第43話 エルフの剣士の仲間と好敵手

 目の前の円形劇場は子供から大人まで大勢の人でにぎわっている。


 演目は勇者と魔王の対決。


 私の知る限り一ヶ月前から繰り返し公演されている。


 黄金の鎧を着た勇者が恐ろしい外見の魔王と対峙し、仲間と協力して魔王を討つ。


 むしろ今の王都でこれ以外の演目はないのではないかというくらい見かける。


 魔王の自爆を防いだ後、周辺にいた異形の怪物も魔獣の類も一斉に動かなくなった。


 城の上の方にいた私に聞こえる勝鬨が沸き上がった。


 そのあと、ミレイナや仲間と共にルプス君を探したが、遺体さえ見つかることはなかった。


 それからすぐに私は王都へと戻ることになったがミレイナはそれからも色々探し回ったらしい。


 そのおかげで一つの可能性が見つかった。


 わあぁぁ、と劇場で歓声が上がり、思考が中断される。どうやら盛り上がる場面が来たらしい。


 劇を見る人たちは純粋に楽しんでいる。その顔は笑顔で彩られ、明るい。


 長く大変だった魔王との戦いが終わったのだと感慨が湧いてくる。


 戦っている最中は王都と言えどこれほど笑顔が多いわけではなかった。


 彼にも自分の目でこの光景を見てほしい。


「勇……シトナさん、お待たせしました」


 横から声を掛けられ、顔を向けると可愛い少女がいた。


 真新しい純白のローブを着て、大きな荷物と杖を背負っている。


「私もさっき来たところだから待ってないよ、ミレイナ」


 足元に置いていた肩にかけて立ち上がる。


 数日前、ミレイナがたまたま聞いた商人の話だ。


 曰く、私たちが魔王の城へ向かう前に流星が西へ向かって流れ落ちていったらしい。


 そして、魔王も似たようなことを言っていた。ルプス君は銀色の流星となって消えたと。


 この大陸の西側、———魔王の領土のさらに奥へと向かえばルプス君がいるかもしれない。


 生きているかは怪しいが、ミレイナは彼に会うと決めていた。約束を果たすため、そして、彼を故郷の地で眠らせてあげたいと。


 私も彼にはお礼を言いたかった。魔王をあそこまで追い詰めてなかったらもっと激しい戦いになっていた。


 そうなれば仲間の何人かは死んでいただろう。


「はい!…………今更ですけどよかったんですか?シトナさんは勇者として忙しいんじゃ……それにこんなところにいたら騒ぎに……」


ミレイナが劇場の方へ視線を向ける。確かに、彼らに見つかったら囲まれて握手やらなにやら求められそうではある。


「大丈夫、大丈夫。私の素顔を知っている人は仲間か国の偉い人達くらいだから。それにほとんどやることもなくて時間が余ってるから。どうせなら友人の助けになりたいんだ」


 実際、魔王が討たれ脅威が去った今となっては私の役目はない。むしろ魔王に次ぐ力を持つ私のことを王様はよく思っていないようだし。


 武器も防具も便利な道具も全て国に納め、敵対しないという魔術的な契約を結ぶことでようやく私を自由にしてくれた。


 両親への援助も打ち切れれはしないし、いざとなれば仲間たちが面倒を見てくれるそうなので心配はない。


 だから、残りの時間は私の自由に使う。


「———行こう」


 それぞれの想い胸に、西へと足を踏み出した。


 魔王を倒した本当の英雄を迎えるために。

  







           おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エルフの剣士と魔王と勇者 くろね @kameneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ