第一章 エクラ・ステルラ 第一話夢のつづき
眠気でぼやけた視界も目を擦ればなんとかなる。
ーあれ、家じゃない。どこかな。というか、何してたか全然思い出せないんだけど。何でこんなとこにいるんだろ。
ーコツコツ
こちらに近づく足音に驚き、女は迷ったあげく狸寝入りを決め込むことにした。
カタンと器らしきものを寝台の側机に置く音がし、足音は扉の向こうへ消えた。
寝返りを打ち、側机を見ると、蜂蜜のような黄金の蜜がかかったパンらしきものに、野菜が入ったスープ、肉を蒸し焼きにしたものが盆に並べられていた。
見知らぬところで食べるのは少々気が引けるが、空腹に耐え兼ねたので食べることにした。
蜜がかかったパンの様なものを口にほうばろうとしたときであった。
「なんだ。やっぱり、起きてたのか」
ーッ!!
「そんなに、悶えるほど驚いたのか?」
「…がう」
「え?」
「違う!!あんたのせいで、舌噛んでものすっごく、ものすごーく痛いの!だから悶絶してたの!」
「そりゃお気の毒だが、きっかけ俺でも、噛んだのはあんたが勝手に噛んだんだろ。」
「それはそうだけどっ、ほんとに久し振りに本気で噛んだから痛くて…。確かに八つ当たりだったから謝る。すみませんでした。」
「良かった。礼儀は分かるみたいだな。」
内心、上からの発言に苛立ちながらも、女は自分を抑え込むことに成功し、疑問をぶつけた。一応の感謝の言葉と併せて。
「寝かせて、食べ物も用意して下さりありがとうございます。申し訳ないんですけど、一体何をしていたか思い出せなくて…何か知りませんか?あと、ここは何処でしょうか?」
「なんで急に敬語で話す?しかも、妙に丁寧だし。気味わりぃな」
「さっきは、あまりの痛みに八つ当たりしてああいう態度を取ってしまっただけで、見ず知らずの、しかも介抱してくれた人に相応の態度を取るぐらいの常識は持ち合わせてます。改めて、謝るわ。ほんとにごめんなさい。そして、ありがとうございます。」
「まぁいい。別に気なんか、こんなことで悪くしたりしねーよ。…それよりも敬語やめろ。落ち着かねーし。」
「わかった。ありがとう。あ、私は、ひようなぎは。字は、陽葉椛覇よ。みんなからは、名字を別読みにして、ようようって呼ばれてるから良かったら、そうして。」
「変わった字だな。」
「そうなんだよね。名字も変わってるし、名前も。普通、覇の字を使わないでしょ?」
「いや、そうじゃない。この国では普通、名字と名前で二字、多くても三字だろ。だから、長いなと思って、変わってるといったんだ
「え?いや、字数は人それぞれでしょ。」
「…お前、いや、陽葉、どこから来た?」
「だから、覚えてないって」
「どこの国の人間だ?」
「日本よ。」
「…俺が知る限りじゃ、日本って国は知らないし、聞いたこともない。ここはエクラ皇国だ。もっと言えば、この家があるのは、星の都と呼ばれるステルラという街だ。」
「え…だって、日本語喋って…」
「俺と今、陽葉が話している言葉はこの世界の公用語のパダという言葉だ。」
「…髪は?染めたの?白のような銀みたいな薄いグリーンの」
「グリーン…何故、ヨルテヤの言葉で言うんだ?パダを話すなら白緑色という?それに、染める?服じゃないのに。急に何を‥」
「ちょっと一人にして」
「…何かあれば呼べ。」
男が閉めた扉の音が虚しく感じた。
異国宮廷攻略記 @ayayii4
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