第一章 エクラ・ステルラ 第一話夢のつづき
「チッ。今日もかよ」
自身の白緑色の髪を濡らす雨に思わず舌打ちをつく。
「この雨じゃ誰も来ねぇな」
この辺りは大通りから外れてはいるが、国境が近い為、キャラバンや旅行客が頻繁に通る。しかも、白緑の髪の男の店は国境に一番近いため、必ず皆この店に寄っていくのだ。
加えて、薬から食べ物、衣類まで揃えているものだから、客は、ここぞとばかりに買っていくのである。こうしたことにより、大通りに店を構えるよりも稼げるのである。しかし、今日の様な長雨では旅客たちは足早に大通りにある宿へ向かうため、立ち止まってはくれない。
「耀嵐」
艶のある声が早仕舞いを決めた店の主人を呼び止める。
「もう終いだ。帰れ」
冷たい声で一蹴するも女は諦めない。それどころか自身の胸元を開き燿嵐と呼ばれた男の膝に腰を下ろした。そして、男の白緑の髪を手で梳くと口づけを一つ零した。
「冷たいわね。一回したら私とはおわりなの?ひどいわ」
「それはお前が旦那と別れたいからと頼んできたからだろ」
「女心がわかんないのね。あなたが欲しいからあなたに頼んだのよ」
「欲しいのは俺の顔と体だけだろ」
「だって、こんなに綺麗な顔、貴族にだっていないわよ。それに髪の色も美しいわ。あと、体も凄く合うもの」
「悪いが、俺は仕事で頼まれた以外はしないことにしてる。」
「…わかったわ。じゃぁ、今日限りのおあそびは?」
「駄目だ」
「ふーん。宮廷入りができる道具を持ってきたと言っても?」
「なら、先に見せろ。その道具を」
「いーわよ?でも私の家に置いてるの。先にしてくれたらあげる。」
「そんな戯言、誰が信じ…」
「女よ」
「は?」
「だから、女よ。道具は。うってつけでしょ?確か半年後ぐらいに秀女と女官、女官吏の募集があるわ。どれも護衛を一人連れて宮廷入りができるの。」
「…本当にその女はいるんだろうな。」
「えぇ。だけど行き倒れで拾っただけよ。とりあえず寝かせてはいるけど、気は失ってるから、使い物になるかは知らないわよ。…どーする?」
「…チッ。」
燿嵐は本日二度目の舌打ちをし、女の胸元に顔を埋めた。
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