「5」
「ごめんなさい」
私は謝っていた。
なぜ謝っているのかわからない。
ただ、私は謝っていた。
「ごめんなさいごめんなさい」
私はひたすら謝っていたが、謝る理由はわからなかった。
なぜ謝っているのか?
私はなぜ謝っているのか?
私はなにを謝っているのか?
私は気がついた。
私は謝っていたが、誤っていないのだと気がついた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は誤っていないのに謝っていた。
私は過ちを犯していないのに謝っていた。
私は謝るような過ちを犯していない私が謝るのは誤りだと感じながらも謝っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は思った。
謝ることは誤りではないか?
謝ることは過ちであり、私の犯した過ちは謝ることでありそれを謝ることは誤っているのではないか?
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私はずっと謝っていた。
謝ることは過ちであると感じ、過ちは謝りであり、謝ることが誤りであると感じつつ、誤りながらも過ちである謝ることをやめようとしなかった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は誤りながらも謝り続けた。
私は謝りながらも誤り続けた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は誤っていた。
私は謝っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は思った。
謝ることが誤りであるならば、誤っていることを謝っているのではないか?
私は気がついた。
謝ることが誤りであるならば、誤ることを謝っていたことは過ちではなく、謝ることが誤りを誤りであると示すことになるのではないか?
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は謝り続けた。
私は誤っていなかった。
私は誤りながら謝っていたが、謝ることは誤っていなかった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私は全てに気がついた。
謝ることは誤りであると気がついた。
「ご……そう、私はあやまっていない」
思わず呟いた。
私は私があやまっていないと声に出していた。
「私はあやまっていない。謝っていたけど誤っていない。最初から誤っていないのだから謝っていたけど誤っていないし、誤っていたけど謝っていない。私は最初から何もあやまっていない」
私は自覚した。
私は謝っていたが謝っていなかった。
私は誤っていたが誤っていなかった。
私はあやまっていないことを自覚した。
「ふふふ、サヨナラ…」
謝ることの誤りと誤り続ける過ちに気がついた私は声をかけていた。
私の手には赤い物があった。
私の衣服は赤く染まっていた。
私の視線の先には男と女だった肉塊があった。
「ごめんなさい…でも、あなた達があやまっていたの」
私は過ちを犯した二人に謝ったが謝っていなかった。
私は過ちを犯していないのに謝っていたがそれは誤っていなかった。
二つの肉塊は返事をしなかった。
二つの肉塊はあやまらなかった。
二つの肉塊は肉塊となる前に謝っていた気がした。
二つの肉塊は肉塊となる前に過ちを誤りだと認めて謝っていた気がした。
「ご…」
「ん?…なにかいった?」
私に向けてその肉塊から音がした。
私に向けて二つの肉塊から声がした。
私はそんな気がした。
肉塊から声がする筈がない。肉塊から音がする筈がない。
私はそれに気がついていた。
私はそれを気がついていたが、私はそれが誤りであると誤った認識をしようと決めた。
私は二つの肉塊がそれを発したのだと認識することに決めた。
「何か言いたいのね。でも、私には何もわからないわ…ごめんなさい」
私は二つの肉塊を踏みつけて言った。
私はあやまっていた。
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