第4話雨の日の出来事
「最悪だ…」
授業が終わり帰宅しようとしていた律斗はため息を溢す。
登校前に見たニュースの天気予報では一日晴れとの予報だったから心配無いと思い傘は自宅に置いてきていた。
しかもこんな時に限ってどしゃ降りになるとは……
(折り畳み傘を鞄に常備しておけば良かったなぁ)
そんな自分の不甲斐なさに後悔していた。律斗は面倒くさがりな性格なので自分の不備に後悔することがよくある。
奏は部活に参加していて一緒には帰れないとの事なのでどうしようかと悩んでいる時、普段はあまり聞かない透き通るような声が後ろから聞こえた。
「あの……もしよかったらこれ使いますか?」
振り返るとそこには手に持っている傘を差し出しているいつかの駅のホームで目が合った銀髪の美少女が目の前に立っていた。
てっきり自分以外は帰ったものだと思っていたので正直驚いた。
「いや、それを借りると天星さんの使う傘が無くなるだろ。気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「いえ、私には折り畳み傘があるので大丈夫ですよ」
「……いいのか?」
「はい。それにこの雨の中、傘もささずに帰って律……いえ、霧原さんが風邪を引かれては困りますからね」
「そういう事ならありがたく使わせてもらうよ」
「どうぞ」と彼女から傘を受け取って渚沙は自分の鞄から折り畳み傘を取り出す。
それは高校生が使うにしては実に可愛らしい絵柄の折り畳み傘だった。
「随分と絵柄が可愛らしい折り畳み傘だな。誰かから貰ったりしたのか?それとも天星の趣味?」
なんとなく気になったので聞いてみると渚沙は優しく微笑んで折り畳み傘を大切そうに抱えた。
「はい。これは幼い頃、大切な人から誕生日プレゼントに貰った物なんです」
「そうだったんだ」
「はい。もう随分と前に貰ったものですけど今でも有り難く使わせてもらっています」
折り畳み傘を何処か懐かしそうに微笑んで眺めている渚沙に律斗はドキりとしつつも目線を逸らす。
(天星って笑うとこんな顔するんだな……)
「じゃ、じゃあありがたく使わせてもらうよ。後で絶対返すからその時にまたお礼させてくれ」
「別にお礼なんて良いですよ。困った時はお互い様です」
ニコっと笑う渚沙の顔を律斗は直視することは出来なかった。
だって学校1の美少女がこんな地味で何処にでもいそうな一般男子の俺に笑顔を向けているんだぞ?眩しくて直視なんて出来るはずが無い。
(改めてみたけど天星さんって普段から皆んなにこんな感じの笑顔で接しているのかな?もし俺なら絶対普通に話せないな……)
「あの、どうかされましたか?」
考え事している律斗は顔を伺うように渚沙が顔を覗き込んでくることに気がつかなかった。
「!?い、いやなんでもないよ!えっと、傘ありがと!それじゃ!」
「え、あ、はいさようなら……」
渚沙の突然の行動にびっくりして急ぐように雨の中借りた傘をさして走って駅へと向かう。
この胸の高鳴りは急いで走ってるせいなのか、はたまた渚沙のせいなのか……この時の律斗は知る由もなかった。
おまけ(天星渚沙視点)
渚沙は雨の中急いで走って行く律斗の後ろ姿を見送りながら先程の会話の余韻に浸る。
「やっぱり……あの時の事覚えていないのかな……?律斗くん」
あの時の事を本当は思い出して欲しいし、仲良くしたい。でもそんな資格、私には無い。
だってあの日の事を思い出して欲しく無いから……
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