に入れた。あとで氷と一緒につめて、暑い太陽の下で食べるのだ。
閔花の鼻歌が、朝日の中できらきら息をしている。
「どこでピクニックをする?」
「封天動植物公園」
「ほうてん?」
「生き物がたくさんいるよ」
地名に聞き覚えはなかったが、そもそも私は自分の住んでいる土地以外、首都と主要都市の名前しか知らない。もちろん覚えていたほうがいいのだけれど、優先順位は高くない。まず生活に関わりのあるこの国の出来事と言葉を覚え、地域のことを覚え、生活に関わりのない国全体を覚えるのは、そのあとだ。
外に出ると飛び跳ねたくなるほど明るかった。夏中体にまとわりついていた重たい湿気た空気はもうほとんどいない。私は嬉しくなって実際に何度かその場で飛んだ。バスケットからがさりと音がして、驚いて笑いたくなった。
道中、閔花はいつもより多くの言葉を教えてくれた。土地の名前や、建物の名前、食べ物の名前に現象の名前。それも音だけでなく、文字にして見せてくれた。
式址曲駅、燈火器、柊枕、月のはやて、沙可通り、王氏通り、百貨街、銀時、耳の背。
ざらざらした悪質の紙の上に並んだ言葉は、薄い墨色にかすれていたが、力強かった。なぞると指の先に粉のような薄墨がついて、やっぱり私は笑いたくなった。新しい言葉。見慣れない言葉。でもいつもと違って、覚えなくてはならないとは思わなかった。体の中に装飾が増えていくような気がして、楽しかった。きらきら、するする、はらはら、ころころ、ちりちり。言葉はいろんな感触と音と色と形がある。
氓はぬいぐるみのふりを厳命されていて、閔花の腕の中で瞳を殺して止まっていた。それなのに私は、橙と黄色の合いの子のような都会のバスに乗れたことが嬉しくて、つい氓に話しかけてしまった。氓はふいに瞳に生気を取り戻し、私ではなく窓の外をちらりと見たが、またすぐに瞳を殺してぬいぐるみに戻った。悪いことをした気になって、それからは私も、おしとやかな人形のふりでじっとしていた。
石で作られた銀行が次々と窓の外を通り過ぎていくのを、黙ってやりすごすのは殊の外大変なことだ。けれどどの椅子でも、移民はみんな静かに座っていた。話しているのは若い原住民たちだけだ。
古い原住民たちはみんな地蔵のようだった。地蔵、というのは髪の毛ないゆるい人型の石像で、坊主によく似ている。しかし坊主ではないのだという。尊い石だというが、私は尊いという言葉はよく分からない。でも古い原住民たちはよくその言葉を使う。尊い。
バスを降りてから、路面電車に乗った。鈍い銀色の箱は、肉屋や靴屋や金物屋が並ぶ商店の間をすり抜け、緑に埋め尽くされた社の前を通り抜け、長い田んぼの中を横切り、その先の池とも沼とも言えないどっちつかずの湿地を突っ切っていった。すると突然、チンドンチンドンと騒がしい祭事の音が窓から中に入ってきた。
封天駅にたどりついたのだ。
電車から降りると、チンドンチンドンとうるさい音を立てているのが、奇妙な人間の一団であることが判明した。一団は白に赤い線の入った仮面と、黒に水色の線が入った仮面と、灰色に淡黄色の線が入った仮面をかぶっていた。線はみな笑い顔を描いている。彼らは鈴や太鼓を鳴らし、短い笛を吹きながら、てんてこした妙な足取りでホームを練り歩いている。
どこから涌いて出たのか、いつの間にかあたりには人間が充満していて、視界がどこも大人の背中や尻で埋まっていた。私はバスケットを強い力で抱きかかえ、閔花の服の後ろに付いている桃色のリボンの尻尾を、見失わないように必死に追いかけた。氓はいつの間にか閔花の肩に座っていて、悠然と、しかし慎重にぬいぐるみのふりを続けている。
これだけ密集していても、この国の人間には糞尿の匂いがしない。ここにいるのだってほとんどが移民のはずなのだから、もともとはあの匂いをしていたはずなのに。右も左も、毛羽立った繊維のような匂いばかりがする。ひょっとすると私もそうなのかもしれない。この国に降り立ったときに嗅いだ匂いとよく似ている。とすると、私たちはこの国の体臭を得たのだろうか。体の中からこの国を覚えつつあるのか。
ふと顔を上げると、頭上に蔦が這っている。両端を見ると壁があるようだ。すでに建物の中に入ったらしい。けれど、頭上の蔦の間からは空が見えた。透明な天井というものを、私は生まれて始めて見た。空から森の匂いが降ってきて、ふいに母国の景色が浮かんだような気がしたが、完全に思い出す前に消えてしまった。斜め上で氓がちらりと私を振り返り、その後に閔花が振り返った。
「もうすぐだよ」
人間と人間の距離がぐっと狭まり、息苦しくなる。船底から外へ出るときもこんな風に苦しかった。どこかへ入るときや出るとき、人間たちは凝縮せずにはいられないのかもしれない。私は片手でバスケットを持ち、閔花の桃色の尻尾をもう片方の手で掴みながら前へ進んだ。切符に切り込みを入れているらしい、パチンパチンという音がそこらじゅうで聞こえるのに、どこでそれが行われているのか少しも分からなかった。
もうこれ以上ついて行けないかもしれない、と思った時、大人たちの尻の圧がふっと消えた。前を見ると、やはり森がある。透明の天井はもはやなく、遠いところに空がある。足元の土はやや湿った感触がして、芝生が生えていた。
「生き物、いるよ」
閔花が光っぽい声を出したので顔を上げると、小さい女の子のような顔をしていた。白いワンピースの中に風が入って、尻尾のリボンがひらひらと揺れている。
閔花の指差す案内版には、園内の様子が平面に押し込まれ描かれていた。午、鹿、家鴨、蓮、牡丹、瞬時に私が読めたのはそれだけだ。絵の横に文字がびっしり詰まっている。
「ぜんぶ、生きもののことば?」
平面の案内ではここがどれだけ広いのか分からないが、午が住む場所は広くなくてはいけないだろう。鹿もそうだ。家鴨はそうでもない。蓮は水場がいるし、牡丹は、見たことがなかった。
「今日は、生き物たくさん覚えられるよ」
閔花が跳ねるように歩きだしたので、私も嬉しくなった。速歩きをしたけれど、森はなかなか近づいてこない。とても大きな場所なのだ。氓が鳴き声を上げても嫌な顔をする人間はいない。心がひっくり返って体の外へ出そうだった。
生きている。生き物。生きている。
尊い。
ちち。はは。いもうと。
みんなしんだ。みんなやかれた。くるった。しんだ。
おれはもりにかえるゆめをみるが。
どうもひとりでかえるゆめなのだ。
ちち。はは。いもうと。
おれ。
なぜ。
翡翠葛。
鳥の名前だと思ったのに植物の名前だと言われておかしかった。こんな文字の並びは鳥であってしかるべきだ。けれど植物のところまでいって見ると、水辺の鳥の羽の色に似ていたので、許すことにした。
「お気に入り?」
閔花の声に、私は首を振った。病気になったバナナのような植物だ。あまり美味しそうではない。それよりも辺りをふわふわ飛んでいる蝶の羽が面白い。
「あれがいい」
干からびた滝のような場所で、黒い蝶が幾匹か飛ばずに休息している。羽を開いたり閉じたりしていて、その度に黒いはずの羽色が銀色にちらちら光るのが不思議だった。さっき氓の鼻先に止まった時に覗いて見たけれど、近くで見るとやっぱり黒い。
閔花が文章を読みながら呟いた。
「毒があるよ」
「どく!」
急いで氓の鼻先を確認しようとしたが、嫌がられて指を噛まれた。閔花がそれを笑った。
「食べなければ平気だって」
そこかしこに掲示してある案内板には、生き物たちの生態が事細かに記されているようだった。閔花はしゃべるよりも文字を読むのが得意だというが、私は文字を読むことは苦手なので、単語をいくつか拾っただけでくたびれ、読むのは諦めた。
ただ、犀の居住区の先で出会った文字はすぐに分かった。
「猿」
園内にいる猿は氓だけではなかったのだ。考えてみれば動植物園というのだから動物――つまり氓のような生き物――がいたって少しも不思議ではない。けれど私は、うろたえてしまった。思えば、氓と葬式で見る猿以外を、私は生まれて一度も目にしたことがない。母国に猿はいなかったのだ。少なくとも、身近には。
岩でできた平べったい山の上に猿たちは確かにいた。氓より毛の色が明るく、体も大きいように見える。檻はなく、人間たちと猿の土地を分けているのは深い溝だけだ。猿たちは短く、鋭く、高い声で鳴いていた。鳴き声の合間に獣くさい重い息を吐いている。氓の出す声や音とは似ても似つかないものだ。
跳ね方ひとつをとっても彼らには勢いに調整がなく、無軌道で、未来を知って生きてはいないのだということが、はっきりと分かる。予測と調和のない世界で、その場限りを生きている。
こんな猿とは一緒に暮らせないだろう。
氓はいつもどおりの機嫌のない顔で、彼らを見ているのか見ていないのか分からなかった。ときおり岩山の中央から上がる、野太い叫び声にびくりと体を震わせたが、すぐに忘れて、しばらく指の掃除をしていた。一方で岩山の猿たちは、そこかしこで互いの毛の奥を覗き合っている。
「儀式のさるは、ここのと同じさる?」
私が聞くと、閔花は案内板を覗き込んでしばらく文字を追っていた。
「違うみたい。あれは氓と同じ猿」
「そうなの?」
閔花は頷いて氓の喉元を撫でた。
「そうなの」
氓は指の掃除を終え、閔花の肩の上でじっとしている。
焼かれる猿と氓とが同じ種類だとは思わなかった。すると、ここで暮らしている猿たちは、ただ毎日暮らすだけで、焼かれることも働かせられることもないのだろうか。
人間と同じように、猿にも不条理があるらしい。同じ種類に属していても、同じ扱いをされるとは限らない。焼かれる猿と、働く猿と、ただ暮らす猿との間に、違いなど一つも存在しないのだ。船底でじっとしていた私と、今の私が、同じ個体であるのに違う生き物であるのと同じように。一方が生き、一方が死んでしまうことに、なんの意味も、理由もないのだ。
私が最後に見た叔父は頬がえぐれていた。
目の下の皮膚が溶けたように汚れて、背中の下では泥と血が混ざって見えた。開いたままの目の黒点が太陽光を集めているのに冷えていて、あの黒点はもう燃えることがないのだと分かった。生きている時には、ぎろぎろと音を立てながら燃え続けていたあの瞳が。
白いタオルが尻からはみ出ているのが見えた。あれは叔父が盗んできたものだ。果物屋の茶色い紙袋に入っていたから間違えたのだ。しかし私たちには拭うべき雫はなく、包むべきものも、清潔さを保つべきものも持っていなかったので、汚れていないタオルをただ洗うことしかすることがなかった。蛇口から出る水は淀んでいて、洗うことでタオルはすっかり汚れてしまった。私はタオルを洗い、白くする生活がしたかったが、汚水を吸っきったタオルはいくら洗い直しても、自らが白かったという事実を思い出すことはなかった。私はいつか、白いタオルが、白いままで、太陽光を浴びながらそよいでいるのを見たことがあったのだ。とても遠い場所から。
あれは同じタオルだった。
そうして船底に投げ飛ばされる瞬間、私は叔父の指が一本飛んでいくのを見た。多くの命や死の前で、一本の指はあまりにもか弱い存在だったが、私はそれが何指だったかを知りたかった。振り返って見たが、叔父の右腕には、もう死んでいるらしい女の太ももが乗っかっていて、確認できなかった。でも私は、どうしてもその指が何指なのか知りたかった。そのために船から出たいとさえ思った。今でも、私が本当に心の底から知り、覚えていたいのはそのことだけだ。叔父が何指を吹き飛ばされて死んだのか。かつて私の頭を軽く叩き、荷物のように荒く胴を持ち上げ、泥で汚れたくるぶしを強く擦った、あの指々のうちどれを失い、叔父は死んでいったのか。
叔父は私よりいい人間だった。私はこれ以上大きくなっても、叔父のようないい人間にはならないだろう。同じ生き物のうち、生かされるものと殺されるものがいるのは仕方ながい。けれどせめて意味を、せめて理由を、与えてはくれないのだろうか。
世界には焼かれる猿と崇められる猿がいて、生きている女と殺される女がいて、生活のある生き物と生活のない生き物がいて、毒のある蝶と、毒のない蝶がいる。
意味や、理由が。
ない。
「氓々」
視界の中では、相変わらず無軌道の猿たちが岩山を飛び回っていた。顔を上げると、閔花の頬には汗になる前の水分が光っている。太陽光は、どこにでもある。
「美味しいものがありそうだよ」
閔花の指は岩山の向こう指していて、私はそれを確かめようとつま先立ちになった。
「よくみえないよ」
「見にいこう」
「うん」
溝の周りをぐるっと歩いて、赤と白の縞模様のテントにたどり着いた。閔花と純白のソフトクリームを交互に舐めて、私は幸福になった。意味なく。理由なく。振り返ると、一匹の猿が私たちと彼らとを隔てる深い溝へ、小さな石を放り投げつけている。何度か、それらは落下した。
着地の音が聞こえない。
私は不安になって、重たい荷物を胸の前で抱え直した。
ここにせなかがある。おれのすぐうしろだ。
せなかはいつもはいない。よるになって、からだをかべにつけるとあらわれる。おれはおれのせなかにかぎりのあることをしる。おれはちいさなひとつだったのだ。おれにはかぎりがある。
ひとつのちいさなおれはふくをひろう。ふくをひろっていきる。なぜ。どうしてそんなふうにいきるのだろう。だってきょうはいいよるなのだ。せなかなど、ひつようがない。おれはいきている。おれはむげんになれる。
あるじはせをまるめてねむっていた。あわれ。あまりにもあわれ。やかれるひを、ただこうしてじっとまっているのだ。もうすぐそこだとしっていて、にげることはない。でしのこどもはまだそのことをしらないで、たのしそうにやっている。あわれ。あまりにも。
そとに。
でようとはおもわないのだろうか。こんなばしょからはでていくのがいちばんだ。おれはそうおもう。いいよるだ。いままでにないほどおれはじゅうぶんにそんざいしている。おれはよいものにかわった。おれはひとつで、おれはむげんで、どんなかたちになってもよいものなのだ。
ちち。はは。いもうと。
おれでないもののことをかんがえてはいけない。
おれはそとにでられるのだ。おれは、あわれな、かわいそうなにんげんたちを、どうにかせわしてやり、まんぞくなくらしをさせてやろうとかんがえていたが、そんなことは、どだい、むりなはなしなのだ。あるじも、でしも、みずからのぞんでここにいて、でていくつもりなどないのだから。
そとにでればこうふくになれるかもしれないものを。わからずうちにとどまっている。あわれないきものだ。かわいそうではあるが、おれはいく。こんなによいよるには、せなかをかんじるひつようなどないのだ。かぎりなどいらない。
おれはむげんだ。
どうしていままできがつかなかったのだろう。
朝、目が覚めてからみじろぎをするまでの間、私はその眠りのくぼみの中に、もう一度戻れないかどうか幾ばくかの努力をしてみることがある。しかし、くぼみはもうほとんど水平で、底が背中を押し上げているようにひどく固いのだった。もう戻れない。
しかたなく体を横に向け、また反対に向け、むやみに手の平を天井へ向かってくぱくぱと動かしてから、泥が流れているに違いない、もったりと遅い体をなんとか起き上がらせてみる。
部屋にはまだ夜が残されていた。
厚手のカーテンの向こうに、太陽光があるのがはっきりと分かる。作られた夜は空気が停滞していて微睡みと同じ触り心地がするが、意識が明瞭になっていくにつれ、息苦しくなる。ふすまの向こう側では、今日もふたつの気配がはつらつと生きている。
外は、とてもよい気候をしている。見ないでもはっきりとそのことが分かる。閔花が昔、私たちをピクニックに連れて行ったのは、こんな日ではなかっただろうか。幸福な日であったことだけを、私は今も覚えている。しかし、実際には何一つとしてはっきりと思い出せないのだった。遠くてうまく掴めない。
立ち上がったら泥が全身に回って、あまりにも気怠く、笑ってしまわずにはいられなかった。気鬱が全身をくすぐってきて、物憂いのだか楽しいのだが、まったくもって分からない。ふすまを開けると、ぱっと光がきらめいて、目眩がする。
「民花! あさだね。おはよう?」
苙がつま先立ちのまま振り返って声を上げた。ふるふると足か震えている。苙の肌はくるぶしまで濃い色をしていて、毎日、閔花を思い出さずにはいられなかった。
「おはよう。どれを取るの?」
「ええっとねぇ、あの、ピンクの、それ」
台所の上の観音扉はまだ苙には背が高すぎるのだ。あの小さな脚立はどこにいったろうか。自分が大きくなってしまってからは、すっかりその存在を思い出すことがなくなった。白状なものだ。
「のむものをつくるよ」
苙の所望しているのはミキサーだった。手に取ると、ずいぶん軽い。あの頃はこれが重たくて重たくて、それが嬉しかったように思う。重たいということが、幸福な仕事だったのだ。
「飲み物ね」
言葉を訂正しながらミキサーを手渡すと、苙は小首をかしげた。
「の、み、も、の?」
「そう。飲む物は、飲み物というよ」
「のみもの、のむものは、のみもの」
苙がこちゃこちゃと口の中で言葉を繰り返している所へ、ソファーから苙々が飛んできて、器用に苙の頭上に着地した。
「いた!」
苙々は猿の中でも小さい種類だし、それにまだほんの子供で、驚くほどささやかな体重をしているが、小さい苙の小さい頭には確かに重たいのかもしれない。苙の頭と苙々自身から、獣独特の芳香が香ってくる。人糞に似た。船底に似た。生き物の匂い。
「苙々は、ずっと、えらかったよ」
その重さに耐えながら、苙は私が起きるまで、苙々がどれだけ我慢して静かに暮らしていたかを語り、しきりに褒めた。私が苙々の頭を撫でながらそれを称えると、ほっとした表情になる。苙は苙々の行動に対して、自分に責任があると考えているようだった。そのために自らより苙々を褒められると嬉しそうであり、また、苙々が叱られた場合には、世界の終わりを察知したような顔をする。
弟妹に対しての兄姉の態度なのだろうか。
私と氓では氓のほうが早くに家にいて、年上だったので、その感覚はよく分からなかった。そもそも私と氓とでは、兄弟というような連帯もなかったように思う。今考えると私の態度はひどく傲慢で、人間である自分の方がただの動物である氓に対し、なにか施しをしなければならないというような気持ちがあった。それでも私は氓ではなく氓々だったので、当時は精一杯で氓に敬いの心と行為を、捧げていたつもりだ。
「ねえ、民花」
苙が顔を上げてこちらを見ていて、自分を呼んだのだと気づく。諱をもらってもうずいぶん経つが、今でも私の内側にいるのは幼名の氓々で、民花という外側の成人の名前には、どうやっても親しみが持てない。まるでこの国の言葉のように。
「これはなんというもの?」
苙はまな板の上の明るい球体を示している。触ると、やけにでこぼことしていた。
「たぶん――夏蜜柑」
「なつ、みかん?」
なにが可笑しかったのか、苙は包丁を持ったまま体ごと動かし、くつくつと笑った。頭に乗っている苙々が、落ちないように苙の髪の毛をひっつかむ。これはよく見る光景だ。苙はよく笑う。苙々はよく苙の頭の上にいる。
「なつのみかんだから、なつみかん?」
「うん」
「わかった」
苙は頷いて一太刀を夏蜜柑に浴びせた。痛いくらいの清廉な香りが立ち昇る。果物の匂いは、私にはみんな痛い。痛くないのは桃くらいだ。今はまだ桃の季節ではない。
のみもの、と、なつみかん、という音を繰り返しながら、苙はミキサーにさまざまな色彩を放り込み、驚くべき軽快さで作業を進めた。出窓を埋め尽くした竹の葉が、太陽光を浴びで緑藻のようにゆらめいていて、苙は魚のように見えた。魚とは形状や生態を言うのではなく、こんな風に泳ぐもののことを言うのに違いない。のみもの。なつみかん。のみもの。なつみかん。緑の中を苙は泳ぐ。けれど、今日あたりまた階下から苦情がくるかもしれない。でも、もう私にはどうしようもないことなのだ。竹の根を取り除こうとすれば、建物自体が崩れてしまうというのだから。のみもの。なつみかん。のみもの。どの部屋の人間もすっかり変わって、拾弐号棟を覆う原初の竹がこの部屋にあるということを覚えているのは、もはや私と階下の老人だけしかいない。なつみかん。のみもの。なつみかん。いつだか、ここから一番遠い部屋の外壁を削ってみたが、そこにも竹の根のひだは存在していた。今やこの建物の内側はほとんどすべて竹なのだ。
破壊なしに取り除くことは不可能だ。
「のみもの、できたよ!」
苙の手の中で、透き通った橙の液体がたぷりと揺れた。痛いほどだった夏蜜柑の匂いが、柔らかくなっている。
「民花、のんで」
「うん」
「おいしい?」
「すごく美味しい」
「すごくおいしいって!」
ぴょこんとその場で飛んで、苙は頭上にいる苙々を、体の前に抱きかかえた。
「なつみかん!」
苙の声帯から放たれる時に限って、私はこの国の言葉に親しみを覚える。それは、苙が私の吐いた言葉を飲み込みそのままを放っているからに違いなく、幼い日の言語を完全に失ってしまった今、私の母国語は苙の放つこの言葉のみなのだ。
「きょうは、式があるから、じゅんびをするね」
そう言って苙はせわしなく支度をしはじめた。と言っても、彼の準備するべきものといえば数珠と塩と蟋蟀だけ。この国での存在の軽さを象徴するように、苙には持つべきものがなにもない。だからせめて、そう、きっと閔花はそういう気持ちで私にあの重たい鞄をもたせたのだ。苙が私から引き継いでまめまめしく世話をしている蟋蟀は、未だに一匹も子供が産まれない。
誰が産むものか。
久しぶりに浴室で朝食を食べた。この私の癖を、苙はやはり、大切に守るべき文化として体に刻みつけている。三人での朝食は浴室で。苙々は氓とは違ってオムツが嫌いではなく、外すとかえって機嫌を悪くするので、浴室には終始短い叫びが響いていた。苙が銀色の浴槽の底へ手を伸ばして、苙々の落とした夏蜜柑の皮を拾おうとしている。腕が生き生きと光っている。今日の式には寡婦がいる。
朝食を終え、体を清めてから台所に戻ると、苙は台座に向かって正座をしていた。
塩を麻袋に詰め込むときだけ、苙はいつもの闊達とした表情をひた隠し、その行為に従事するのだった。決して間違いは許されないのだと、懸命に、祈りのようにひとつひとつの塩を袋に放り込む。人を狂わせる塩を畏れながら。
私にはもう、その畏れがない。
粛々と準備を終え、私たちは仕事に向かった。葬儀が始まると、私は読経の中ですべての服を脱ぎ去る。体をくねらせ、股を広げ、回転し、人間たちの目が自分の外側を熱心に観察し監視するのを、遠いところから眺めているような気持ちでいる。私の内側に届く目はただ一人だけ。まるで私の体を見ることが、人生での最後の仕事でもあるかのように、中央に座る寡婦は、肌だけになった私の体を見ている。その内側に何があるのか、見極めようとでもいうように。
第一の葬式が終わると、第二の葬式が速やかに始まる。いくつかの問答、あるいは無言。女は、私が将来において自分と同じように焼かれるということを、十分に知っている。この国は未来に価値のない人間は焼いてしまうのだ。今か、未来か、いずれにしても、この国の役に立たない人間と見做され、焼かれる。
「あなたは苦しいですか?」
今すぐにでも焼かれるだろう女は、私に向けてそうつぶやいた。
「くるしい?」
「ええ」
「それは――とても難しい言葉です」
うまく答えられそうもない質問だ。女に不安を与えるような言葉を、私たちは禁止されている。そう? と女は小首をかしげた。
「私は苦しい。もうすぐそれが終わるのかと思うと」
ふう、と女は微笑みによく似た息を吐いた。私は女のその顔をいつか遠い場所で見たような気がした。けれどそれはこの女ではなく、頬のえぐれた叔父のだった。この女と同じ目をして、叔父は最後に私を見ていた。ああ、叔父は! 一体何指を失くして死んでいったのだろう。私は、それが、それだけが今でも知りたいのだ。
唇に塩をあてがうと、女は進んでそれを飲み込んだ。血に塩がめぐる。女が私の腕を強く掴む。女の爪とその肉体の間に、私の皮膚が入り込んでいるのが分かる。私たちは肌を同化させるように、狂おしく踊る。行き過ぎの苦しさは歓びに似ていて、どちらがどちらだか分からなくなる。今から自分は焼かれるのだと思うと、やはり私の口からも、笑みに似た空気が漏れていく。しかし、焼かれたのは私ではない女と猿で、私は檻の外にいる。
すべての服を着込んで、私は苙と苙々の元へ戻った。
檻の中で焼かれていく女の見学が終わり、その夫が丁重に焼かれている間、私たちは参列者と共に生魚を食べた。黒い参列者たちの波間では、今朝、野原で見つかった大量の猿の死骸の話で持ちきりのようだった。数年に一度訪れるこの猿の集団不審死こそ、原住民が猿を尊び、焼いてしまう理由なのかもしれない。行きていれば、どうにかこうにか意味や理由を見つけることが出来るが、そんなことにこそ意味はなく、取り返しのつかない現実は、いつも前触れ無く目の前に現れるのだ。ある日突然、あらゆる場所から、あらゆる猿がいなくなり、死ぬ。
あれは自死なのだろうか。
「鬼のしわざだよ」
今日まで生き延びている老女の口は、いつでも軽々しい音を吐いた。
私は苙の口の端についた米粒を食べながら、大量の猿の死骸の中で踊っていた閔花や、その他の無数の移民の姿を思い出していた。空が茜色から紫に変わり、秋の虫の音がそこらじゅうからしていて、黄金に変わりゆく穂先の中、あらゆる肌は踊り、祈っていた。
この国は美しい。私はあの時たしかにそう思った。
あの中に、氓の死骸があったのかどうかは、今も昔も分からない。
服事の民 犬怪寅日子 @mememorimori
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