異国宮廷攻略記

@ayayii4

第一章 エクラ・ステルラ 第一話夢のつづき

吹き荒れる風。大きくうねる深い青と灰色の海。左右に分かれるアスファルトの道路。後ろは崖が聳えたつ。

「なにここ」

ぽつりと呟いた私の声は、盛大に暴れる自然の声に飲み込まれた。

ふと目線を上げると、海の上に金色の光を纏った何かが浮かんでいる。浮かぶそれは顔の見えない誰か。気味悪さで自然と後ろに足が下がる。後ろは崖で行き止まりであることはわかっているが、それでも恐怖対象から離れようと後ずさるのは本能だ。

ーあと少しで崖に行き着いてしまう。

背に当たる崖に、絶望を味わうことを予想しながら、目を固く瞑り崖に身を預けた。

ードサッ。

が、実際に味わったのは後ろに倒れ込み尻餅をついた痛みだった。思わぬ痛みに戸惑い、後ろを見やった瞬間、絶望が一気に希望に変わる。

私の背には崖ではなく海蝕洞があったからだ。一縷の希望にしがみつくべく私は痛みに耐え、急いで体を起こした。向こう側の自然光にあと僅かで手が届く、というところで私は目が覚めるのだ。

「やっぱり行けないのね。」

私は一体何度この続きを見たいと思ってきたか。何度見ても向こう側にはいけないのだ。

いい加減、続きを見せるか、この夢自体見ないか、どちらかに早急に決めてほしい。脳内で脳に願いごとを語りかけるが、この語りかけ自体もアホくさいので正直、辞めたいところだ。

仕事がある平日はいつも嫌々支度をするが、ふらりと遠出をする今日は違う。新しく買っ

たアイシャドウパレットで瞼に彩(ィロ)を加えていく。最後はコーラル系のリップをのせれば完成である。諸々の身支度を済ませ、車の鍵を手に取り車に乗り込む。

ぽつぽつと、雨粒が窓ガラスを濡らしてゆく。ナビに従い見知らぬ道を走り、1時間半過ぎたが、天候以外は順調だ。現地にはあと二十分ほどでつく。左には海が見える。晴れであれば、陽の光に照らされ水面はキラキラと輝き綺麗だっただろうから、今日の海の色は少し残念だ。右手は崖がある。何の変哲もない崖だ。いつもなら何とも思わないが、あの夢を見たあとだからか、この構図に鳥肌が立つ。道路の真ん中であるが、車を停め辺りを見渡した。左手に海。右に崖。

「いやいや。うん、ないない。」

こんな配置はどこにでもあるうえに、夢では崖から見て完全に左右に分かれているが、実際に私がいる道路は真っ直ぐな路である。考え過ぎだと、バカげた思いつきを振り払うようにアクセルを強く踏み込んだところ、車は左へ進んだ。いや、進んだのではなく、高潮に飲み込まれたのだ。

ーくるしい。

薄れゆく意識の中で見たのは、深い、深い、何処までも広がる海だった。


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