ⅩⅢ
イリスにもう一度、留守番を頼んでアルシャインは夜会へと出掛けた。
一人、馬車に揺られながら執事であるギーに聞いた話を思い返す。
バラの本数の意味を。
「やれやれ……。聞くだけ無駄だったな……」
バラを一本贈る時の意味は、一目惚れ。
六本の意味は、あなたに夢中。
そして最後―――十一本の意味は、最愛。
「あんな顔しておいて、べた惚れか……」
イリスの純粋な笑顔を思い返して、分からないでもない、とアルシャインは思い返す。
「旦那様。到着しました」
「ありがとう。帰りもよろしく頼むよ」
馭者に礼を言い、アルシャインは馬車を降りた。
招待状を入口の番に見せて会場へ入る。
王城のものとは比べ物にはならないだろうが、それなりに豪奢だ。
「これはこれは! アクィラ辺境伯のアルシャイン・タラズ・アクィラ殿ではありませんか」
珍しい、と言わんばかりに大げさな動作と声で青年が声を掛けた。
「これはジェミニ領のカストール・アルヘナ・ジェミニ伯爵。貴方も招待をされているとは」
「うむうむ。そういう素気のない言葉はやめて、友として語り合ってくれたまえ」
「じゃあ遠慮なく」
「遠慮がないのもどうかとは思わないかね!?」
全く、これっぽちも思わない。
身分としては確かに少々差があるが、伯爵という点においては中央付近か辺境かの違いだけだ。
「今宵は、お遊びの探偵ごっこは休みか?」
「お遊びではない。陛下からも許可を頂いた、至極真面目な探偵稼業さ」
昔から彼と、そして弟であるポルクスは声も動作もまるで道化の如く大げさだ。
それさえなければ至極まともな人間だと、アルシャインは思っている。
「陛下がお認めになったのなら、不敬な発言だったな」
それで、とアルシャインは言葉を続ける。
「弟のポルクスはどうしたんだ」
「あぁ。弟は少々、仕事の情報収集をしていてね。それで、私が一人でここに参上したという訳さ」
仕事……。
ということは、
「君も新聞を読んでいて知っていると思うがね」
「
「流石我が友よ! そう、そうなのだよ。ここで声を大にしては言えんのだがね、我らが友であるランクス殿だが……他殺を疑っている」
声を落としてカストールがアルシャインに言う。
「やはり」
「実は、我らが友の遠縁には当たるのだが、メイ・リブリッズ・リヴラ嬢の依頼と、我らの嘆願により許可を頂いて秘密裏に我が友の墓を暴かせてもらったのだよ」
それ以上は、追悼パーティーとはいえ、この場所でする話ではない。
場所を変えようとアルシャインがカストールに提案をしようとした時だった。
「おや、ジェミニ伯にアクィラ辺境伯じゃないかぇ?」
声を掛けられて振り返る。
サジタリウス女伯爵―――メディア・カウス・サジタリウスだ。
少なくとも、自分よりも年上のはずだが相変わらず美しく、そして派手で色気のある赤いドレスがよく似合っている。
「これはこれは! サジタリウス女伯殿。これは済まない。招待して頂いた貴女に挨拶をするのがすっかりと遅れてしまった」
「気にもしておらん。そなたがそういう男なのはよぉく知っておるからの」
「これはサジタリウス女伯。今宵はご招待頂きありがとうございます」
「何。そなたらがリヴラ卿の友だということは知っておるからの。わらわ主催のリヴラ卿の追悼パーティーにようこそ。華のあるリヴラ卿には、華やかに追悼をするのが手向けだと思ってねぇ。思い立ったら即行動がわらわの美点じゃからの」
何と答えたものやら。
「流石はサジタリウス女伯殿。そういえば、貴女の
「サジャならば今宵は部屋で留守番じゃ。噂が噂じゃからの。賊如きにわらわの
流行が廃れつつあるが、サジタリウス女伯爵のように
その点についてはアルシャインも好感が持てる。
「ジェミニ伯の片割れにも、傷付いた
「いやー。それが苦労していましてねぇ。保護をしようにも逃げられている状態で」
「サジタリウス女伯様は、
「いきなり流行が廃れたといって捨てるのはおかしかろう。
どうやら、話をすれば彼女は味方になってくれるかもしれない。
話を切り出した方が良いか―――それとも、もうしばらく様子を見るか。
「あの―――」
「おっと、こうしてはおれん。他にも声を掛けるべき者達がいるのでな。さらばじゃ!」
最後まで、ひとまず話を聞いて欲しい、と思うのであった。
Iris ~歌姫恋譚~ 詠月 紫彩 @EigetsuS09
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