衝撃のプロローグから始まる本作。
凄惨な事件を引き起こした犯人の血を継ぐ主人公の支倉和夫は、造園会社を経営する五代目社長である。閑古鳥が鳴く会社に一本の電話が入り、和夫は幼少期に住んでいた椿御殿へ一人訪れることになる。そこで彼が見聞きしたものは……。
現在と過去の話が交互に語られ、物語は進んでいきます。
椿御殿へ訪れた和夫の運命はどうなってしまうのか。
過去の和夫の身には、一体なにが起こったというのか。
「呪い」とは何か。椿の下に現れる女の正体は何なのか。
謎が次々に提示され、物語にどんどんと惹き込まれていきました。
美しくも恐ろしいミステリーホラー。ホラー好きな方、ミステリー好きな方にお勧めしたい作品です!
冒頭から引き込まれる。狂気に満ちた男が起こす凄惨で血生臭い事件の描写が、呪いの始まりを劇的に告げるからだ。しかし、椿御殿にかけられた呪いを引き受けるのは、この狂気の男ではない。かけられた呪いは、この男の子々孫々まで続く血の呪い。時代は一気に下る。
支倉造園を営む庭師の和夫は、ある理由から恋人の和美との結婚を躊躇っていた。お互いいい年だと感じながらも、一歩を踏み出すことができない和夫。そんな和夫のもとに一件の仕事が舞い込む。その依頼先はかつて、和夫が暮らした
呪われたあの椿御殿だった。
読み進めるごとに明かされていく和夫の幼少期の出来事。椿御殿を中心に巻き起こる出来事が読者を引き寄せる。それはまるで呪いのようである。ミステリーであり、ホラーでもある本作品には、常に付きまとう不気味さがある。ホラーが好きな方にもおススメの作品。
主人公は庭師として、雪国の村を訪れた。頼まれたのは、立派な椿が立つ屋敷の雪囲い。その椿がある屋敷は、かつて主人公が短い幼少期を過ごした家だった。
小学生だった主人公は、この屋敷で、椿の下に佇む妖艶な美女と会話をしていた。彼女の着物は、椿の如く赤かった。しかし、この美女との出会いが、主人公の家族を蝕んでいく。母が去り、父は発狂し、愛する人を殺めて自死。祖父はその様子を平然と見ていた。幼かった主人公は、この事件以来、この村には足を踏み入れていなかった。
そして、庭師として成長した主人公の前にも、やはりあの美女が現れる。彼女は呪いの体現。あの椿は代々の主人公の一族の血を吸って成長していた。そして、美女の口から聞かされた屋敷にまつわる惨劇と因縁。女は庭師を依頼した男の正体と、自分のことについて語り始める。そして、美女は最後に主人公にある願いを託すのだが――。
主人公は果たして、呪いを終わらせることができるのか?
屋敷で起こった、呪いの始まりとなる惨劇とは?
あなたも、この屋敷の狂気に呑み込まれるに違いない。
とても美しくも恐ろしい物語でした。
血の赤と、雪の白、そして庭師を象徴する紺のコントラストが綺麗で、作者様の筆力が伺える一作です。
是非、御一読下さい。
血の色を宿し、断首されるように、ぼとりと花を落とす紅い椿。
その老木ともなれば、どれほどの年、どれほどの数、血に染まった首が、その足下に転がったことであろうか。
桜の下に屍体が埋まっているという話は、おそらくは梶井基次郎以来、数多くの文学作品のモティーフとなり、人口に膾炙してきた。
それでは、何百年もの間、何千、何万、否、それ以上の断首刑を、毎年、自ら演じ続けている、あの椿の根下には、一体何を埋めるべきだろうか?
或いは、別の言い方をすれば、屍体を埋めるのに真に相応しい場所は、桜の下だろうか、それとも……?
幾世代にも亘って、「呪い」という名の運命に翻弄されてきた一族。
その運命の色は、鮮やかな闇をぎらぎらと含んだ深紅。
深紅の呪いは、凍り付くような恐怖のみならず、むしろ、甘美な情熱の雫を、何百年もの間、彼らの皮膚に、咽喉に、垂らし続けた。
決して乾くことのない、呪いの雫。
そこから逃れる術など、本当に、あるのだろうか?