うつろい

 他の人は皆秋は淋しい季節だと云うけれど、私は春の方が淋しい。

 冬から春に変わっていく頃。

 まだ花が咲く前の、寒いような時折暖かいような陽気の頃。

 白々と夜が明け、夢から覚めていくような心地になる。

 名残惜しい夢の記憶を辿っても、煙のように散っていく。春の白い陽射しの中に、次第に余韻も薄らいで、ぼんやりと月日の端に忘れていく。跡形も残らず、うつろう時が浚っていく。


 そうやって幾度もの春が巡り、幾つもの淡い夢を忘れながら、私は大人になった。

 これからもそうして生きていくのだろう。

 巡ぐる季節に、私は歳を重ねていく。

 やがて夢も見なくなり、季節に浚われ私も残らず融けていく。


 いつかの春に……


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