他人事とは思えない物語に涙

勇者を読ませていただきました。

【物語は】
強いというだけで人間から疎まれ、殺されそうになる魔王が主人公。自分自身のことをよく知っている魔王は、人と関わりを持たないように配慮をしながら生きている。しかし、弱き者である人間は彼女が強いというだけで、勝手に恐れ亡き者にしようとしていた。

まるで多様性を認められない社会の、縮図のような物語。
人間とはとても身勝手な生き物。自分と違うというだけで排除しようとしたり、自分の価値観を押し付けようとしたりする。だが一人一人は違う生き物であり、長所もあれば短所もある。そして、その長所が万民にとって長所とは限らないこともあるし、人によっては短所を長所と感じることもあるだろう。本来、尊重しながら生きるべきであり、認め合い助け合って生きていくべき。そんなことを考えさせられる物語である。

主人公は、平穏な日々を暮らしたいと願いながらもそれが叶わずにいた。そんな彼女にとって向日葵という花は、特別な花であった。

【この物語から、暗に感じるもの】
この物語には、いろんなメッセージを感じる。多数で向かって来る勇者とは、イジメ問題を指しているのではないかと感じたり、その中での一人で向かって来る勇者とは、家庭内での虐待を仄めかせていたりと直接的ではないものの、多様性についてや社会問題を連想させる物語だ。

【物語の魅力】
この物語には、文字ならではの表現法が使われていると思う。同じ言葉を繰り返すことによる、気持ちの強さ。行動による憎しみ、悲しみの表現など。心情がしっかりと書き込まれていることにより、感情移入しやすく同調もし易い。人によっては胸が押しつぶされそうな気持になったり、喪失感を味わうこともあるだろう。それほどまでに、主人公とある勇者との出会い、その後も丁寧に描かれており、主人公の想いも伝わってくる作品である。

【登場人物の魅力】
主人公は、勝手に人から魔王と呼ばれていただけで平和を望んでいた。誰も殺したくはなかったし、誰も傷つけたくもなかった。そこに現れた勇者は、孤独な彼女を癒した。誰にも産まれて来たからには生きる権利があるはず。何もしていない彼女から、勝手に恐怖を感じ命を奪う権利は誰にもなかったはずだ。この主人公は、自分の心を癒した勇者と平和で穏やかな日々を願った。それを貫いていた。それが奪われた時、きっと彼女は誰よりも人間らしい感情で、悲しみを払おうとしたに違いない。だが、その行動に意味がないことも気づいている。彼女の真の強さは、なんだろうかと考えさせられる。

【物語を通して】
あなたはこの物語を読んで、何を思うだろうか?
魔王と勇者の物語と感じるだろうか?それとも、社会問題を思わせる物語と受け取るだろうか?人によって感じ方は違うものの、強いメッセージ性を感じるに違いない。

どうすれば結末を変えられたのだろうか?
そんなことを考えてしまう物語です。とても心が揺さぶられる作品だと思いました。是非あなたも、お手に取られてみてくださいね。

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