第19話4-4興味の対象
【普通2号くん、この勝負は私の勝ちやね。負けたんだから、罰ゲームとして何か秘密を言いなさいよ。いつまでお母さんとお風呂に入っていたのかとか、友達に裏切られた瞬間のトラウマとか、初恋の思い出とか。ただし、私から見て面白くなかったら、何回も言い直しね。根掘り葉掘りあなたのことを知ってやるんだから、覚悟しなさいよ!】
【普通2号くん、この勝負は私の負けやね。負けたから罰ゲームとして、私の秘密を言います。私はあなたのことが好きです。一緒にいると時間があっという間に過ぎるくらい好きです。でも、その事を言うと、今から死ぬ私のとこを重しに感じると思って言えませんでした。嘘をついていました。すみません。あなたのことをもっと知りたいわ。あなたが私に脈があるのかを冷静に見つめて判断しようとしましたが、無理でした。あなたが何を考えているのか全くわかりませんでした。学校で話をしようとしても嫌がられるし、あなたから話しかけてくれたと思ったら難しい話をしてくるのだから困ったものです。もっと困ったことに、学校で倒れて登校できなくなったこともあったけどね。でも、そのおかげであなたとバス停で再会ができたと考えたら不幸中の幸いです。こんなこと言ったら馬鹿にされるかもしれないですが、白馬の乗った王子様みたいなものです、ちょうど自転車に乗っていたし。そのあとは無理にデートに誘ってごめんね、お母さんとの醜いところを見せてごめんね、再び倒れてごめんね。そして、死にゆく私に勉強を通して相手してくれてありがとうございます。こんな私ですけど、これからもよろしくお願いします。それでダメなら、友達に裏切られたトラウマを言います。私は友達の好きな男子に好かれた時に、友達から無視されました。よくある話です。そして、これもよくある話ですが、そうならないようにするために男っぽく振舞うようにしました。普通の女の子っぽい女の子になることを諦めました。男っぽいことを演じる自分に疲れていたし、周りからそう見られることが嫌でした。だから、あなたみたいに私のことを女の子として扱ってくれた人に興味をもちました。以上です。それでもダメならもう1つ、私がお父さんと一緒にお風呂に入っていたのは小学6年生までです!】
僕はケータイを彼女の母親に返しましたが、その人はこのメールを送ろうかと提案してきました。僕が断るかどうか決めかねているところに、その人は送信してきました。僕は思い出にふけることがない性格なので、正直に言って要りませんでした。
「ごめんね。でも、これであの子も浮かばれる気がするの」
「僕もそう思います」
僕は紋切り型の言葉しか言えませんでした。特に何も思うところがなかったからです。もう、彼女のことに関するやり取りは飽きていました。
僕は式場から一人で帰り始めました、というのも一緒に帰る可能性がある唯一の友達と離れ離れになったからです。普通なら彼女との思い出にふけるのかもしれませんが、先程も言ったとおり僕はそういう性分ではありません。僕はコンビニ帰りと同じような感覚で気楽に歩いていました。
そういえば、彼女と出会ってからは時間が経つのが早く感じたものです。ジャネーの法則に従うと僕が年をとったということであり、アインシュタインの考えに従うと僕が彼女のことをかわいいと思っていたということになります。それはどっちも正しいと思いますので、これらの理論の正しさが証明されたのでもう興味はありません。
ところで、彼女が僕にこのメールを打とうとしたのはどうしてだろうか? このメールでいくつかの謎が解明されて多少はすっきりしたのですが、このメールを含めて僕から見ての謎がいくつか残ったままです。僕が思うに、普通の感性なら解明出来るのかもしれませんが、これ以上深入りしてもきりがないのでこのへんで切り上げるのがいいでしょう。
僕はポツリポツリと光が灯る家々の前を通りながら闇夜を歩いているわけですが、春がまだ遠く感じる寒い風が衣服の隙間を忍び込んできます。それは僕の肌の1つ1つを注射針のように刺していくものでした。僕が思い出すに、あの時の病室は冷房が効きすぎていて寒くて苦しく、彼女に話しかけるために外に出たらちょうど良くなり心地よかったです。
「普通はね。でも、普通でなかったら?」
僕は彼女の口癖をつぶやいてみせた。この言葉はいい言葉だと思うし、もしかしたら彼女のメールの内容は普通とは違う解釈で見えてくる光景があるのかもしれないです。でも、僕はもうそのメールにも興味がなく、注射の痛みを思い出すばかりです。
僕が思うに、時間がゆっくり流れていく
じかんがはやくながれてく すけだい @sukedai
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