これって地球のバッテリーじゃないっすか?(🔋100%)
ちびまるフォイ
バッテリーを充電して地球を救え!
「なんだあこりゃあ」
炭鉱で穴を掘っていた男は見慣れない金属を見つけた。
地面からひらべったい金属の表面が見える。
男たちは協力して埋まっている金属片の正体をつかもうと周囲を削った。
全容を把握するには何ヶ月もの時間が必要だった。
地面に埋まっているのは巨大な単三電池形状のバッテリーだった。
「これは地球のバッテリーです。間違いありません」
科学者は引っ張り出された巨大なバッテリーを解析して答えた。
「地球のバッテリーだって? それじゃこのランプは何を示してるんだい?」
「バッテリーの残量かと」
「おいおい! だったらもうバッテリーなくなりそうじゃないか!
地球のバッテリーが切れたらどうなるんだ!?」
「それをこれから調べるのです!
このバッテリーがどこからきて、地球にどのように作用するのか。
そしてこれが尽きたときにどんな影響が起きるのか。
有識者を集めてたくさん会議と検証と会食を繰り返して……」
「そんなことやってる間にバッテリー尽きちゃうだろ!」
少なくとも今こうしている間にも地球バッテリーにより生活できていて、
バッテリーが尽きることがけしていいことでないことは明らかだった。
そんな中、バッテリーの前にやってきたのは風力発電所の男だった。
「ご安心ください。このバカでかいバッテリーを私が満タンにしてあげましょう」
「だ、大丈夫なんだろうな……」
「もちろんです。私どもの風力パワーは無尽蔵で給電できます。
これは地球全体の問題ですから私にも力を尽くさせてください」
発電所の男は地球のバッテリーに給電ケーブルを取り付けると、発電機を動かした。
地球バッテリーを囲む人たちは充電ランプの行く末を見守った。
「……変わってないな」
「そんなことありません! よく見てください!」
「……いや、やっぱり変わってないよ」
「風力発電はフルパワーです! 充電されるに決まってます!!」
地球バッテリーは回復するどころかむしろ少しづつ減っている気がした。
不毛な時間が流れているとき、炭鉱の男がひとりつぶやいた。
「そもそも、どうして電気で充電できることになってるんだ?」
「え? いやそれは……形状がどうみても電池だし……」
誰もが電池の形状=電気で充電すると考えていた。
手を変え方法を変えても地球バッテリーに充電できないことを考えると、電気ではないのかもしれない。
「とにかく調べてみましょう。電気以外のもので充電するのかもしれません」
科学者は地球バッテリーに近づいて表面に手を触れた。
すると、その場にぱたりと倒れてしまった。
「……お、おい? 科学者の先生?」
「し、死んでる!」
「誰か電気流していたのか!?」
「そんなわけないだろ! とっくに止まってる!」
「じゃあなんで死んだんだ!!」
地球バッテリーの近くは大騒ぎになった。
さっきまで続けていた給電も止められてる。
科学者がどうして死んだのか誰にもわからない。
「見ろ! バッテリーがほんのちょっぴり回復しているぞ!!」
誰もが科学者を見守っている中、充電残量のランプを見ていた男が叫んだ。
今まであれだけ必死に電気を流しても回復していなかったランプが今はじめて回復した。
「まさか、この地球バッテリーは命で充電されるんじゃないか……」
「すぐに家畜を大量に用意するんだ!!」
世界中の人達は協力して牛や豚などの家畜をたくさん集めては地球バッテリーの穴へと放り込んだ。
「どうだ!? 回復したか!?」
「回復したぞ! やっぱり命で給電されるんだ!」
「ようしやったな! この調子でどんどんいこう!」
「でも、こんなにちょっぴりなんだな」
「え? そう?」
おびただしいほどの動物の命を地球バッテリーに吸わせたはずなのに、
地球バッテリーはせいぜい人間数人分くらいしか回復していなかった。
「おっかしいなぁ……なんでだろう」
「牛や豚がよくないのかな」
そこで今度はたくさんの動物で比べてみることにした。
わかったことは知能の高い動物の命ほど、給電されやすくなるということ。
牛1000頭の命を吸わせるよりも、人間1人だけ捧げるほうがずっといい。
そこで人間のトップリーダーは呼びかけることにした。
「人類のみなさん、聞いてください。今、地球のバッテリーはピンチです!
自殺したい人や生まれた子供を捨てたい人は地球のバッテリーへ!
みなさんの命でこの地球を救いましょう!!」
人間の生贄を推奨するようなこの宣言は人権団体から末代に至るまで批判された。
「人間の命を使い捨ての充電装置のように扱うなんて!!」
「しかしすでに地球のバッテリーは減っているんだ!
動物の命で給電していては遅すぎて、先にバッテリーが尽きてしまうんだ!」
「だからって人を犠牲にするなんて間違っている!!」
「こんなことで争っている時間もないんだ!」
地球バッテリー残量から残り時間も限られている。
人間の命で充電しないことにはすでに間に合わない瀬戸際まで来ていた。
倫理を手放した人間たちは自分たちの細胞を使って大量のクローン人間を養殖した。
「間に合え……! 間に合えーー!!」
残されたわずかない時間でクローンを量産しては地球バッテリーに投げ込んだ。
地球バッテリーの周りには折り重なった死体が積まれる。
「どうだ!? 回復したか!?」
命を吸い取られた人間を引っ剥がして地球バッテリーの残量を確認すると、
今まで灯っていた赤いランプから緑のランプまで回復した。
「やった!! やったぞ!! 地球のバッテリーが回復した!!」
ついにフル充電となった地球は元気を取り戻した。
失われていた自然がみるみる蘇り、草木が生い茂り元の姿を取り戻してゆく。
コンクリートの地面は樹で裂かれる。強烈な突風で煽られた海の波で街は水没していく。
やがて人間の痕跡が跡形もなくなった頃、
地球は一定数の生物の生死を繰り返しながら放電と充電を繰り返していった。
これって地球のバッテリーじゃないっすか?(🔋100%) ちびまるフォイ @firestorage
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