ななにん

シメ

書き起こし

以下は単独事故を起こした患者の話を録音し、書き起こしたもの。

聞き手は担当医、場所は○○病院の特別個室。

患者の混乱を防ぐために担当医と患者のみで会話を行った。


*


 深夜に海岸沿いを歩いてたんです。友達と。友達は井上(※)と吉田(※※)って名前なんですけど。

 突然吉田が「誰かにずっと見られてる」って言い出して、キョロキョロしたんです。オレらもそれにつられてキョロキョロしたけど、何もいなくて。吉田は昔からビビリなところがあったから仕方ないんですけど。

 「そんなんだからオメーは舐められんだよ」って井上が言うと、吉田は「本当なんだよ!」って大声で言い返しました。ビビリなのに。それでやめておけばよかったのに、何度も何度も何かがいるって言いまくるから、井上が苛立っちゃって。井上は気性が荒いから、カッとなって吉田のことを殴ったんです。

 吉田の歯が飛んでいきました。オレはその様子を見ているだけでした。井上の暴力に巻き込まれるのは嫌でしたし。オレも前に井上からひどい目にあったことがあるんですよ。バイクとオレをロープで結んで走るとか。エアガンの試し撃ちの的にするとか。

 んで、吉田は殴られてて、井上は殴り続けてました。オレ以外のやつもその様子を見ていました。いるって分かるんだけど、どんな姿かよく分からないやつらが。七人だったかな。楽しそうに見てました。

 そのうちオレは見てるのに飽きて、駐輪場へ向かいはじめました。途中で振り返ると七人はいなくなってました。吉田は動かなくなってました。井上はいなくなってました。いつものことなので気にしませんでした。

 オレは駐輪場でバイクに乗りました。最近買ったお気に入りのバイクだったから、乗ってるだけですっげー嬉しくなれるやつでした。で、気持ちよくバイパスを飛ばしていたのに、気がついたらここに寝ていました。起きたら全身が痛くなっていました。

 先生はともかく、吉田たちはこんな話聞いてて面白いか?



(※患者の友人に井上という人物は実在しない。)

(※※患者の友人に吉田という人物はいない。無関係の同名の男はいたが、数年前に車で事故を起こして死亡している。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ななにん シメ @koihakoihakoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ