「6」

 六……六…六…


 頭の中で声がした。

 何の変哲もない朝だった。俺はいつも通りに洗面台の前で腰を曲げて顔を洗っていた。

 そんないつもの朝の風景の中で不意に異質な声がした。

 その声に反応して顔を上げた俺の前には鏡のない洗面台があった。鏡のない洗面台の向こうには俺が居た。


「六……六…六…」


 俺は声を発した。

 頭の中でしたその声を真似る様に俺はその声を発した。


「六……六…六…」


 俺はまた声を発した。


「六……六…六…」


 俺がまた声を発した。


「六……六…六…」


 俺の声をまた発した。


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 俺は繰り返し声を発した。

 俺の頭の中の声を俺が口に出して発した。


 六……六…六…


「六……六…六…」


 俺が頭の中の声を俺の口に出して発した。


 六……六…六…


「六……六…六…」


 俺は頭の中の声を俺に口に出して発した。


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 頭の中で声がした。


 六……六…六…


 頭の中に声がした。


 六……六…六…


 頭の中の声がした。


 六……六…六…


 頭の中は声がした。


 六……六…六…


 頭の中を声がした。


 六……六…六…


 頭の中も声がした。


 六……六…六…


 頭の中が声がした。


 六……六…六…


 頭の中と声がした。


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六……六…六…


「六……六…六…」


 六…


「六……六…六…」


 五…


「六……六…五…」


 四…


「六……六…四…」


 三…


「六……六…三…」


 二…


「六……六…二…」


 一…


「六……六…一…」


 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………声がしなくなった。


 最後の声が聞こえた後、頭の中でしていた声は一切しなくなった。

 俺は頭の中で声を探した。

 俺は頭の中の声を探した。

 俺は頭の中に声を探した。

 俺は頭の中と声を探した。


「六本木六時六人」


 俺は頭の中でしなくなった声を発した。

 俺の周りには六人の人間が転がっていた。

 六人の人間が転がっていた。

 六人の人間は転がっていた。

 六人は人間で転がっていた。

 六人は人間ではなかった。

 六人の転がる人間ではなかった。

 六人が転がる人間ではなかった。


「六人六時六本木」


 俺は声を発した。

 六つの人間とよく似た肉塊を見て声を発した。

 肉塊は人間とよく似ていた。

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