第6話噂とハプニング
天星さんに傘を借りた翌朝、いつも通り学校に登校し、いつも通り目立たずに学校生活を送ろうと教室に入った瞬間、何故かクラスの人からの目線が集まった。
(俺……何かみんなから注目を浴びるような事したっけ?)
クラスの人の異様な目線が気になりつつも自分の席に座るといつもよりも慌ただしい奏がこちらに駆けつけてきた。
「おい律、お前天星さんと一体どういう関係なんだ!?」
「……は?」
「ほら、お前昨日天星さんと学校の昇降口で仲良さそうに話してたらしいじゃんか!」
どうやら昨日の天星さんとのやり取りをクラスの誰かが見ていたらしい。
よくよく考えてみたら自分に好意を向けている男子は全くと言って良いほど寄せ付けないあの天星さんが、俺みたいな地味で冴えない男と2人で話していたら目立つ事間違い無しだろう。
そしてその噂を何処かで聞いてきたのか、奏が驚いて噂の張本人に聞いてきたという事だ。
ただ、俺は天星さんに傘を借りただけなのにクラスの人から注目を浴びるような勘違いはやめていただきたい。
「俺はただ、昨日帰る前に雨が降ってたけど傘を忘れていたから天星さんに借してもらっただけだ。俺と天星さんはお前が思っているような関係じゃない」
これ以上この噂を広めるわけにはいかない。もちろん自分も迷惑だが自分以上に天星さんに迷惑がかかる。
それにこれ以上広まるとクラスの皆んな(主に男子)からの殺意の視線で今日1日中居た堪れなくなる事を1番避けたかった。
「なんだ、そうだったのか。俺はてっきり律と天星さんが付き合ってるのかと思ったんだけどなぁ」
「ない。絶対ないな」
「そうなのか?噂によると結構仲良さそうに話していたらしいじゃんか」
「俺みたいな地味なやつとあの天星さんとじゃ、とても釣り合うとは思わないよ」
とにもかくにもこの噂は早く消滅させなければいけない。自分はどう思われようと別に構わないが、天星さんがこんな些細な事で変な勘違いをされるのは非常に心苦しい。
何よりも早くこの誤解を解いてクラスメイト(主に男子)の殺意の目線から逃れたい。
(これは、天星さんのクラスの様子を見に行った方が良さそうだな)
「悪い、ちょっと野暮用が出来たから席を外す」
「なぁ律、俺も一緒に様子を見に行っても良いか?」
「……何故分かった?」
「んーなんとなくかな?それにもし俺が律の立場だったら同じ事すると思うし」
「まぁ別についてくるのは良いが、余計な事はするなよ?」
「分かってるよ。さてと、行くなら早く行きましょうかね」
「おう」
渚沙のいる2組は隣のクラスだ。律斗は奏と一緒にそっとしゃがんで窓から教室を覗き込むと渚沙とそのクラスメイト数人が話している姿が見えた。
「ねー、天星さんが昨日1組の男子と話してたの噂になってたよー」
「あ、それ私も聞いた」
「もしかして彼氏?」
「そ、そんなのじゃないですよ……」
「えーホントにぃ〜?」
「もう、本当ですよ。私のような未熟者に彼氏なんて出来るはずありませんから」
「そんな事無いと思うけどなぁ。それにしても、否定してる割にはなんだか天星さん嬉しそうだよね」
「そ、そんな事無いです!」
渚沙とその友人達の話をこっそり聞いてニヤニヤしながら奏がこちらを見てくるので目線を逸らす。
「なぁ律斗さんや、やっぱりお前ら付き合っているんじゃないのか?」
「何度も言うが俺なんかとあの何でも完璧に出来る天星さんとじゃとてもじゃないけど釣り合うとは思わない」
「……そっか」
結局、奏以降その事を聞いてくる人はいないものの、昼休みまで律斗と渚沙の関係についての噂が絶えることはなかった。
(天星さんってある意味危険人物だなぁ……これからはなるべく関わらないようにしとこ)
このままでは、教室にいるとなんだかとても居た堪れなくなるのでとりあえず教室を出て何処か落ち着いた場所で昼食を取ることにした。
ちなみに律斗はいつも自分で作ったお弁当を持参している。いつもなら奏がいるので1人でお弁当を食べる事は無いのだが、何故か今日はその肝心な奏が居ない。まぁ、トイレか飲み物でも買いに行ったのだろう。
さて、どうしたものかと歩きながら考えていると目の前に赤いコーンで封鎖されている階段の入り口が見えた。
そこは普段立ち入る事が禁止されている屋上へ行くための階段だった。
(此処なら誰にも邪魔されることはないな)
階段を上がり屋上へ行くと、とても開放感がある景色が見えた。しかも今日は梅雨の時期には珍しい快晴だったので空には梅雨を忘れるかのような雲一つない青空が広がっている。
「んん〜、綺麗だなぁ。昼ご飯食べた後にせっかくだから昼寝でもしようかな」
手を伸ばして背伸びしながらそんな事を考えていると後ろの方から話し声が聞こえてきた。
もし、先生ならマズい。見つかったら職員室に直行間違い無しだろう。
何処かに隠れられる場所は無いかと辺りを見渡すと掃除道具などを保管している小部屋があるのが見えた。
「とりあえず、あの部屋に入ってやり過ごすか!」
急いで小部屋に向かい静かにドアを開けて部屋に入り身を隠す。中は掃除道具などがあったが意外と広い。これで一件落着だろう。後はここで暫く時間を潰しておけばなんとかなるはず………だった。
「な、なななんで此処にいるんですか!?」
「え?あ、天星さん!?」
実は小部屋には先客が居たのだ。それもどんな偶然かそこには昨日お世話になり、隠れて昼食を取る羽目になった噂の原因の美少女の姿があった。
あまりの突然の事にビックリしつつもなんとか冷静になって状況を整理する。
「えっと、天星さんは何で此処に?」
「それはその……クラスの皆さんに昨日の事で質問攻めにあって教室に居られなくなったので……」
「そっか。なんかその……ごめんな」
「い、いえ!気にしないでください!私が霧原くんに傘を貸したいと思って貸しただけなの事なので!」
「そうなのか?なら良いんだけど……」
「は、はい。なのでこんな感じで噂が広がっていますけど、私は別に気にしていないので大丈夫ですよ」
「天星さんがそう言ってくれると助かる」
ボソッ「と言うか、別にこんな感じで噂が広まったとしても私は逆に嬉しいというか……」
「ん?何か言っt……」
「すごーい!屋上って結構広いんだね」
「本当だ、結構広いな」
天星さんが何か言ったようだったので聞きなおそうとした瞬間、男女の会話が聞こえてきた。
そういえば天星さんが居た事でビックリしてすっかり忘れてたけど誰かが此処に来るようだったから小部屋に入ったんだった。
「先生じゃなかったのか……安心した」
「安心するにはちょっと早いんじゃないんですか?」
「え?どうして?」
「だって、ただでさえ私達の噂が広まっているのにこの状況を見られたら完全にアウトじゃないですか」
あ、ホントだ。と言う事はこの状況かなりヤバいんじゃないのか?小部屋に年頃の男女が2人っきり、しかも朝から噂になっている2人が一緒に居る所を見られたら完全にアウトだ。
てか今更だけど天星さん近くない!?めっちゃいい匂いするんだけど!?
今更ながらもこの現状に動揺しながらもなんとか平然を装う。
「と、とりあえず、あの2人が帰ったらこっそり出るしかないな」
「そのようですね。何事も無ければ良いですけど」
その発言はフラグじゃないのかと思いつつもいろんな意味で早く帰ってくれないかと願っていると、ある事に気がつく。
「ん?待てよ、さっきの男子の声、何処かで聞いたことあるような……」
「え?本当ですか?」
確認するために律斗はドアの隙間から外の様子を覗いてみる。
「それで話って何かな?」
「うん、あのね、前々からずっと佐々木くんに伝えたかった事があるの……」
「うん」
「私、ずっと前から佐々木くんの事が好きでした!付き合って下さい!」
『「え」』
聞き覚えがあるのもそのはず、ドアの隙間から見えたのは律斗がよく知っている
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