持続可能な社会に向けた都市部における式神の利用について

Yukari Kousaka

全文

〈概要〉

 二〇三〇年までのSDGs達成と持続可能な社会の実現および二〇五〇年の脱炭素社会の実現に向け、様々な新エネルギーが注目を集めている。新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法に定められた通り『技術的に実用段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないもので、非化石エネルギーの導入を図るために特に必要なもの』である新エネルギーの範囲については、これまでの技術革新の進捗等を踏まえて種々見直されてきた。「発電分野」「熱利用分野」「燃料分野」について十種類が指定されており、発電分野には中小水力発電・太陽光発電・風力発電・バイオマス発電・地熱発電が、熱利用分野には太陽熱利用・雪氷熱利用・バイオマス熱利用・温度差熱利用、燃料分野にはバイオマス燃料製造が分類されている。しかし周知のように出力が不安定である、エネルギー密度が低い、発電コストが高く設置場所も限定されるなど問題点も多く、事業を通じて社会の課題解決に取り組む企業にはリスクが伴う。

 したがって今回は最新エネルギーとしての「式神」の利用を提案する。式神とは陰陽道などで使われる鬼神・使役神のことで陰陽師以外の人の目には見えない存在であるが、古代より優れた陰陽師である安倍晴明の雑務をこなすなどその有用性も示されてきた。式神は現在提唱されている新エネルギーを超える有用性を秘めた重要なエネルギー源になるのではないか、また化石エネルギーよりも優れた点の多さゆえに脱炭素社会を早期に実現する契機となりえるのではないかと考えている。本記事では式神とは何か、都市における式神の利用実験、その長所および短所について記していく。



〈目次〉

  概要

 一 式神について

 二 都市における式神の利用実験

 三 式神を利用する長所・短所

 四 式神以外の新エネルギーについて

  考察

  文献



一 式神について

 前述の通り式神とは陰陽道などで使われる鬼神・使役神のことで陰陽師以外の人の目には見えない存在である。陰陽道は古神道に道教の陰陽五行思想や、密教などの思想が執り入れられて習合したものであり、現在の神社神道にも思想や儀式が引き継がれている。式神は古神道の高位の神とは異なり荒御魂の神霊、いわゆる「荒ぶる神」や「妖怪変化」の類である位の低い神を呼び出し使役する。式神には「思業式神」「擬人式神」「悪行罰示式神」の三種が存在している。思業式神は思念によって陰陽師が作った式神を指し、藁人形や紙を用いた人形に霊力が込められたものは擬人式神と呼ぶ。そして、悪行罰示神は悪行を働いた過去のある式神のことで陰陽師によって倒され調伏され式神になった存在を指す。現在登録されている式神は思業式神が最も多く八千体程度、悪行罰示式神は二千体程度である。擬人式神はその場で紙や藁などに術式を込める式神であるため個体数の把握は難しく登録の必要はないとされている。式神は犬・象・鬼神など陰陽師によって姿や調伏方法などは異なるが、多くの場合十程度の式神を調伏し、二体程度顕現させることができるとされている。当該論文の調査に当たってご協力頂いた陰陽師の九条雅直(くじょうまさなお)氏は主に動物の形を持つ思業式神を十二種使役するという。内訳は子(ねずみ)、丑(うし)、寅(とら)、卯(うさぎ)、辰(りゅう)、巳(へび)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(にわとり)、戌(いぬ)、亥(いのしし)。十二種全ての調伏が完了しているとのことで、それぞれに正式名称もあるがここでは割愛する。

 近年に至るまで陰陽師となることができるのは陰陽師の六家(宗家及び五行を分け与えられた分家五家)だと信じられていたが、近年の陰陽道研究によって非術師も登録呪物や式神との接触を通して式神を視認することができると分かった。式神を視認した非術師は陰陽師の元で修行し一種以上の式神を調伏することで陰陽師と認められる。最初に調伏した式神と共に複数の式神を調伏していきさらに複数式神の顕現および使役も可能となる。九条雅直氏の出身でもある陰陽師六家の一つ、九条家の調伏方法は物理的な支配を顕現から二十四時間以内に達成することだ。結界を利用せずに拘束する、既に使役している式神によってある程度のダメージを与えるなどが含まれる。九条氏は最初に「戌」を単独で調伏し、残る十一体のうち八体を戌と共に、三体を他の陰陽師と共に調伏したという。戌の調伏にかかった時間は一週間程度であり、決して難しくはない。

 持続可能な社会に向けた都市部における式神の利用のために、本記事ではある程度非術師も式神を使役できる状態になっているという仮定で提案を進めたい。既に日本では人口全体の一・二六五億人中約千人が式神を十種以上使役できる状態になっているため、継続した陰陽師の教育を徹底することが重要になる。経済産業省資源エネルギー庁などが今後式神エネルギーを統括し、利用について先導していくことを期待したい。



二 都市における式神の利用実験

  式神エネルギーの提案に当たってその有用性を調べるために京都府内で実際に式神を利用する実験を行った。以下の三つを連続する三日間(八月七日・八日・九日)の同時刻にそれぞれ開始した。

 ①工場における電力の代わりとしての式神の利用

 ②公共交通機関におけるガソリンの代わりとしての式神の利用

 ③冷却剤としての式神の利用



 以下にそれぞれの実験の過程および結果を記す。



①工場における電力の代わりとしての式神の利用

 八月七日、京都府大山崎町にある鉄工所および京都府京田辺市にある製菓工場に協力を依頼し重化学工業における式神利用と食品工場における式神利用を調査した。午前八時に九条雅直氏は鉄工所に、弟である九条雅爾(くじょうまさちか)氏は製菓工場に到着した。(注を参照)午前八時から午前十時にかけて準備を行い工場全体の電力を止め、式神による作業を午前十一時より開始した。式神は雅直氏、雅爾氏両名とも紙製の擬人式神百体および思業式神「戌」一体を利用した。

 雅直氏の紙製擬人式神紙百体は通常通りの電力を生産し工場内すべての電気を賄っていたが、二時間後に式神の過剰使役のため術式が途切れ急遽追加で百体を使役した。結果、鉄工所のように莫大な電力を消費する場では擬人式神の術式では不完全であり常に陰陽師による補助が必要となることが分かった。思業式神「戌」は単独で各所に配備された擬人式神の状態確認を行い、陰陽師による補助が必要と判断される場合には陰陽師にのみ聞き取りが可能な遠吠えを行った。

 一方で雅爾氏の紙製擬人式神は食品工場の三時間稼働が可能だった。雅直氏の術式追加を受けて鉄工所に比べると電力消費の少ない食品工場でもどの程度術式が維持できるのかを追加調査する必要があるが、三時間は維持できることが判明した。

 これらより、鉄工所および食品工場の電力の代わりとしての擬人式神および思業式神の利用は限定的だが有用であると分かる。



②公共交通機関におけるガソリンの代わりとしての式神の利用

 八月八日、京都市内のタクシー・バス会社に協力を依頼し市内の公共交通機関における式神利用を調査した。午前十一時から雅直氏および雅爾氏両名の擬人式神各百体(計二百体)をタクシー・バスに付着して走行させた。

 擬人式神二百体は両名の付与した術式通りに京都市内を走行し、事故やダイヤの乱れなどを起こすことなく三時間が経過した。バスに付与された術式は事前に決められた道順に従ってバスを走行させるというもの、タクシーに付与された術式は乗客の音声を認識し事前に登録されたその地点への最短距離に従って車両を走行させるというものである。タクシーはやや高度な術式を必要とし、音声認識が上手く行かなかった際には運転手の補助を必要としたため改善の余地がある。式神を付与した車両、付与していない車両の違いは乗客には知らされておらず、運転手も通常通り全車両に配備されていた。実験後に擬人式神を付与した車両に乗っていた乗客全てにアンケート調査を依頼したところ、無回答を除く全乗客が常時との違いに気がついておらず公共交通機関における式神利用の有用性が証明された。

 また当該実験において音声認識以外の点で運転手の補助なく擬人式神が術式通りにバス・タクシーを走行させたことから、今後私物車両の自動運転にも式神が利用されるのではないかと考えられる。



③冷却剤としての式神の利用

 八月九日、四条通に雅直氏の思業式神「辰」を配置し辰の息を冷却剤として使用することが可能か調査した。午前十一時に雅直氏が辰を顕現させ、四条烏丸から四条通を行き来させながら呼吸を行うよう命令した。式神は一般人には認識できないが、辰などの大型式神になると呼吸などから冷気が伝わる。

 午前十一時、四条通に設置した気温計は最高で三十七度を示していた。通常ならば気温の上昇がみられる午前十一時半には三十七度を維持し、正午には三十六・四度を示した。午後十二時半には三十六度に達し、午後一時には三十五度、午後二時には三十三度となった。

 四条通のみという限定的な利用ではあるが都市の冷却剤としての式神利用は可能であると証明された。

(注・九条雅直氏および九条雅爾氏の実力差はほとんどないことが事前の調査で明らかになっている。別添の表を参照。)



三 式神を利用する長所・短所

 限定的とはいえ式神という代替エネルギーの可能性が現実的なものであると証明された。式神エネルギーの利用には多くの長所があるが、同時に短所も存在している。その両方について記していく。

 長所は五点。一点目は擬人式神の利用における紙や藁の消費以外では一切のコストがかからないという点である。化石エネルギー、非化石エネルギー共に生産・消費に莫大なコストがかかることは周知であり特に温室効果ガスなどを排出しない新エネルギーには化石エネルギーよりも高額な費用を要求される。式神エネルギーへと転換することで持続可能な環境整備のための予算を個人・企業・政府共に他方面に当てることが可能になるのだ。

 二点目は設置場所を必要としないという点である。陰陽師が術式を付与し配備するだけで式神エネルギーは作動・消費が可能であるため、再生可能エネルギーの問題点としてしばしばあげられる水力発電や風力発電のようにエネルギー生産のための場所を必要としない。これはコスト削減にも関係している。

 三点目は天候に影響されないということである。水力発電・風力発電・太陽光発電など多くの再生可能エネルギー、新エネルギーには天候が重要になる。しかし式神エネルギーには式神が調伏しているか否かのみが重要であり天候が関係しない。需要と供給のバランスが崩れ大規模停電や公共交通機関の停止が発生する恐れは少なく、思業式神と陰陽師による定期的な術式の検査を行うことによって円滑にエネルギーを提供できる。

 四点目はエネルギー変換効率が低くないことである。水力発電を除いて太陽光発電や風力発電など主力となる再生可能エネルギーの発電効率は火力発電や原子力発電よりも低いことが問題となっているが、式神利用は一つの術式で一か所の電力を全て賄えるため非常に便利である。火力発電や原子力発電の発電効率の高さには劣るが、決して需要と供給のバランスが見合わないほどではなく今後も術式強化などによってその効率は上がることが期待されている。

 五点目は現時点で既に一定以上の性能を期待できるという点である。太陽光発電や地熱発電など、現在開発中の新エネルギーの多くが実用段階に達しつつあるものの導入には長い時間が必要となるが、式神エネルギーは現在使われている非化石エネルギー・化石エネルギーを停止し、その場で利用できるのである。また実験の過程と結果から分かるように、多くの術式を利用しない限りでは自動運転や作業の補完など高い性能が期待できる。二〇三〇年も近い今、式神エネルギーの導入は非常に現実的だ。

 他方で一点のみではあるが短所も存在している。陰陽師の数が現時点で少なすぎるということだ。「持続可能な社会に向けた都市部における式神の利用のために、本記事ではある程度非術師も式神を使役できる状態になっているという仮定で提案を進めたい。」としたものの、日本のみでの普及は早期に達成できても世界での普及はかなりの時間を要することになる。また非術師が陰陽師になろうとする機会は以前より増えたとはいえ限られており、日本全国のエネルギー供給には間に合わない可能性がある。その場合、非化石エネルギーと相互に利用していく必要があり、この点はまだ検討不足である。



四 式神以外の新エネルギーについて

 式神は現時点で考えられる最も効率的なエネルギー源であると推測されるが、代替案として他のエネルギーも同様に検討した。以下が検討されたエネルギー源である。

 (A)屍者

 (B)バタフライ・エフェクト

  


(A)屍者

 ヴィクター・フランケンシュタイン名誉教授の研究を引き継ぐ英国王立屍者研究所に協力を仰ぎ英国では既に新エネルギーとしての導入が進んでいる屍者が式神を式神と比較した。

 屍者が式神と比較して優れている点はそのユーザビリティの高さである。式神が陰陽師かそれに師事した非術師しか扱うことができないのに対して、屍者は生産された後は使用者の属性に関わらず言語による命令で動力となる。

 屍者が式神と比較して劣っている点はその動作の遅さがあげられる。「命令を受けて死者が一歩踏み出したものの、それは我々生者が歩くような自然さがすっぽるち抜け落ちている。」とジョン・ワトソン氏が述べたとおり非常に鈍くぎこちない動きが特徴的である。式神ほどの性能はないが、代筆や単純作業などには適しているであろう。

 なお近年アレクセイ・フョードロヴィチ・カラマーゾフ博士がさらに高性能でほぼ生者と同じ俊敏性を持つ屍者を開発したとの論文が発表されており、査読後実用化される運びになる可能性がある。



(B)バタフライ・エフェクト

 バタフライ・エフェクトあるいはバタフライ効果(バタフライこうか、英: butterfly effect)は、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とはその後の系の状態が大きく異なってしまうという現象である。

 今回はハンドスピナーによるバタフライ・エフェクトを調査したが、現象の発生先の指定が現在の科学技術では非常に困難であり、かつ現象の大小を指定できないというデメリットから実験はすぐに中止された。大阪府豊中市内のバタフライ・エフェクト研究所で行われたハンドスピナーの回転により、アメリカ合衆国フロリダ州で大規模ハリケーンが起きたことを報告する。 

 


〈考察〉

 二〇三〇年までのSDGs達成と持続可能な社会の実現および二〇五〇年の脱炭素社会の実現に向け、これまで検討されてきた再生可能エネルギー、新エネルギーに加え式神を利用することを提案してきた。実験より、陰陽師の能力や必要となるエネルギー量によって多少の差があるものの多くの場合高い性能のエネルギー供給を実現することが可能になりそうであると分かった。

 短所である陰陽師の恒久的な人員不足問題については次の三点による解決を考える。一点目、陰陽師のための専門学校を作り公教育を通してエネルギー生産人員を確保する。化石エネルギーの生産者が今後減少していく中で、新たな求人としての陰陽師という進路を提案していく。二点目、現役陰陽師には多くの補償を確保した上で次世代の陰陽師が広く活するまで式神によるエネルギー供給に携わってもらう。三点目、現役陰陽師と共同で式神を認識するために必要な呪具を出来る限り多く生産し、陰陽師の基盤を確立させる。

 これらにも課題があるが、化石エネルギー、非化石エネルギーのデメリットを考慮すると明らかに式神利用によるアドバンテージが上回っていることが分かるのではないか。

 持続可能な社会の実現、後世へのよりよい環境の提供のためにも我々は新エネルギーとして都市部における式神の利用を強く推薦する。



〈文献〉

  平成九年法律第三十七号 新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法

 

  環境省 持続可能な開発目標(SDGs)の推進

  

  経済産業省 資源エネルギー庁資料


  E. N Lorenz、杉山勝・杉山智子(訳)、1997、『ローレンツ カオスのエッセンス』初版、共立出版 ISBN 4-320-00895-2


  合原一幸・黒崎政男・高橋純、1999、『哲学者クロサキと工学者アイハラの神はカオスに宿りたもう』初版、アスキー ISBN 4-7561-3133-6

                               


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